34話 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の証言④
私はライブと握手会に参加するため毎週末兄の家に泊まりに来ていた。
でも、この3ヶ月間はライブが無かったり、私の用事があったり、兄が風邪をひいたりが重なったりで来れない日が続いた。
こんなに長期間兄に会わないのは初めてだった。
その間に兄はヒロに誘われキャバクラに行ったらしい。
そこで兄を接客したシエルというキャバ嬢にしつこく連絡先を聞かれ困った兄は、普段ならハッキリと断る性格だが
その日は共演者の誘いの断り方が悪いと注意されたばかりだったので
仕方なくほぼ更新していないプライベートの鍵垢のSNSを教えたと、私に話していた。
後から兄のSNSを見ると、シエルからしつこくDMは来ていましたが、兄は当たり障りの無い返信しかしていなかった。
けれどシエルの「店の裏に猫が捨てられていた」という投稿を見て猫の安否が気になった兄は、初めて自発的に彼女に連絡を取った。
シエルは猫を口実に自分に会いたがってると勘違いして文字のやり取りでは話は進展せず、とにかく店に逢いに来てくれとしか言われず、渋々承諾の返事を送った。
でも兄はお店の場所すら覚えていない程興味がなかったので、翌日、松浦に「あのお店どこのだっけ?」と尋ねたのです。
そしてお店に行った日の後、シエルの家に行き、彼女が保護していた子猫を譲り受けた。
シエルは既に二匹の猫を何年も飼っていてので、飼い方を教えて貰うのに何度か家に行っていたようなやり取りがSNSに残っていました。
兄は人の家に行く時に手ぶらで向う性格ではないので、過剰な手土産を持って行ってたのでしょう。
それでシエルは勘違いしたのか、SNSに匂わせ投稿をするようになっていった。
2週間程経った時、譲り受けた子猫が中々餌を食べてくれずシエルに相談していました。
この頃既に兄は、猫と初めて長く接した事で猫アレルギーを発症し始めていたけれど、最初の症状は軽い痒み程度であまり気にしてはいなかったようだ。
餌を食べないのは同じフードに飽きたからだろうと、シエルが自分が飼ってる猫達が好むフードを
何種類か分けてくれるというので、受け取るのにレッスンスタジオの外で会った時に
彼女の服や持ち物に付いていた他の猫の毛で完全にアレルギーを発症してしまいました。
目の粘膜が一気に腫れて、涙も出て咳も出て
その姿は、側から見るとまるで「号泣しているよう」に見えたのでしょう。
兄の猫アレルギーは一度発症した後は病状は一気に悪化し、譲り受けた子猫でも同じくらい酷い症状が出るようになりました。
それでも一度育てると決めた以上安易に手放す訳にもいかないし、何よりもう情が湧いていたので手放す選択は出来ず
兄は、強めのアレルギー薬を服用してどうにか耐え
実家に「猫を譲り受けたのだが、猫アレルギーを発症してしまったので引き取って貰えないか?」と連絡してきました。
私も両親も動物は好きなので直ぐに了承しましたが、兄は血縁関係がある私にもアレルギーが遺伝している可能性が高いので、検査を受けてからにした方が良いと慎重でした。
私は兄の言う通り、電車で二駅の少し都会の病院で検査を受けました。
その結果が出るのが一ヶ月後だったので、その間だけ兄が薬を飲みながら猫と暮らすことになったのです。
兄は元々連絡は頻繁にしてくる方でしたが、猫を飼い始めてから更に増え
猫の寝顔や餌を食べてる姿の写真を毎日何枚も私に送って来ていました。
離れなきゃいけないのが分かっていたせいか余計に溺愛するようになり
最近はペットカメラ買ってレッスンの合間にも子猫の様子を確認しているんだと、私に電話で話していました。
「お兄ちゃん絶対ニヤニヤキモい顔してるから気を付けなよー?」と忠告しましたが
多分兄はずっとニヤニヤしながら子猫を見守っていた事でしょう。
――まるで彼女からのラインに喜んでいるかの様に。
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