第9話 翔の怒り

「賀茂あすか……この業界では闇払い最強を伝えられていますね」


「え? 私、そんな最強キャラみたいな感じで言われるの?」


「そうね……漫画で言えば、範馬勇次郎か、五条悟ね」


「私が生まれた日に、それまでの生物最強ランキングの上位陣が1つランクが下がったって事!?」


「貴方が学生時代にやり遂げた偉業の数々を見れば、当然とも言えますよ」


「偉業って! たぶん、貴方が聞いてる偉業ってのは、私が若い頃だったからできた事よ?」


「全盛期は過ぎたって事ですか?」


「どうかしらね? あれは若気の至りと言うか……若い頃は無茶なことほど挑戦したくなるのよね」


「大蜘蛛殺しの雷光再現。 キメラと鵺の二重存在。 八岐大蛇を素手で捻じり切った……噂に尾びれは付き物ですが、今の貴方からは、それほどの強さを感じません。本当に貴方があの賀茂あすかですか?」


「あはははは……衰えたわ。私は衰えて戦うのが怖くなったから教師になったの」


「それでも、人妖の神……妖狐と戦うつもりですよね」


「いいえ、戦ったわ。戦って負けたから貴方を呼んだのよ?」


「……」


「ごめんなさいね。最強なんて言われる実態がこれで」


「……いえ、話は変わりますが」


「ん? 何かしら?」


「話し込んでいる間、どうやらターゲットは別の出入口から外に移動したようですよ?」


「!? なんですって! 他に入り口があったの? 急いで追うわよ」


「大丈夫です」


「え?」


「お忘れですか? 私たち天王家の人間は、皆が式神使いであると言う事を……」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「先輩、知ってましたね! あの出歯亀教師が来ているって事を」


「いや、先生に出歯亀って……」


「せ ん ぱ い !」


「はい、ごめんなさい。知ってました」


「それで?」


「?」


「それで、先輩はどこまで聞いたのですか? 私の事を!」


「たぶん、全部。人間じゃないって事も」


「――――っ!?」


「でも大丈夫だから」


「せ、先輩!(きゅ、急に抱きしめて! ふわぁ、強い力……でも、不思議と嫌じゃない)」


「俺は、お前の事を――――鳥羽あかりを好きになったのは、お前だからで……なんて言うか……好きだよ」


「~~~ッッッ!?(あわあわあわ! ね、熱烈過ぎて、魂が抜かれるような感覚が――――わっちもしゅき!)」


(し、しまった。勢いであかりを抱きしめてしまったが、これどうしたらいいんだ?)


そんな時だった。


「YO! YO! YO! ここは天下の往来だぜ? へっ、見せつけてくれんじゃねぇか。通行止めにしたいなら金だせよ!」


「すいません、すぐ道を譲るので……(やばいな。ヤンキーが3人)」


「あん? なめてるのかよ? 俺たちゃ金を出せって言ってるだよ」


「くっ!(こいつ、いきなり首を掴んで……なんて力だ!?)」


「これ以上苦しめられたくないなら女を置いて帰れや」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


「なっ! 助けないと!」


「大丈夫ですよ、あすかさん」


「え? もしかして、あの3人組は貴方の式なの? どう見ても人間にしか見えないけれども?」


「はい、人間ですよ。あの軟派者たち3人は私に声をかけてきたので、暗示をかけて妖狐に差し向けたのです」


「ただの人間? 一体なんのために、そんなことを?」


「彼等には私の式神を食べさせて強化した人間。封印されてる本体から離れた狐が、どれほどの力を発揮できるのか、お手並み拝見ですね」


「えっと……貴方の式を食べた人間ってどのくらい強化されるの?」


「はい? まぁ、疑似的な筋肉強化。外部への霊的攻撃が可能……もう人間離れしていますね」


「……その強化人間。あかりさんを相手する前に倒れてますよ」


「え?」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


『護身術』


 昨今のSNSで護身術を披露した場合


「そんな事より逃げろ!」とコメントがつくのを見たことあるだろうか?


 無論、逃げるのは大前提。 しかし、逃げきれなかったら?


 殴りかかってくる相手の攻撃を避け


 もしくは、力任せに掴みかかってきた相手を投げる。


 そのための『護身術』ではあるが、近代武術である考えが生まれた。


 強い突きパンチ蹴りキックが護身術として有効だろうか―――――否。


 華麗な投げから関節技で相手の動きを封じるのが有効だろうか――――否。


 より危険な状態に追い込まれた場合、使用すべき技はより危険な技。


 試合や競技では使用できない危険な技こそ護身術として必要である。


 それを翔は――――


「俺の彼女に手を出すつもりか?」


 躊躇なく危険な技を振るった。


「あんだ? その目――――ぐあぁ!?」


 最初の1人目、翔の首を掴んでいた男は腰から崩れ落ちた。

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