大切な家族
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「これはこれは~。あのご令嬢さんは誰だ?まさかこの“カイザラル”国で面白いものが見れるとは思ってもみませんでしたね。」
ロゼッタ一同を遠くから覗き見していた不穏な人の影。
彼が誰なのかまだ知る由もない。
「ふふふふ。これは調べる必要がありそうだ。彼女のお陰で建国祭の舞踏会が楽しみになりました。早くお会いしたいです。強い“魔力”を持つご令嬢さん♪」
沈みゆく夕陽を背に浴びながら彼は暗い夜へと消えていった。
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「……?あれ。私どうなったんだっけ…。」
意識がはっきりとしないままゆっくりと起き上がり、ロゼッタは顔をしかめた。
頭の芯がスギンとする痛みに襲われたせいだ。
「ロゼッタ!良かった、目を覚ましたんだな。」
目が覚めた彼女に対しライアンはホッと安堵した表情を浮かべた。
ベッド横のテーブルには洗面器と濡れたタオルが置かれていてロゼッタはライアンが看病してくれていたのだと確信をした。
「ライアン…、ずっと側にいてくれていたのですね。ありがとうございます。あの子達は大丈夫でしたか?」
「心配して当たり前だろ、家族なんだから。大丈夫だ。警備兵達が対処してくれて無事に家へと帰れたそうだ。」
(よかった、それにしても私が出した“飴”はなんだったんだろ?美味しそうだなぁ~とも思っちゃったけど!)
想像し空腹になる自らの食欲の強さに恐れ入ってしまうロゼッタであった。
「それよりもだ。ロゼッタ一人で突っ走って行かずまず何かあったなら僕でもオリビアでもいいから相談してから行動をしろ。」
「うっ…!大変申し訳ございませんでしたー…。それとライアンに聞いていいのか、わからないのですが私が出したあの“飴”はなんだったのでしょうか?」
「あれは《魔力》だろうな。
(え!?そうなの!?だからロゼッタさん力が強かったんだ…!)
「それじゃあライアンやライリーお兄様も《魔力》を待って生まれてきたのですか?お父様やお母様も?」
「僕は…《魔力》はないんだ。兄貴とロゼッタだけが持っている。親父はフラフラと好きな国に行く奴だからな、しばらくは帰ってこないぞ。
それに僕達の母さんはロゼッタを産んですぐに死んでしまったよ。」
膝の上で両手を強く握りしめ淡々と話すライアンはどこか淋しさを感じさせた。
「そう、だったのですか…。ライアン色々と教えて下さりありがとうございます。」
(そっか…なんだか、神様って不公平だな。誰しも平等とはいかなくても少しぐらい同じな所があってもいいのに。)
「ふっ。なんだよ、その顔。お前が悲しむ必要はないだろ?それに僕には《魔力》が無くてもいいんだよ。頭が良いからな。ロゼッタももっと勉学に励めよ?」
不意におでこをコツンと指先で突かれロゼッタは戸惑った。
「ライアン…。」
(私とライアンさんはほんの少し似てる気がする。ライアンさんには《魔力》が無くて私には《健康》がなかったから。意味は全く違うけど周りに置いていかれる自分の立場がどんだけ辛かったかわかる。)
「温かい夕食食べて今日はもう寝ろ。それじゃあ僕はオリビアを呼んでくるよ。おやすみ、ロゼッタ。」
「ありがとうございますっ。」
気がつけば頭の痛みも取れ笑顔でライアンを見送った。
◇◇◇
「私には無理ですー!!!」
ロゼッタの悲鳴はお屋敷中を響かせた。
悲鳴が響く数刻前、ロゼッタはライリーとライアンと朝食を取っていた。
朝食はマーマレードのジャムとスコーン。
トーストにスクランブルエッグとスモークサーモンそしてトリュフを使ったものだった。
(トリュフなんて高級なものを一庶民の私が食べれるなんて…!ロゼッタ様ありがとうございます!)
