機械細工のゴーレム~それは人間なのかゴーレムなのか?~
MIZAWA
第1話 彼の名前はゲノム
大きなマントでくるまった男が1人村にやってきた。
村人達は俺を不思議な視線で見ていた。
俺は人間と機械の狭間に生きるゴーレムと呼ばれる存在なのだとフランケンシュタイン博士が言っていた。
俺はまぁまぁ大きな酒場に入る事にした。
扉をゆっくり開くと、鼻孔に酒の匂いが入ってきた。
脳みそがそれを酒の匂いだと認識するのに少し時間がかかった。
ゆっくりと歩きながら椅子に座ると、店主がこちらを見た。
「で何にすんだ」
「油を頼む」
「は? 油だと? それをどうするんだ」
「飲むんだ」
店主は気味の悪い視線でこちらを見ると、棚から油の瓶を取り出した。
それを俺に手渡すと、俺は一切躊躇もする事なく、油をぐびぐびと飲み干した。
「ひえ、本当に飲みやがった」
「まぁ、俺にとってこれが食料だ」
「兄ちゃんが何者なのかは問わねー、だがその油の飲みっぷり気に入った。これも飲んどけ」
「それは助かる、だが、店主よ、あまり無理はするな」
「がははは、気にすんじゃねーよ」
俺は心優しい店主から油を2、3瓶もらい受けると、即座にぐびぐびと飲み干した。
フランケンシュタイン博士からは定期的に油は飲むようにといわれている。
あと食事も出来る体だから、時たま食事という娯楽も楽しむようにと言われているが、俺は食事があまり好きではない、まぁめんどくさいからだ。
それに生前の記憶もあやふやだし、まずそこから補填していき、記憶と味を取り戻したいものだと思っている。
油を飲むことに集中していると、酒場の外から悲鳴が聞こえた。
「ったく何事だってんだ」
酒場の店主が外に出ようとすると、外から若者が数名入ってきた。
「やばい、山賊団がやってきた。この村の金を全てと、全ての住民を奴隷にすると、反抗する奴は皆殺しって言ってるぞ」
「なんだと」
「ご馳走になった。店主よ受けた恩は変えそう」
「あんた、バカか」
「いいか、店主よ、この世界にはバカがいる。フランケンシュタイン博士もバカだったんだろう、この俺を最強だと褒めてくれた。俺は最弱さ」
「なんたって」
「大事な人を助けられないで、敵ばかり倒すのは最弱なのだよ」
「あ、あんた」
「だから、馳走になったぞ、店主よ」
その時俺のマントについているフードが風ではためいた。
そこにいる人達はこちらを見て唖然と口を開いている。
彼等はどうやら思いだしたようだ。
マントにくるまった謎の男の伝説。
その男は村や街や国を旅している。
彼は心を探し、それがどこにあるか分からない。
彼こそが、機械細工のゴーレムであった。
「るせーてめーらお縄に」
1人の山賊が俺の隣にやってきた。
俺は右手を突き出すと、そこから衝撃波が飛び出た。
山賊の一人は吹き飛び、酒場の外に吐き出された。
機械細工のゴーレムである俺はドアを開けると、外に出た。
そこには大勢の山賊達が、武器を握っている。
その数は200名は遥かに超えていた。
村人達は必至で建物に隠れている。山賊達はこちらを見て、笑っている。
彼等は俺の周りを取り囲んだ。
俺はマントのフードを翻した。
「ぎゃははははは、機械細工のゴーレムさんよおおおお、こんなとこにいたのか、あんたには懸賞金がかけられてんだぜ、その額は一生遊んで暮らせる額だ」
「ふむ、その懸賞金とはどういう意味だ」
「るせーお前はここえ死ぬんだよ」
「死ぬとはなんだ? 教えてくれないか? 君が死んでみてもらっていいか」
「ふざけるな」
「ふざけてない、俺はこの体でな、死ぬことが出来ないらしい、まぁマグマに溶かせば死ぬんだろうが、それは本当に死ぬという概念なのか?」
「難しいことはわからねー、てめーらやっちまえ」
俺の周りには大勢の山賊がいる。彼等は剣や斧を握りしめて、躍りかかってくる。
全ての攻撃をわざわざ食らう事はせず、右手と左手からサーベルを出現させる。
その動き高速そのものだった。
コンマ数秒、気づいたら20人の山賊達の首が落下した。
他の山賊達が悲鳴をあげて、腰を落とし、後ろに後ずさる。
地面には尿を漏らした後があった。
「ひ、ひいいいいい」
「ライフルだ。こいつにはライフルだぜ」
四方、つまり全ての山賊達がこちらに向かってライフル銃と呼ばれるものを構えた。
四方から銃声が鳴り響くと。俺の体はあちこちからやってくる銃弾に翻弄された。
まるで俺が踊っているようだ。
体から煙が吹き上がるなか、俺は無傷だった。
「で?」
「う、そだろ」
山賊達が唖然としている。
俺には弓も銃弾も通用しない、まぁ大砲なら通用するだろう。
俺の顔はとても見にくいだろう、色々な機械が埋め込まれており、人工筋肉などが埋め込まれている。元の肉体を補填するために機械と融合させた。
命の恩人であるフランケンシュタイン博士がよく笑っていた。
俺の体が生を望んだから生き延びる事が出来たのだと語ってくれた。
「お、お前は何者なんだ。な、名前がないのか」
1人の山賊がこちらを見ている。
「生前は分からない、だが博士が名付けてくれた立派な名前がある。俺の名前はゲノム、そうゲノムだ」
そしてその山賊の首が落下した。
「さて、ちと面倒くさいが掃除をしよう」
その後その村の山賊達は一人残らず、俺に駆逐された。
全員の首が落下し、醜い臭いを発していた。
村人達は恩人である俺に対して恐怖しか抱いていなかった。
彼等はきっと自分たちも殺されると思ったのだろう。
俺はマントとフードを被って、この村から立ち去ろうとした。
「ちょいまてよ、あんた」
そこには店主と、先ほどの酒場にいた人々がいた。
彼等はこちらを笑顔で見送ってくれた。
「あんたには助けられた。本当に1人で200人近くの山賊を皆殺しとは恐ろしい事だ。まぁ選別だ。受け取れ」
俺は大きな瓶に入った油を受け取った。
「助かる。店主」
「こっちこそ助かった。あんた心を探してるんだよな」
「ああ、人らしい心、心が痛くなったり気持ちよくなったりしてみたい。今の俺は何も感じないゴーレムだ」
「なら、冒険者の街に行くといい、あそこで冒険者になって色々と考えるのもいいだろう」
「なるほど、その冒険者とはなんなのだ?」
「まぁ自分の眼で見て来いよ」
「了解した」
そして歩こうとしたら、後ろから声が聞こえた気がした。
それは、自分の名前ゲノムを呼ぶ声。
「そうだったな、博士はもういないんだ」
ゲノムの事をゲノムと呼んでくれる親と言ってもいい人物。
それがフランケンシュタイン博士。
彼はもうこの世界にはいない。
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