第20話 目覚め

 晃司は目覚めたが、現状を理解できなかった。


 ふかふかのベッドで寝ていたからだ。


「知らない天井だ」


 有名なテンプレを口にする機会が自分にも訪れたんだなと思い、何が有ったのか思い出そうとするも頭が痛く、腹が異様に減っている。


 むくっと起きて部屋の中を見る。


 着ているのは黒のシルク製と思われる上等な寝間着で、更に上等な部屋にいると思われる。


 人の気配からそちらを向くと扉が見え、メイド服の女性が1人お辞儀をして出て行く所だった。


 不意にグラスが横から差し出された。


「どうも」


 そう言ってグラスを受け取ると一気に飲み干した。


「ご気分はいかがでございますか?」


 あまり似合っていないがメイド服の背の高い女性だった。

 何故か見覚えがあるが思い出せない。

 すらっとしていて男装が似合いそうな美人さんだ。

 お近付きになりたいなと思う位の顔面偏差値だ。


「えっと、ここは何処で、何故俺はここにいるのでしょうか?それと貴女とは何処かで1度会っていませんか?」


 そのメイド服の女はびくんとなった。


 するとドアが勢いよく開き、ラミィがダッシュでベッドにダイブし、晃司に抱き着いて泣いた。


「晃司!晃司!死んじゃったんじゃないかと心配したのよ!」


 晃司は綺麗に化粧をされており、貴族が着るような服を着ていて見違える程綺麗になったラミィにどきりとした。

 更に抱き着かれたので真っ赤になり、左手にはまだグラスが握られているので、右手でそっと背中を撫でた。


「ごめんね。迷惑を掛けたようだけど、何が何だかよく分からないんだ」


 気配からドアを見ると先日ギルドで見た、そう、アモネスと言っていた王女がいるのが分かり一気に青ざめ、手に持っていたグラスを落としてしまい、溢れた水が床を濡らした。


「どういう事だよ!?なあ、ラミィ、これは?俺は捕まったのか?」

 

 次の瞬間、晃司は己の目を疑った。王女が土下座をしたからだ。 


「勇者様、誠に申し訳ありませんでした!」


「へっ?」


 情けなく唸るしかない。


 何で王女さんが土下座をしているんだ?意味が分からん。

 俺を捕らえて罪を擦り付けようとしているのではないのか?


 でもこの寝間着かなり高いよな?

 部屋も凄いし、ラミィも貴族が着るような服を着ているし、化粧までしているし、髪型も気合が入っているよな。

 これじゃあまるで賓客として迎えられているんじゃないのか?


 混乱する晃司に追い打ちを掛けるように、先程のメイド服の女も王女の横で土下座をし始めた。


 晃司は混乱したが、理由はともあれ女性に土下座されているのは居心地が悪いので、王女の元に慌てて駆け寄ると肩を掴んで立たせた。


「止めてください。何がなんだか分からないけど、これでは俺が女性に土下座をさせているみたいに見られるじゃないですか。そっちの貴女も取り敢えず立ってください」


「申し訳ありませんでした。どうか、どうかお許しを!」


 もうひとりが立たない。

 仕方がないので晃司は王女にしたように肩を掴んで立たせた。

 かなり高く晃司の目線位はある。


 しかし格好から思い出せない。


 ギュルルル


 絶妙なタイミングで晃司のお腹が鳴った。

 すると晃司はふらつき、ベッドに腰を下ろした。


「ちょっと皆落ち着こうよ。その、お腹が減っているのですが、何か食べ物はないですか」


 王女は控えているメイドに指を鳴らして指示をした。


 すると直ぐに軽食を持ってきた。


 ラミィ、王女アモネス、謎のエセメイドが食べさせてくる。

 美女、美少女達がアーンしてくる。夢のようなシチュエーションに悪い気はしないが、晃司は混乱していてされるがままに食べさせてもらい、時折水を飲む感じで至れり尽くせりだった。


 段々と思い出してきた。

 確か野営をしていて寝ている所をワーウルフの群れに襲われ、戦いながら必死に逃げたと。

 確か腹を刺され、死ぬのだ、もうこれまでと死を意識してからの記憶がない。


「えっと、俺は腹を刺される重症を負った筈ですが、王女様達が治療してくださったのですか?」


 アモネスはメイド達を下がらせた。


「いえ。私達が勇者様を発見した時には既に傷は塞がっており、魔力切れにより気絶なさっておいででした。勇者様が無意識のうちに回復ポーションをお使いになった為に記憶がないのではないのでしょうか?それと、その頭の布は何かのマジックアイテムでしょうか?外れなかったのです」


「簡単にとれるし、こうやって魔力を込めると物凄く固くなるんだ。これでワーウルフと戦ったんだ」


「凄いですわね」


「そんな事はどうでも良いので、状況を教えて欲しいんだ。それに俺をどうしたいんだ?立場もよく分からないんだけど・・・」


 アモネスは包み隠さず話をし始めるのであった。


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