第45話桐壺の更衣の流産、元後涼殿の更衣の出産


僕は呆れている。

両親に。

正しくは父親に。



父帝は醜聞の真っただ中にいるっていうのに、桐壺の更衣とイチャイチャベタベタを繰り返していた。

図太い。

まともな神経の持ち主なら病んでるぞ?

ただでさえ母更衣を離さない父帝は、遂に、母更衣を清涼殿で暮らすように命じた。

阿保かな?

余計に醜聞に尾ひれたつくだろ!

案の定、尾ひれがついた。



「主上は一体何時になったら桐壺の更衣を里下りさせるのだ?」


「桐壺の更衣の容態が心配だと清涼殿に住まわせて、早、三月みつき。一向に里下りさせぬとは」


「帝はこのまま御所で産ませる気ではあるまいな」


「いや、幾ら何でもそのようなことは……」


「あの帝の事が。有りえようぞ」



もーしらん。


世間の悪評など知ったことか!と言わんばかりに、桐壺の更衣と人目をはばからずイチャつく父帝。まあ、人目っていっても清涼殿の中で、だけどね。息子の目なんて全く気にしない両親を気遣うのもバカバカしくなったので、大弐の乳母を伴って僕は『桐壺』に帰った。

いや~~~~。

教祖母親信者女房が居ない空間っていうのは実に快適だ!

落ち着いた静かで平穏な日々。

これだよ、これ!

これを求めていたんだ!


「桐壺の更衣様とそのお付きの女房達が居ないだけでこれほどに穏やかに過ごせるのですね」


大弐の乳母も感心していた。

信者でない女房達の顔も心なしか明るくなった気がする。


このまま平穏無事に過ごしたい、と望んだのがいけなかったのか、神は僕に新たな試練を課した。





――桐壺の更衣、流産――



その凶報が『桐壺』にまで伝わってくるまでの間、既に他の妃たちは詳細を知り尽くしていた(流石だ……)。



「御子が流れておしまいになったそうですわ」


「医師たちが派遣されたようですが間に合わなかったとか」


「それが、駆け付けた時は閨の最中で、中に入れなかったそうじゃありませんか」


「まあ!日が高くなっているというのに、そのような行為に耽っているから悲劇が起こったのですわ」


「更衣の自業自得というものです」


「主上の寵を他に向けられては困るのでしょう」


「にしても、身籠っている時にそのような事をしているとは、浅はかにもほどがあります」


「御子の事など何も考えていないのでしょう」


「母親としての自覚が無さ過ぎますわ」



僕が清涼殿に行くまでの道のり。

簾の向こう側から聞こえてくる言葉の数々。

母更衣が流産した事しか知らなかったので、彼女たちの会話は実に勉強になる。


清涼殿に籠ってヤッてる最中に流産した。

うん。医師達も治療できないわ。

部屋に踏み込む訳にも行かず、出てくるのを待ってからの治療だったんだろうな。

憐れ、医師。気の毒過ぎる。






――清涼殿――




「何故だ!何故このような悲劇が起きたのだ!ああ~~~~~~桐壺の更衣との吾子が……」


父帝は嘆きているけど、同情はしない。

だって、身重の母更衣に、好き勝手やりたい放題してたら当然、流産の危機になるよね?

医師や薬師にも諫められてたよね?

無責任にも「大丈夫ですわ。帝と更衣様の御子ですもの」と言っていたのは、桐壺の更衣付の女房達だけ(真に受けるなよ!)。



清涼殿が嘆き悲しんでいる中、元後涼殿の更衣は十月に無事に出産。

生まれたのは皇女。


女二の宮の誕生である。


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