子供の将来
妻の寝息を隣で聞きながら、アーサーはジクジクと胸が焦げ付くような痛みを感じていた。
ヴィクトリアと一瞬だけだが目が合った気がした。嘗ての婚約者であったアーサーに気付いた上で、優しく微笑んでくれた。それだけで救われた気分になった。
(彼女にも随分迷惑をかけただろうに…)
婚約者であるヴィクトリアよりも、恋人のアンヌを選んだことに後悔はない。
ただ、正式な手続きをして婚約を解消していれば、自分達夫婦の実家があれ程の悲劇に見舞われることは無かったのではないか。そう思うと、やるせなさを感じる。
コレットの事件で明らかになった悲劇。
もはや知らなかった頃には戻れない。
(ヴィクトリアの子供達…男の子は恐らくエミリーよりも年上だろう。名門私立の制服だった。
貴族の男子が通う学園ではなく、実力主義のエリートのみが集まる進学校に通っているのか。随分と優秀な子供を持ったものだ)
元婚約者の息子が自分の娘よりも年上と判断できたのは、進学校の制服を着ていたからであった。
かの学校は、十一歳からの入学。貴族の学校と違って、女子でも通えるため、平民階級の者は立身出世を目指して、子供を進学校に通わせる親が多い。
もちろん、子供をエリートにする事だけが目的ではない。成績が十位以内に入れば、授業料が全額免除になる制度もある。十位以内でなくとも優秀な成績の者は、何かしら優遇処置があるのだ。
何故それほどアーサーが詳しいかというと、彼は娘をその学校に通わせたいと考えていた。
(二年前なら兎も角、今のエミリーの成績ではまず無理だろうな…)
優等生だった娘は既に過去のもの。
成績が最近振るわないのだ。
(アンヌは”女の子だから”と成績の良し悪しを全く気にしていない。嫁にいき、相手の家を守る事がエミリーの幸せだと考えている節がある…)
王都の平民で、専業主婦というのは、実は少数派だ。
大多数の夫婦が働きに出ている。
そうしないと、物価の高い王都で生活は出来ないのだ。
だからなのか、王都では、貴族社会の子供より、一般市民の子供の方が成績優秀者が多いし、熾烈な競争社会でもあった。
(エミリーはどちらかと言うとマイペースな子供だ。今から勉強して進学校に入学できたとしても、彼らとの競争に疲れ果てるのは目に見えている。年頃になれば、生活に困らない相手を見繕わなければならないな)
それは、嘗てアンヌの父親が思ったような内容であった。
そのことをアーサーは知らない。
これからも知ることは無い。
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