第二章 第2話 不良冒険者

「この街冒険者ギルドあんのかな?」


 俺は街の中を歩きながら、冒険者ギルドを探していた。

 その辺にも、ちらほら冒険者らしき人たちがいる。それを見るに、おそらくこの街には冒険者ギルドがあるはずだ。

 

「すいません」

「はい?」


 俺は一人の男性に尋ねてみる。


「この街に冒険者ギルドってあります?」

「なんだ? 君はここ『ネフィス』は初めてなのかい?」

「そうなんですよ」


 どうやらこの街は、ネフィスという名前の街らしい。

 俺がこの街に始めて来たことを告げると、男性は笑顔になって言う。


「そうかい! よく来たね! この街の近くには鍾乳洞が綺麗な『ネフィス洞窟』っていう観光名所があるから是非立ち寄っていってくれ!」

「は、はい」


 随分と元気な人だな。

 鍾乳洞か……うん、いいね。冒険者登録が終わったら行ってみよう!


「で、あの、冒険者ギルドは――」

「おお、そうだった! ここからあっちの方に歩いて二つ目の角を右に曲がってしばらく歩いたら着くはずだよ」

「そうですか。ありがとうございます」


 俺は笑顔で男性にお礼を言う。そして、言われた道をたどり、冒険者ギルドに向かった。



――――――――


「ここか」


 俺は、他の冒険者たちが出入りしてる建物の前で立ち止まっていた。おそらくここが冒険者ギルドだろう。

 俺はその建物の中に入ろうとする。


「どけよお前。邪魔だ」

「す、すいません」

「ちっ、ガキが」


 すると突然身長190㎝くらいの、背中に刀身3mほどの大剣を背負った筋骨隆々とした大柄な男が俺の肩にぶつかってきた。そしてそのままギルドの中に入っていく。

 なんだあいつ?初対面に向かって失礼な奴だな。

 

 その男の後に、ガラが悪そうな3人の男性冒険者が続いて入っていく。俺を横切るときにそいつらは全員俺を見てニヤニヤしていた。あいつら恐らく一つのパーティだな。あとパーティって冒険者が複数人でチーム組むことね。

 

 まあいいや。俺は気にせずに冒険者ギルドの中に入り、その中を見渡す。


「わお。けっこういるな」


 その中には、数十人ほどの冒険者たちがいた。丸いテーブルを囲って談笑していたり、木の掲示板に貼ってある依頼を探していたり、そしてこのギルドの受付で、依頼を受けるための手続きをしていたり、いろんな冒険者がいた。

 俺はさっそく冒険者登録をしようと受付の方に向かうが、談笑していた二人の冒険者の話に足を止めた。


「そういや特級冒険者序列が更新されてたぜ?俺さっき見たけど6位と7位が入れ替わってた」

「マジ?順位の変動って数か月ぶりじゃね?」

「確かにな。あと特級冒険者序列10位の『薙姫』がこの街にいるって話だ。噂では、まるで女神を思わせるほどの美貌の持ち主らしい」

「は~~。強くて美人とか最強かよ。探せば会えるかな?」

「さあな。けど一目見てみたいな。本当にやばいほどの美人らしいからな」

「もし見つけたら俺ナンパしてこようかな」

「バーカ。てめえじゃ無理に決まってんだろ。まだ三級の半人前冒険者のくせに」

「………けどやってみなけりゃ分かんねえじゃん」


 特級冒険者序列。

 確か特級冒険者の中の上位10名は世界中の冒険者ギルドにその名が掲示されるんだっけ。そして特級冒険者序列10位の『薙姫』か....異名がかっけえ。どれほどの実力者なんだろう。あと掲示板に序列が掲示されてるらしいから冒険者登録する前に確認でもす―――



「てめえ!!依頼受けられないってどういうことだゴラァ!!」

「ひっ」


 序列を見に行こうとしたら受付の方から怒鳴り声が聞こえてきた。他の冒険者も一斉に怒鳴り声が聞こえた受付の方に顔を向ける。

 あれ?あいつさっき俺の肩にぶつかってきた礼儀知らずの奴じゃん。あとあの三人もいる。


「おい、俺様が誰だか分かってんのか? 準・特級冒険者、『豪剣』のアスペル様だぞ?」

「で、ですが....この依頼はまだ.....準・特級冒険者の人には.....その.....」

「つべこべ言ってねえでとっとと依頼受けさせろ!! 紙にハンコ押すだけの小娘風情が俺様に意見してんじゃねえぞ!!!」

「ひっ、あ、あの.....だから―――」


 おいおい。あの女の子今にも泣きそうじゃん。それよりもなんだあいつは?女の子に怒鳴り散らしてて恥ずかしくないのか?あの三人も泣きそうになってる女の子見てニヤニヤしてるし。

 師匠が見てたらあいつらあの世に一直線だぞ?

 てか他の冒険者はなぜ何もしない……。いや、当然か。あいつは準・特急冒険者でそれなりの実力者らしいから怖くて声をかけれないんだ。

 

 仕方ない。こんなの見せられて気分悪いし、これを黙って見過ごすわけにもいかない。ここは俺が何とかするしかないか。

 

「なあ、あんた」

「ああ!!?」

「女の子にそんなでかい声で怒鳴り散らすなよ。男として恥ずかしくないのか?」

「何? てかてめえは……さっきのガキじゃねえか。てめえには関係ねえだろうが。とっとと失せろ!」

「だから怒鳴るなって、うるせえな」


 まじでうるせえ。

 するとこいつの後ろに控えていたパーティの一人がいらついた顔をしてなんか言ってきた。


「おいお前。この人が誰だか分かってんのか? 準・特級冒険者、『豪剣』のアスペル様だぞぉ?てめえみたいなガキが敵う御方じゃねえんだよ! 分かったら土下座して謝れい!」


 なんだこいつ?このアスペルとかいう奴の肩書きを使って俺を脅してんのか?

