【濁り男】 上
「オバケが、オバケが出たの……!!私は悪くないっ!!!」
震えた声で、色々と聞いてくる周りの大人達に訴える。
私はわるくない、わるくないもん……!
だって、あんな事になるなんて、思わなかったんだから……!!
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「有栖川ー!! 女子から呼ばれてるぞ!!」
「え? 誰だろうっ!?」
クラスメイトから呼ばれて、パタパタと小走りでドアまで駆け寄る。
羊山さん以外に親しくしている女子なんて居ないし、他のクラスなら知り合いレベルですら、とても少ない。
「あ。有栖川くん。
まだ教室に居てくれて良かった、少しいいかな?」
俺を呼んだボブヘアーの少し背の高い女子は、やはり俺の知り合いではなかった。
そもそも制服が中等部の物じゃないし。本当に俺に何の用事だろう?
困惑が伝わったのか、彼女は慌てて言葉を続ける。
「ごめん、いきなり言われても困るよね……。私、高等部の麻生 七華。
ちょっと君と、お話ししたい事があって。」
「俺と、ですか? 良いですけど……。」
ほんとう? 有難う。と、にこやかに御礼を言った彼女は、不意に俺に顔を近づけ耳元でコッソリと囁く。
いきなり吐息が耳に掛かり、その言葉の内容も相俟って心臓が跳ねた。
「此処では話せないから、少し移動しましょう?」
ぇ、ええええー!!!!
これ、もしや、俺にも春が来たのでは!?!いやでも!?俺には羊山さんが!!あぁでも!!麻生先輩も凄く可愛いし!
彼女に大人しくついて行きながら、もしやの展開にキャーキャーと有頂天になって思考が暴れ回る俺を、呆れたように新谷先輩が見下ろす。
『よくまぁ、想像だけで此処まで喜べるね? まだ告白されると決まった訳じゃないのに。』
うるさいな!!!
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「有栖川くん、怪異について詳しいんだよね? 小学生の私の姪が怪異の被害があったみたいで、相談したいの。」
ですよねー!!!!
心で号泣しつつ表面上は平然としながら、連れてこられた空き教室で話を聞く。
「うちの姪ちゃん、実は数日前まで行方不明になってて、家族や警察……勿論、私も必死に捜索してたんだけど。
……つい最近、川のほとりで気絶しているのが発見されたんだ。」
何気なくトンデモナイ話をされてる気がする。
ここら辺で年端もいかない女の子が行方不明になってるだなんて、全く知らなかった。
「行方不明になった当日に一緒に帰ってたらしい姪ちゃんのお友達の子が言うには、学校帰りに川に落ちた帽子を姪ちゃんが取ろうとしたら、水中で手が伸びて姪ちゃんを引き摺り込んでいったみたい。」
正直、眉唾な話だけど、実際に居るんでしょ?怪異って。
力の無い苦笑いを浮かべながら、麻生先輩が一言こぼす。
実際、西岡くん他数名、この学校でも何人か怪異による被害に遭っているため、麻生先輩も信じざるを得ないのだろう。
「その[川の中から伸びた手]以外の情報はありますか? 流石に情報がこれだけだと、怪異を絞りづらくて。」
「ううん。どの怪異なのかは、もう特定されているの。……【濁り男】って怪異らしいわ。」
曰く、綺麗な水を濁らせてから水中に男の姿として現れ、水に浸かった箇所を掴んで幼い女の子を引き摺り込むらしい。
俺をワザワザ個室に連れ込んだのも、今回の件で【濁り男】が結構ウワサになっているからだそうだ。
個人的な内容を、根掘り葉掘り聞かれたくないのだろう。
それにしても、へぇ、珍しい!!
新谷先輩が調べる前に怪異が詳しく分かっているなんて!
「姪ちゃん、今も意識不明なんだ。
もしかしたらまだ怪異の影響が残っているのかもって思っちゃって。
お願い、少しでもいいから何か情報を掴んだら教えて。」
そう頭を下げて、麻生先輩は帰って行った。
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『濁り男……?』
彼女が退室しガランとした空間で、新谷先輩が神妙な顔で呟き、俯く。
え、どうしたんだろう?対処法を考える為にも、はやく【挧 】で、もっと詳しく調べて欲しいんだけど……?
何となく不安になって、彼の言葉の続きを持った。
『莉玖くん、落ち着いて聞いて。』
顔を上げ、珍しく少しだけ強張った顔をした彼が衝撃の言葉を発する。
『そんな怪異、存在しないよ。』
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