運命を変えるため

「ここは……?」


意識が浮上し虚ろなまま辺りを見渡してみる。

外からガヤガヤと聞こえてくる騒音で自分の置かれた状況をすぐに理解出来た。


「そうだ……。行かなきゃ!」


ロゼッタの見せてくれた映像ではバージル達は今にも城に暴れ込むように捉えられた。

下手すれば戦争に勃発する恐れもある、気持ちの焦りは増えていく一方であった。


城門ではベスティニア国の兵士達が3人を取り囲み剣を構えていた。


「ヘルト、ロゼッタを返して貰おうか?」

「おや? そう怒らないで下さいよ。ライアン、さぁ剣を下げてください。僕らの仲じゃありませんか。」

「何が僕らの中だ……。お前は僕を裏切っただけじゃなくロゼッタに危害を加えたんだぞ!」


声を張り上げ手に握っている剣には力が入り今にもヘルトに飛び掛かる勢いだった。


「ライアン、落ち着け。ヘルト殿こちらとしても穏便に済ませたいのです。我が妹はどこです?」

「皆さんから愛されてロゼッタさんは幸せ者ですね。ええ、本当に……。ですが彼女は残念ながら貴方達の事など覚えてもいないかと。」


サラリとヘルトの口から告げられた言葉が殺伐としていた雰囲気を変えてしまう。


「ロゼッタが俺達を覚えてねぇだと……。おいヘルトそりゃどうゆう事だ!?」


ヘルトの胸ぐらを荒々しく掴みかかり声を上げるバージルに兵士達は止めに入ろうとした。


「ふふふ、どうってそのままの意味ですよ。彼女は何も覚えていません。自分自身が誰だったのかすらね、バージル殿、そう睨まないでくださいよ。ライアンだけが、“彼女”を独り占めするのはおかしいと思っただけです。僕にだって母の愛を受ける立場があると思いませんか?」

「何を言ってるんだ……? 確かに俺とお前は同じ母親だったがロゼッタは何も関係ないだろ!?」


ポツポツと降り出す雨の中、ヘルトの頬から涙のようなものが伺えた。


「ええ、関係ありませんよ。ありませんが彼女は容姿だけじゃない、性格そのものも正に“母親”そっくりではありませんか。母親の愛を貰った貴方達には、見捨てられた僕の気持ちなんてわからないでしょう……?」

「お前、それでロゼッタの記憶を消したのか! ふざけんじゃねぇよ! お前の自分勝手な行動で苦しんでんのはロゼッタなんだぞ!?」


バージルの手が振り上げられかけた時だった。


「待ってー、待ってくださいーー!」


塔の上から全力で手を振るロゼッタに皆動揺の声が生まれた。


「あ!? ロゼッタ! そんなとこで何してんだよ!? つーか記憶無かったんじゃねぇのかよ!?」

「バージル様、ごめんなさいーー! 何言ってるか全然聞こえないですーー! 待っててくださいねー! 今すぐそっちに向かいますからっ!」


ヒョイっと軽々塔の上から飛び降り、落ちない様に魔力で頑丈な傘を生み出した。

ゆらゆらと揺られながら地上へ降り立とうとしたがバージルにふわりと受け止められる。


「お前なー! 急にあんなとこから飛び降りるんじゃねぇよ! 心配しただろうが!」

「あはは~。ここに向かってたらお城で迷子になっちゃいました……それに飛び降りた方が早いかなと思っちゃって。」

「相変わらず無茶しやがって。まぁ無事で良かったけどよ。つかロゼッタ、記憶あるよな? どうなってんだ?」


状況が理解出来ないという顔をするバージル達にロゼッタは声を大きくして述べた。


「実は……私ロゼッタさんじゃありません。それに確かに記憶は消されました、消されましたけどロゼッタさんのお陰で思い出したんです! 黙っててごめんなさい!」

「……僕はちゃんと貴女の記憶を消したはずだ。なのにどうして! 僕はこれからも独りになるのか……? そんな未来は嫌だ。」


わなわなと急に震え出すヘルトに警戒しバージルによって強く抱き寄せられた。


「……仕方ない。君と共に居られる方法はこれしかありません。」


言うが早いかロゼッタの体へ【黒石】が触れらてしまう。

髪や瞳は色が抜け始め髪は黒から真っ白へ瞳も紫から黄緑色へと変わり始めた。


(ダメ! また同じ過ちが繰り返されてしまう……! こうなったら……!)


「バージル様! ごめんなさいっ! また“これ”借りますね!」


バージルと出会った時、一度だけ拝見した短剣を奪い取り魔力がヘルトに流れ込む前に自らの胸を刺した。


「な……! おい! しっかりしろ……駄目だ血がとまらねぇ!」


バージルに抱き抱えられ、胸からは溢れ出る血が雨のせいで濁り赤黒く地に広がっていく。


「お願いだ。死なないでくれ……頼む。ロゼッタ……。」


ポツリと雨なのかライアンの涙なのか、ロゼッタの頬へと流れ落ちる。



―*―*―*―*―*ー



「ロゼッタさん、ごめんね。みんなを悲しませてその上死んじゃって……。」


死んだと思っていたがまだ魔力があるお陰なのかひび割れたガラスで出来た紫の部屋へといた。


「私こそごめんなさい、貴女の“運命”を変えてあげられなかったわ……。まだ魔力はある様子だけれどいつ崩れ落ちるかわからない状況ね。」


上を見上げると今にもガラスが落ちてきそうな様子だった。

二人とも死ぬ“運命”なのだろう。


(私やっぱり“運命”には逆らえなかったって事だよね……。あぁ、悲しいな……。最後に見たのが泣きそうなバージルさんの顔だなんて、もっと笑った顔とか見たかったな。)


「すみれ……ありがとうね。ヘルトは力を使わずに済んだわ。悔いがあるとすればもっとあの人と触れ合ってどんな気持ちを思っていたか聞けばよかったわ。」


と呼び表情が一途に悲しげで想う気持ちも感じさせられた。


「ロゼッタさん、やっぱりヘルトさんの事愛していらっしゃいますね……。出来る事ならロゼッタさんとヘルトさんをもう一度お会いさせたいです。」

「ふふ、ありがとう、すみれ。もしも、もしもよ? 会えたとしても何を話そうか悩んじゃうわ……。」


パキパキと悲鳴をあげるガラスに部屋の崩壊も早い事がわかってしまう。


「ロゼッタさんと一緒なら私全然怖くないよ~!」

「すみれは強いわね。私は……少し怖いわ。死んだらこうしてお話する事も出来ないでしょう? どうなっちゃうのかしら。私の魔力は無くなってしまうでしょうし。あの扉に行けばどうにか、なったり出来ないかしら?」


指を刺された扉はいつも向こうの世界へと戻るために使っていた物だ。


「いいね! このまま崩れ落ちるの待つのもなんだし、行こっか!」


感覚のない手を二人して握り扉を開けて入ってみた。

辺りは一切の光もない闇の様子だった。


「やっばりダメか~! ロゼッタどうしよう? 戻る? 待って、なに、あれ……?」


ロゼッタとすみれの遠く離れた所に小さな赤い光がふよふよと浮いていたのだ。


「え、ええ。行ってみましょう。」 


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