残りの二人もうんうんと頷いてる。こいつら揃いも揃って全員屑じゃねえか。

 


「で?」

「あ?」

「このアスペルとかいう奴のすごさは分かったけどお前らは何なんだ?」

「何?」

「人の肩書き使って脅すことしかできないてめえらは何級なんだって聞いてんだ」

「ああん!?俺たち三人は全員二級の一人前冒険者だぞ!」

「一人前のくせに女の子泣きそうになってんのを見てニヤニヤしてたのかよ」

「なっ!このガキ……そういうお前は何級なんだよ!」

「俺か?俺はまだ冒険者じゃないぜ?これから冒険者登録するところだ」

「「「「は?」」」」


 俺がそう言うとこいつらは数秒ほど固まっていた。そしてアスペルってやつが大笑いしだした。


「ふはははははは!!!お前冒険者でもないくせにこの俺にたてついてんのか!?

とんでもねえ大馬鹿野郎じゃねえか。ふははははは!!」


そして他の三人も笑い出した。


「はははははは!三級とかならまだしも五級ですらないひよっこのガキかよ!はははははは!」


 まあ普通はこうなるか。こういう奴らはだいたい階級とかで人を判断するから、今はまだ冒険者ですらない俺のことを見下してるんだろう。

 四人は笑い終えると、アスペルが口を開く。


「腹の底から笑わせてくれた礼だ。半殺しで勘弁してやる……よ!」


 するとアスペルは丸太のように太い右腕で俺の顔面を殴ろうとする。他の三人もボコボコになった俺の顔を想像してんのか、またニヤニヤしてる。こいつらニヤニヤしすぎだろ。


「っ!!?」


 だが俺はそのパンチを左手の小指一本で受け止める。

 師匠のあの天変地異を引き起こすほどの化け物パンチに比べたら遅すぎるし軽すぎる。

 それを見ていた他の冒険者や受付嬢たちが目を見開いてざわざわし始めた。そして俺を殴ろうとしていたアスペルは、まさか小指一本で止められるとは思わなかったのだろう。心底驚いたような表情をしていた。他の三人も、一様に驚いた顔をしている。


「あ、ちなみに俺右利きな」

「……てめえ」

「どうする? 続きすんなら表出ていくらでも相手してやるけど、それが嫌なら一回この子に謝れよ」

「………」


 アスペルは俺を睨みつけたまま何も言わない。何も言ってこないため、俺は一つ気になっていたことをこいつに怒鳴られていた受付嬢に尋ねた。


「なあ、受付嬢のお姉さん」

「…は、はい」

「こいつらが受けようとしていた依頼って何なんだ?」

「はい....えっと....こ、こちらです」


受付嬢が少々涙目になりながら、依頼が記載された依頼書を俺に見せる。


「ベ、ベヒーモスを討伐せよという依頼なんですけど....」

「ベヒーモスか...」


 ベヒーモス。

 全長はおよそ15mほど。危険度はAランク。何回か戦ったことがあるが、一番警戒すべきは、その巨体からは想像することができない素早さ。そしてパワーもすごい。     

 普通だったら特級冒険者が複数人で狩るほどの魔物だ。

 こいつらじゃ絶対に無理だ。おそらく目が合った瞬間に一瞬で距離を詰められてそのまま食われて終わりだ。


「おいあんた」

「あ?」

「あんたらじゃベヒーモス討伐は絶対に無理だ。もう少しランクを下げた依頼にしろ」

「なっ! てめえ何様の分際で――」

「冒険者でもない俺にお前のパンチを左手の小指一本で止められてる時点でお前の実力はお察しだろうが」

「っ!!!」


 アスペルの顔に青筋が浮かんでる。相当ブチ切れてるなこりゃ。

 冒険者でプライドが高い奴がここまで馬鹿にされて、この後に取る行動といったらだいたい一つだな。


「こっちが下手に出てりゃ調子に乗りやがって……。お前表出ろ! 俺の小手調べのパンチを防いだくらいで調子に乗ってるガキにこの世の現実を教えてやる!」


 ほーらな。負けを認められずになんかそれっぽいこと言って決闘を申し込んでくるんだよ。師匠もこういう奴にこんなふうに絡まれては返り討ちにしていたって言ってたからな。このままぐだぐだなんか言っても終わらなそうだし、ここは受けて立つか。


「おお、いいぜ。準・特級冒険者様の実力とやらを見せてくれよ」

「……ちっ、どこまでも癪に障るガキだ」


 そう言ってアスペルはそのまま冒険者ギルドの外に出る。他の三人も後を追う。

 

「おい、喧嘩だぞ喧嘩。こりゃまた面白いことになったな」

「お前どっちが勝つと思う?」

「あのガキも中々根性がありそうだけど、アスペルじゃないか?」

「けどあの坊や、あんなに体格差がある相手に一歩も引かずに張り合ってたわよ?しかもあの暴漢のパンチを小指一本で受け止めていたし」


 一部始終を見ていた他の冒険者達が、俺とアスペルのどちらが勝つかを予想していた。てかあいつ暴漢とか言われてるし。


 はぁ....。面倒だからとっとと終わらせて冒険者登録すっか。


 俺は面倒くさそうな表情をしたまま、ギルドの外に出る。



 












 






 



 

 

 

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