第19話

 



「その薬は、誰が調達していると思います?」

 私の問いに、ハロルドの弟であるネイサンがとても悪い笑顔になります。

「兄ですね。使用人や侍従では、陛下や王妃陛下にバレてしまいますから」

 私もそう思います。


「結婚前に生まれた子は、例え両親が誰か判明していても私生児扱いでしたわよね」

「はい、そうですね」

 カレーリナが嬉しそうに笑います。

「それは王族でも変わりませんわよね?」

「例外は認められておりませんね」

 タイラーも悪い笑顔で笑います。

「王族との結婚の最低条件は……」

「学園を卒業している事ですわ」

 私の視線を受けて、サンドラが答えてくれます。


 そうなのです。

 結婚前に生まれた子は、二人が婚約関係にあろうが、例え両親が認めていようが、法律が嫡子と認めないのです。

 しかも庶子ですらなく、私生児になるのです。

 普通の貴族であれば、令嬢は学園を休学して結婚、出産をしてから復学となるでしょう。

 学園を卒業する事は、貴族としての義務ですから。

 身持ちの悪いふしだらな令嬢だと後ろ指をさされる事になりますが、後継を産む為だと我慢します。

 自業自得ですけど、過去に例が無いわけではありません。


 しかし、王族は違います。


 学園を卒業していない令嬢を、例え側妃でも迎える事は出来ないのです。

 妾の産んだ子は、王族の血が入っていても、王族にはなれません。

 そして、一度でも出産をした令嬢は王族へ嫁げません。

 遥か昔は処女でなければ側妃にもなれなかったようですが、最近は緩和されました。



 閨事を覚えたばかりのお二人です。

 さそかし事でしょう。

 盛りのついた猿のように……いえ、猿に失礼ですね。彼等には種の保存という崇高な理由がありますから。

 快楽に溺れる為だけに行為に及んでいる、どこかの誰かとは違いますわね。


「兄の部屋にあるはずの薬を偽薬と取り替えましょう」

「今からなら、卒業間に合わないですわね」

「王太子のお手付きで子までいれば、どこも引き取らないでしょう」

「学園を卒業しても、側妃にもなれません。ですが子まで生ませれば妾にするしかなくなりますね」

 あぁ、皆様、本当に頭の回転が早くて察しが良いですわね。



 側妃として受け入れて、ゴミ箱になってもらうつもりでしたが、ひとつだけ懸念がありました。

 後継者問題です。

 側妃の子は、王位継承権がありますから。

 でもこれで全ての憂いが解決しますわ。


 フローラ、良かったですわね。

 妾であれば、貴女の大嫌いな礼儀作法も王族としての教育も、全て受けなくて良くなるのですよ?

 まだ学年が上がって1ヶ月も経っておりません。

 あと3、4ヶ月以内であれば、充分ですわ。

 お腹が大きくなれば、学園に通う事も難しくなるので、すぐに妊娠しなくても大丈夫なのです。


 前回も卒業時には妊娠しておりましたものね。

 少し、予定が早まるだけですわ。



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