美味しさに感動しつつ綺麗に平らげてしまった。
食後の紅茶はアッサムだ、アッサムは濃厚で独特の甘い香りを持つ紅茶とされている。
優雅に紅茶を飲む練習をしているロゼッタにライリーが話しかけた。
「そういえばライアンから聞いたが昨日は色々とあったんだな。また倒れたらしいが今日は大丈夫そうか?」
「はいっ!もうこれでもかってぐらい元気ですから安心くださいー!」
「そうか。だがあまり無茶はするんじゃないぞ。それとだな、来週行われる我が“カイザラル国”の建国祭があるのだが、そこでロゼッタを社交界へ披露させようと思っている。」
(ん?社交界?あの貴族様達が集うというあれ?!)
モグモグとスコーンをリスのように頬張っていたロゼッタは急な話に驚き喉を詰めらせてしまう。
「ウッ…!ゲッホゲホ!!!」
「馬鹿っ!そんなに口いっぱいに頬張るからだっ!兄貴そこの水をかしてくれ!」
「ああ!ロゼッタ大丈夫か!?」
背中をさすりながらライアンは水の入ったコップをロゼッタへ渡した。
一気に水を飲み干し喉にいたスコーン達をなんとか飲み込むことが出来、
(危なかった…スコーン恐ろしい。喉に引っかかっちゃったよ。)
「あ、ありがとうございました…!ふぅー、今度からは少しずつ食べます…。」
「ったく!なんでそんなに頬張ったんだ。たくさんあるんだからゆっくり食えば良かっただろ。」
「それが美味しくてホイホイ口に気づけば入れてしまいまして…。美味しいって罪ですね!」
「アホかっ!考えて口に入れろっ。」
ライアンと漫才っぽくやっているとライリーはパンパンと両手で音を出し、話を戻すぞ!と切り替えた。
(そうだった!社交界に私が出るんだっけ?それじゃあ…“ヘルト”さんと会うことになるのかな?)
「本当は明日に舞踏会を開きそこでロゼッタを披露する予定だったんだが、記憶の混濁の為変更し来週の建国祭にしたんだ。」
(明日を取りやめたって事は私は“ヘルト”さんと会わずに済むってことかも!もしかして未来が変わった?)
確信には至れないが希望が見えてきた事を一人嬉しく思うロゼッタであった。
「ど、どうしましょう…!私ご令嬢としての振る舞いをうまくやれるでしょうか!」
焦りを感じライリーとライアンを交互に見やるが二人とも何故か笑顔であった。
「はっはっは!心配するな。ロゼッタはライアンと俺よりダンスが上手いじゃないかっ!」
「そうだ。ロゼッタのダンスは僕も見たことあるけど見惚れるほど上手かったな。」
(え?え!?それってロゼッタさんだったからじゃないの!?)
「あ、あの~…私記憶が曖昧なのでダンスや振る舞いが出来るかわかりませんよ…?」
震える声で二人に告げるとサァーと顔から血の気が引くのが見えた。
「あー…そうだったな!うーむ、これはまずい状況になったな。ライアン一度ロゼッタと踊ってみてくれるか?」
「なんで僕なんだ。まぁ別にいいが、ロゼッタ大広間に移動するぞ。」
ライアン、ライリーと共に大広間へと移動したがロゼッタの心の中は暴れ散らしていた。
(どうしよう!私ダンスなんてやり方わからない、どうステップ踏めばいいの!)
