第59話閑話 内大臣side

厄介な事になった。


「先の帝の内親王様が入内した」


「はい。藤壺の局に入られたとお聞きしています」


今上帝の内裏に皇女が入内したのは初めてだ。

しかも『藤壺』とはな。

代々、寵妃の局とされている場所だ。


「藤壺の女御…か。寵も与えられずに朽ち果てていくだけというのに、兵部卿の宮も愚かな事をしたものよ」


「桐壺の更衣様に生き写しだと評判ですが」


「似ているだけでは無理であろう。桐壺の更衣が亡き人であったならば形代かたしろ(この場合、身代わり)として寵愛を得られてであろうがな」


今頃、兵部卿の宮は目論見が外れて地団駄を踏んでいる事だろう。

あの宮は少し軽率すぎる。

恐らく、桐壺の更衣同様に愛されて皇子を産むことを望んでいただろうに。

皇女を母に持つ皇子ならば帝に成れる可能性は高い。

一の宮を押しのける事は出来ないだろうが、その次に帝になら十分狙える。

現に、今の東宮様は、主上の実の弟君なのだ。


「目下の問題は二の宮様だな。天は二の宮様に何物も才をお与えになったことやら」


「大殿」


「一部とはいえ愚かしい考えを持つ者が増えた。昔を知る者は、桐壺の更衣が大臣家所縁の姫と感づいていよう。今はまだ静観しているようだが、息子夫婦が二の宮様と親しくしているせいか邪推する者も出てこよう」


弟君大納言は生前、親しく付き合っていた御友人はいらっしゃいませんでした」


「能力の割に気位が高すぎた。同僚との交流も最低限のようだったからな……だが油断は出来ん」


「はい」


「中将達を暫く都から遠ざける」


「避難場所は如何致しましょう」


「遠過ぎず近過ぎない場所が良いな」


「早急に手配いたします」


「ああ、任せた」


生駒ならば問題なく手続きを済ませるだろう。

早ければ来年の除目じもくに潜り込ませる事が可能だろう。





◇◇◇◇◇◇◇


除目:人事。

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