第28話 あかり対天狗

「天狗!? 実在していたのか! ――――っ、まずいなぁ」


(妖怪で言ったら超がつくほどの有名。たぶん、あかりの正体である妖狐以上の知名度……この戦いが『概念』と『概念』のぶつかり合いなら……)


 そんな翔の考えとは無関係にあかりと天狗の戦いは続いて行く。


「速い……この速度は、私――――いや、わっちよりも上か」


「――――」


「ふん! 誇りもせぬか。可愛げのない奴め! 燃えろ狐火」


「――――天狗火」


「むっ!? わっちの火にぶつけて相殺した。いや、自分のスピードを生かすために灯りを狙ったのじゃな!」


 無音。 そして、視界は殺された。


 しかし、それは互いに同じ条件。


(……天狗は夜に活動するなんて話も聞くが、この闇を利用する戦術、戦法なんぞ聞いた事もない……はずじゃが、さて)


 ――――その直後だ。


「むっ? 地震? ――――いや、『天狗の揺さぶり』ってやつか!」


『天狗の揺さぶり』


 人を驚かせるために、深夜に建物を揺さぶるという天狗の話だが、今宵揺さぶられたのは自然の大地。


 その自然をも操る天狗の力に人妖の神と言われたあかりですら、明確な隙を作らされた。


「狐の妖怪。その命、いただく」


「速い! いや、速すぎる!?」


「かまいたち」


「くっ!? 回避が間に合わな――――」



 その斬撃。


 風から生み出された剣撃は吸い込まれていくようにあかりへ、何度も撃ちこまれていく。


「まぁ、回避が間に合わなければ、防御を固めれば良いだけの話じゃがな」


「おぉ、怪物か? 我が斬撃を受けて平然と歩いている」


「ふん、見た目ほど平然としているつもりはないのじゃがな」


「なぜ……」


「ん? なんじゃ? 言いたい事があればハッキリと言わばよかろう?」


「なぜ、それほどの力を有しながら、村人を攫う?」


「――――ん? それは、お主ではないのか?」


「……我は守護者。山の神を信仰する者は、妖怪も人も守護する者」


「はん、何を偉そうに言う。わっち等を人さらいと勘違いしたのであろう?」


「まだ、貴様らが無罪だとは思っておらんが――――どうやら、新しい事件が発生したようだな」


「? 何を言っておる?」


「やれやれ、呑気だ。 貴様も同行者が神隠しに会った事に気づきもせぬか?」


「……翔先輩?」


 あかりは、自身の恋人がいるはずの方角を凝視する。だが――――


「い、いません? 先輩、隠れてないで出てきてください……先輩? 先輩!?」


「その動揺。ただの同行者ではなかったのか?」


「うるせぇ! 天狗野郎がっ!」


「なっ――――」


「あの人は、私の婚約者なんだよ! お前と、お前なんとか遊んでいる隙に、連れて……連れて……連れて……許さない。先輩を連れ去った存在……例え神仏の存在だとしても、ぶっ殺すと意識した」


「それほどの相手か。 よかろう、こちらも落ち度があった。手伝ってやろう」


「あん? 手伝ってじゃねぇんだよ!? てめぇ! こき使ってやるわ!」


「……」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


「っ――――ここは? 痛っ! たしか、あかりが戦っている間、誰かに後ろから殴られたんだ」


「気がついた? お兄さん?」


「君は、けあきちゃん? どうしてこんな事を?」


「うん、けあき」


「ん?」


「貴方が、最初に私を見てけあきって人に似ていると思った。だから、私はけあきになった」


「何を言ってるんだ? 意味がわからないよ」


「貴方が似てると思った。だから――――私の『概念』は強化された。そういう能力」


「君は――――けあきじゃないのか?」


「うん、お兄さん。私がなんだかわかる?」


「そうだな。もう少しヒントをくれないかな?」


「だめ、それは時間稼ぎだから」


「簡単にバレたか。そう、あかりが助けに来るまでの時間稼ぎだよ」


「……? お兄さん、変に正直なのね」


「――――」


「あぁ、なるほど。いろいろ考えているのね。例えば――――」


「君が俺の心を読めるか? なんてね」


「お兄さん? 貴方は何者なの?」


「俺? 俺は人間だよ。ただ恋人が人妖の神なんて言われていてね。一緒にいようとするだけでも大変なんだよ」


「それは、普通であると言う事、日常ってのを捨てないとダメなくらい大変なの?」


「そりゃ、そのくらい当たり前だよ。恋愛なんだから」


「驚いたわ。人間と妖怪がつがいになる。そんな事を夢見る人間がいるなんて……」


「夢を見てるんじゃないよ。夢を叶えようとしてるんだよ」


「私は驚いてばかりね。貴方の思考――――人間を学ぶためのはずが、私の心を蝕む毒になっていく」


「そうかい……大変だね。 サトリの妖怪ってのは」


「どうして、それを?」とけあき――――否。 けあきのフリをしていた妖怪は驚きを露わにした。


 


       

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