9 少年侍従の苦労
続けたまえ、とアンネリアはアイアンをうながす。
「はい。
幼かった自分は王子のその気質が上手く理解できなかったので、何かと帳面につけておりました」
「それは今でも保管してあるのか?」
「はい。自宅にございます」
「後で資料として活用したい。提出する様に」
「了解致しました。
自分はそれがどういう意味なのか次第に判ってきました。
今でも時々その帳面を見返すのですが、訳も判らずつけていたことに対し、過去の自分にちょっと感謝しております。
当時は本当に訳も判らずに王子に叱責、時には殴られ蹴られ、ということもされておりましたが、自分ではその理由がさっぱり理解できませんでしたので。
無論自分には無理だ、辞めさせてくれ、と何度も両親に懇願したのですが、他に何ができる、名誉なことだ、と両親は自分の努力が足りないとやはり叱責してきました。
しかし自分もまた、王子とは違いますがこだわりが強かったので、何処が王子と自分の感じ方が異なるのか、ともかくかく細かく調べていくことで、自分の立ち位置を確立しようと思いました。
何せ両親は頼りにはならないことを、齢十にして理解できてしまったのですから。
自分を守るのは自分しかありません。
ですので、そこは徹底して王子のことを研究することにしました。
そして気付きました。
フットサム王子は我々と物事の認識の仕方が異なっていたのです。
ただ、王子は部分部分においては非常に優秀な方であることも判りました。
自分が間違っていないと思う方向においては、非常に熱心に取り組み、そして成果を出していました。
ですので、予定通り行われた狩りであったり、パーティの挨拶であったり、令嬢達への褒め言葉であったり…… そういうことは確かに良くお出来になったのです。
ですが、あくまでそれは我々侍従のサポートあってのこと。
飛び抜けて優秀な訳でなくとも、誰の手も借りずに全てのことにおいてそれなりにお出来になり、失敗があっても、人あたりの良さでそれが許され、何より本当に人柄の良い第一王子のアルマ様には敵わないのです。
それは何故か。
フットサム王子は人の心の動きが全く判らなかったからです」
「で…… でたらめを言わないで!」
王妃の声が響いた。
「私の、私の息子がそんな何処かおかしいかの様な言いぶり! 不敬にも程があるわ!」
「無論お気持ちはご理解できます。が、自分もまた自分のこだわりによって、淡々と調べ積み上げた結果出した結論を述べているだけでございます。
王妃様、本当にフットサム王子は、自分以外の者は同じ人間とは思っておりませんでした。
それは国王様、王妃様も例外ではありませんでした。
ですので、無論アルマ様、リタリット様という異母きょうだいの方々のことも同様だったのです」
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