幕間(美結視点)月の姫は、秘め事を抱えている


 ——いつきのことが好き、大好き。


『アズサ!今日こそ公園で逆上がりができるようになってみせるから!見てて!』


 いつもあの子が来ている時に樹が手を取るのはアズサの方。


『は、はいっ。がんばってくださいいつきくん』


 ——梓は私の憧れのお姫さま。好き、大好き。


 二人とも大好きで大切なのに、樹を好きになればなるほど、私の心はどこか複雑な気持ちになっていく。


 でも、あの子は二ヶ月だけしか樹といれないから私は我慢しなくちゃ。梓のようになりたいから、もっと努力しなくちゃ。


「はぁ……私、嫌なやつ……」


 昔を思い出し、現在の自分にも向けた嫌悪を言葉にする。パジャマを梓と初音ちゃんに贈ったのだって、純粋とポーズが半々なのだ。


「別に、歓迎してないわけじゃないんだもん……」


 なんて、独り言を言いながら私は階段を登っていく。月では和装の多い梓と初音ちゃんが着替えられているか確認するため。


 私は二人の部屋に近づいて、ドア開けようとした。


「——ハツネには理解できません。王家の禁則を破って記憶が消去される道を選ぶなんて」


「いいの、それでもワタクシは樹くんの側にいたかったのです。だって、来年はないんだもの」



 ———— え?

 ドアノブに伸びていた手が止まる、聞いちゃいけないものを聞いてしまった気がして、私は階段まで戻って身を隠すように座り込んだ。


 あんまりハッキリとは聞こえなかったけど、記憶を消去ってなに?誰が?樹が?梓が?私が?


「どうしよう……。樹はこの事……知るわけないか……」


 うんうん迷った私は、藍李ちゃんが帰宅して玄関を開けた音に驚き、「梓ー!初音ー!パジャマ着れたのー?」と急いで階段から部屋までダッシュし扉を叩いた。


(ちゃんとしたことが分かるまで、樹には言わない。ちゃんと聞かなきゃ、梓に聞かなきゃ……言わなきゃ……)


 その夜、私は何も聞けなかった。

 

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