お兄様が二人!?
汚物一件から数刻ほど経った後、ロゼッタと彼は清潔な服装へと姿を変えた。
「大変申し訳ございませんでしたー!!!」
全力で汚物をぶちかましてしまった美しすぎる王子様な彼へ土下座する勢いで謝罪をしていた。
「ロゼッタ、もう大丈夫だ。頭を上げなさい。それに俺が悪かったな…お前が心配で我が“カイザラル国”の国王との謁見を放棄してすぐに駆けつけたんだ。」
(国王…?え!!すっごいお偉い様じゃない!?そ、それは大丈夫なのかな…?)
心がザワザワと波立ち騒ぎ落ち着かずいた。
「はい。それでその、私記憶が曖昧でして…覚えているのが自分の名前だけなんです。」
驚きのせいか彼は喉が塞がって何も言うことが出来なくなっていた。
(一番重要な“ヘルトさん”については聞けたけどそれ以外のことは何一つ聞けなかったから記憶喪失ですー!で通した方がいいかも。)
今後のことを考えていた時だった。
勢いよくバンッとまた扉が開き入ってきた者へ目を向けた。
なんと、ズカズカと入ってきた者もこれまた美青年だったのだ。
身長は王子様な彼ほどではなかったが、まず顔の美しさが少年を引き立てていた。
細身の身体にスラっとした長い鼻筋に細めのミステリアスを感じさせる赤い瞳、髪は首ほどまでの短さのサラサラな漆黒色、雰囲気は上品さを醸し出していた。
「ロゼッタ!!倒れたならなんですぐに僕のところに連絡くれなかったんだ!心配しただろっ!」
「は、はい!!!すみませんでした…!!」
(反射的に頭を下げてしまったけどこのお方もどちら様!?)
一気に状況が起こりすぎて困惑と不安でふらふらとめまいが起こってしまったロゼッタは倒れかけた。
「わ、わけがわからない~……!」
見知らぬ二人にサッと抱きかかえられたロゼッタだったが気絶してしまうのだった。
「大丈夫かっ!?」
「おいっ!ロゼッタ!大丈夫かよ!?」
ー✳︎ー✳︎ー✳︎ー✳︎ー✳︎ー✳︎ー
「うぅーん…わ、たし、頑張る~…。ぐぅー…ぐががが~。」
スヤスヤと気持ちよさそうに眠るロゼッタを二人は見守っていた。
「兄貴はロゼッタが記憶がないのは知ってたのか?」
「いや、俺も知らなかった。伝達では木に頭をぶつけただけと…だから記憶喪失なんてあり得ないはずなんだがな。」
「なんで僕たちのこと覚えてないんだよ。それにもう少ししたらロゼッタはお披露目の舞踏会だってある。どうするんだ兄貴?」
「そうだな…来週行われる建国祭の舞踏会に変更をするのがいいと俺は思う。起きてすぐ舞踏会なんて言えばロゼッタも不安がるだろう。俺は仕事があってロゼッタに付き合ってやれない、だから“ライアン”お前がロゼッタに色々教えてやってくれないか?」
ライアンと呼ばれた青年は心配が重く心にのしかかり動揺で声が震えてしまう。
「あ、ああ…任せてくれ。兄貴もあんま無茶すんなよ。ロゼッタの事は僕がしっかりみるから安心してくれ。」
「すまないな。さすが我が弟殿は優秀だな!俺は安心して国王の謁見に戻る事が出来る。」
「はぁ!?謁見無視してこっちまで戻ってきたのか!?はぁー…全く兄貴のロゼッタに対する愛は恐れ多い…。」
「そんな事言ってるお前もだぞ、ライアン。大学はどうしたんだ?」
「そ、それは~…。はははは。じゃあな兄貴っ!」
追求された言葉にギクリと、肩を跳ね上がらせたライアンはそそくさとこの場から逃げていったのだった。
ー✳︎ー✳︎ー✳︎ー✳︎ー✳︎ー✳︎ー
「んんー?あれ~…私、なんでこの高級ベッドに~?」
ゆっくり起き上がり寝ぼけながら情報を頭の中で遡っていった。
「あっ!!そうだっ!あの後どうなったんだっけ!?い、いだだだ…!!!」
ベッドから勢いよく動いたせいで目の前に人がいると知らずロゼッタは思いっきり相手へゴンっと重い頭突きをかましてしまった。
「イッ…ダッ…!!!」
痛みが引かない額を触りながら目の前を見ると頭突きを食らった彼は床にうずくまり苦しそうにもがいていた。
「ごめんなさいっ!だ、大丈夫ですか?!」
「あぁ…たくっ。木に頭ぶつけて急に記憶喪失なって倒れるわ、頭突きしてくるわと…どんだけ暴れ放題なんだ。」
痛みに顔を歪めながらもゆっくりと立ちベッドへとドンっと腰を下ろした。
「あ、あははは~。すみませんでした…まさか目の前に人がいるなんて思っていなくて…!」
「はぁー…全くだ。お前に頭突きされたのなんてはじめてだからな。それでどこまで覚えているんだ?兄貴から記憶がない事は聞いている。」
(“兄貴”ってことはさっきの汚物をぶちまかしてしまった王子様はこの人のお兄さんって事なんだ!あれ?でも髪色が全然違ったような…。)
「ロゼッタ?大丈夫か?」
「はいっ!?ごめんなさい…ボーとしてました。えっと、まず私がロゼッタだということはわかっているのですが貴方と先程の彼の事や何もわからなくて…。」
不安がロゼッタの心を襲った、見知らぬ土地に顔や名前もわからない人達に囲まれて自分は一人でやっていけるのかと暗い面持ちになった。
(ダメだな~!こんなんじゃっ!ロゼッタさんに任せてって言ったんだし、私が頑張らないと…!)