「ロゼッタ、手を。」
「は、はい…。」
考えさせて貰う余地も無く、手を差し出し優雅に踊るつもりだったロゼッタだが、やはり大惨事となった。
まず容赦なく何度も何度もライアンの足を踏みつけてしまい、しまいには頭突きまで食らわせてしまう始末である。
「やっぱり私には無理ですー!!!」
恥ずかしさと申し訳ない気持ちが溢れ居た堪れず自室へと全力で駆け込んでしまった。
(あぁー…ダンスがあんなに難しいものだったなんて!さすがにライアンさんには悪い事しちゃったな。)
柔らかな毛布に包まれながらロゼッタは盛大にため息をつき、悩み
「ロゼッタさんになって2日目にして大ピンチだー…きっとみんなガッカリしたよね。本当のロゼッタさんは優雅なお上品なお嬢様だったんだろうなぁ~。」
どれほど努力してもロゼッタの全てを完璧にこなせるわけじゃない、それはわかってはいた。
けれど理解と気持ちはまた別物だ。
恐怖が
(きっとみんな今は一時的な記憶の混濁だから仕方ないって思ってくれそうだけど、それが治らないとわかったらどうなるんだろう。)
顔を両手で覆い暗く淀んだ気分がロゼッタを襲った時、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「ロゼッタ、入ってもいいか?」
声の主はライアンだった。
心配して来てくれたのだろうか、けれどロゼッタはどんな顔を会えばいいか悩んでしまう。
(どうしよ。思いっきり足を踏んじゃったし、怒っているかも。)
考えるより行動するか、と決心したロゼッタは毛布脱ぎ恐る恐る扉を開いた。
「ライアンごめんなさい。足何回も踏んでしまって…。」
真っ直ぐ目を見つめ謝る気持ちだったが途端に上を向くのが怖くなりその場にしゃがみ込んでしまった。
するとライアンはスッと床へ片膝をつき頭を優しい手つきでくしゃりと撫で微笑みかけてくれた。
「…私がダンスを出来なくて幻滅しましたよね。前の“私”とは違うからみんな離れていってしまうんじゃないか、って思ってしまって。」
「確かに…幼い頃から今に至るまでずっと接してきた“ロゼッタ”とは違うな。」
これ以上ライアンから聞く言葉に対し不意に拒絶を感じた、目頭が熱くなり涙が溢れそうになり三角座りで腕の中に顔を隠した。
「違うがロゼッタはロゼッタだろ。記憶がなくても変わらない。記憶がないならもう一度一から覚えていけばいいんじゃないか。」
「本当にそれでもいいのですか…?前の“私”と違って覚える能力や何もかも違う、そんな私をみんなが迎え入れてくれるのかって考えると怖くなります。」
「ロゼッタが昨日接したオリビアやバケット、それだけじゃない。侍女達や他の者達はそんな事で迎え入れなくなるような奴らに見えたか?」
ふるふると首を左右に振りそんな事絶対にないと心に強く思った。
「だったら大丈夫だ。どんなお前でも迎え入れてくれる。迷惑をかけてしまうとかって考えるのも無しだぞ。人は誰にだって迷惑をかける時もあるんだからな。」
「ッ…!なん、でライアンはそんなに優しい方なんですか…!」
ぽろぽろと大きい雨粒のような涙を落としとめどなく溢れ出て
「僕の大切な“家族”だからだ。それ以外の理由なんてない。兄貴もそうだろ?」
ライアンは壁際にもたれ掛かっていたライリーへと投げかけた。
「勿論だ。ロゼッタ、俺達が悪かったな。当たり前のように出来る事を押し付けてしまった。」
「それにだ、ライアンとも話し合ったが何もダンスや淑女としての振る舞いを絶対にしなきゃいけないわけじゃない。社交界に出るその事だけが大切なんだ。」
「でもそれだとッ!周りから何を言われるかわかりません…。」
「だからこれは俺からの始めてのお願いだ。来週の舞踏会後、その次の月にもう一度舞踏会を開く。そこでロゼッタには習得した淑女としてのマナーを皆に見せつけてやってほしい。」
(それって…練習、学べる機会を与えて貰えるの?)
「ライリーお兄様!ありがとうッ…ございます。私頑張りますっ!!頑張って見せますっ!」
落ち込んでいた気持ちをあげるようにスッと勢いよく立ち上がり喜びを頬に浮かべ笑顔で答えた。
「ああ。俺もどんな姿を見せてくれるか楽しみだよ。それじゃあ俺はまたお仕事があるので失礼するよ。ロゼッタあまり深く考えず自分の思うように行動しなさい。」
「はい!」
曇っていたはずの心は晴れ暖かく穏やかな気持ちになったロゼッタだった。
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