「なのでその少しずつ私頑張って覚えていくので色々と教えていただけると嬉しいです!」
笑顔で彼へ微笑んだら何故かポンっと頭を優しく撫でられた。
「そんなに必死に頑張らなくても大丈夫だから。今日は安静にしていろ。いいな?」
「は、はい…!ありがとうございます!」
(優しい人だ…ロゼッタさんはこんなに素敵な人達に囲まれて生きてきたんだね。)
「そうだな、とりあえず軽く説明はしておいた方がいいか。まず僕はライアン・グディエレス。お前の兄で歳は18歳で3歳離れている。」
(しっかり頭に叩き込まないと!)
正座をし、全身の神経を研ぎ澄まし話へと集中した。
「それとさっき僕が兄貴っていってたあの金髪頭もお前の兄貴だ。名はライリー・グディエレス。歳は26歳でロゼッタとは11歳離れていて俺たちと腹違いの兄弟でもある。」
「ライリーお兄様とはすっごい離れてますね!?それじゃあ私と血の繋がりがあるのはライアンお兄様だけなのですね。」
(お兄さん二人!?こんな美形なお兄さん二人もいるって事はお母さんとお父さんはもっと完璧な美形な方達なのでは…?!)
これから会うかもであろう方達へ勝手な想像と妄想を膨らませロゼッタはにんまりと微笑んでいた。
「そうゆう事だ。だからわからない事や不安な事があったら僕を頼れ。勿論兄貴も頼っていいからな。」
「わかりました。ライアンお兄様ありがとうございます!」
「ロゼッタ、違うだろ。」
(ん?私何か間違ったかな!?あ!もしかして呼び方?ライアンさん確かライリーさんの事“兄貴”って呼んでたし、きっとそうだ!)
「ライアン兄貴とお呼びした方がよかったですよね!」
ライアンは目をこれでもかと見開きロゼッタの口から放たれた“兄貴”呼びに衝撃で開いた口が塞がらなかった。
「は?はぁ?!ロゼッタの口から兄貴なんて呼ばれる日がくるなんて…。い、いいか?僕のことはライアンお兄様じゃなくライアンって呼べばいい。前はそうだったんだ、だから気にせずそう呼んでくれ。」
項垂れた頭を撫でてあげるべきかと悩むロゼッタだったが、手をグッと引き止めた。
「ライアン…な、なんだか悪いことをした気分になりますがそうお呼びしますねっ!」
「そうしてくれ。お兄様も兄貴も僕には違和感しか感じなかったから。そういえばロゼッタ、お腹は空いていないか?朝食まだだっただろ?侍女を呼んでくるから待ってろ。」
「わかりました!」
ベッドから立ち上がり扉の方へとスタスタと歩みを進めドアノブに手をかけ部屋から出て行ってしまった。
(ライアンお兄様はライアンで、ライリーお兄様はそのままでも大丈夫なのかな?まぁ今は朝食が楽しみだっ!そういえばロゼッタさんと身体変わってもう数刻経ってるんだよね、お外は明るいからまだお昼なのかな?)
外の天気が気になりベッドから起き上がったロゼッタはナイトドレスのワンピース姿のまま窓へ向かった。
(気になってたけどこのワンピース可愛いな~!)
ロゼッタが身につけていたナイトドレスは白のワンピースで胸元には小さめのリボン、裾や袖口にはふんわりとしたレースが施されていた。
クルクルと回ればふわっと広がるほどの柔らかく軽い素材でもあった。
窓を開け外へと目を向けた。
お昼ではあったが太陽の暖かさ、緑の優しい匂い、少し離れた場所には童話のような色鮮やかな街並みがあり人々の活気もここからでも伝わった。
「素敵な、世界。私ここにこれて良かったっ!もっと色んな人や自然、美味しい食べ物だったりたくさんのことを知りたいっ!ロゼッタさん…私幸せだよ。」
目に涙を溜めながら笑顔で外の世界へ手を伸ばした。
(絶対にあんな酷い未来にならないように私頑張る…今は少しずつ色々覚えていくよっ!)
やるぞ!っとガッツポーズをしていた時扉が開き侍女さんがスープを持って入ってきたのだ。
「ロゼッタ様?お、お加減は如何でしょうか?それだけ綺麗に姿勢が取れるなら大丈夫そうですね。良かったです~!」
「あ…あははは~!!頑張るぞーって一人意気込んでました~。」
(は、恥ずかしい…!!穴があったら埋まりたいー!!)
恥ずかしさのあまりバッと移動し長椅子へと腰掛けた。
「先程ライアン様から伺いました。ロゼッタ様記憶が曖昧との事で…まずは自己紹介ですね。あたしはオリビア・エレバント、25歳です。幼いロゼッタ様をずっとお世話させて頂いてきました。」
「オリビア様…は、はじめまして!ロゼッタと申します!まだまだわからないことばっかりでご迷惑おかけしちゃうかもしれませんが、宜しくお願いしますねっ!」
「ロゼッタ様あたしや他の者達に敬語はお使い頂かなくて大丈夫ですよ。それにオビリアとお呼び下さい。さぁ冷めないうちにこちらをどうぞ。」
優雅にお礼をし、その後テキパキとテーブルにはスープやパンとお腹に優しそうな食べ物ばかりが並べられていく。
匂いにつられ、グーキュルル…と盛大に鳴ってしまう。
「わかりました!あ、じゃなくて…わかったわ!慣れるまでお時間かかるかもだけど、お願いしますっ!」
「ふふふ。さぁごゆっくりとお食事をお召し上がり下さいませ。」
暖かい食事を口へと運びロゼッタは幸せを噛み締めていた。
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