第9話 - 3 並行異世界線超重複世界《パラレルオーバーライドセカイセンワールド》

 姫様とのお茶会を終えた私はそれからすぐに枝桜氏から連絡があったので、そちらへ向かうことにした。どうやら急ぎの用らしく、しかもそれはいよいよ超能力者関係のことだという。



「すいません、おまたせしました」


「ああ、黒川さん。こちらこそお呼び立てしてすみません。実は事態はあまり良くなく、急を要するもので」


「私はタイムトラベルも経験しているので、概ねのことなら理解できると思います。大丈夫です。気兼ねなく話してください」


「わかりました。では、少しあるきながらで」


「はい」



 私と枝桜氏の二人はあるきだす。目的地はまだ彼のみが知る。ユメも姿はまだ見えない。



「異世界転移者の話はご存じですか」


「ええ。背中に大きな大剣を背負った少年のことなら」


「そうです、それです。実はその原因がわかりまして」


「原因?」


「彼がこの世界に来た理由です」


「なるほど」


「彼は世界の重複により発現した、と述べるのが正しい我々の見解です」


「世界の重複?」


「はい。我々超能力者の組織や機関はこの事態を確認するや否やすぐに調査に当たっていました。そして導き出した結果は並行した二つの世界の重複です。つまり、少年のいた世界線と私達のいるこの世界線が重なったことにより、それぞれの世界の登場人物が同じ世界に存在する状態になったのです」


「それってーー」


「ええ。ありえない事態です。二つの世界が重なるなんてことはあってはならないし、ありえない話です。しかし、それは現実に起きている。そして、二つの世界が一つの世界に同時に存在するということはこれもまた矛盾を生じている。結論から言えば、どちらかの世界が消えなければいけません。最悪の場合、私達の世界が消えます」


「ええっ、それじゃーー」


「はい。その世界の人間の命は、いえ、存在そのものが無くなる可能性が高いです。どちらの世界が残るかは50/50。二つの世界が一つの世界に完全に統一するその前に手を打たねばなりません」


「それで、私」


「そうです。ヨウヘイさんが時空を渡れる可能性があることを、すみません。勝手ながら我々は情報を手にしました。夢野さんやレイさんは関係ありません。手も出していないので、ご安心を。もっと異なる別ルートです」


「大丈夫。枝桜心さんのことは私信じてますから。それに、姫に他人をもっと信用しなさいってさっき怒られたばかりで」


「そうですか。ありがとうございます」



 彼は立ち止まり。深く頭を下げた。



「行きましょう。時間がないのでしょう?」


「ええ、はい。助かります。ーーそれでは、続けます。現在のヨウヘイ様は我々超能力者とは異なり、ごく普通の一般人でいらっしゃいます。超能力者ではない。ですので、たとえ“輝石”があってもタイムトラベルはできないはずです。そこで、あの少年です。あの少年とエデン・レイ様が戦い、その戦闘によって生じた異世界転移エネルギーを源として時間移動を行っていただきます。しかし、これは仮のタイムトラベル。一定時間でまた元の世界に戻されてしまう」


「じゃあ、できるまで繰り返すってことだ」


「左様でございます。クリア条件まではわかりません。おそらくヨウヘイ様に関わるなにかが鍵だとは思いますが、これ以上はなんとも」


「なぜ、タイムトラベル? 行き先は過去? 未来?」


「過去です。ただ、そこまで昔ではありません。ごく最近だと思われます。詳しくはなんとも言えないのですが」


「なるほど」


「タイムトラベルを使用するのは世界が重なる前に行くためです。そこで要因を取り除く。それが目的です」


「わかりました。枝桜さん。任せてください。こう見えて私はひとりじゃないんです。ーーユメ」


「お呼びでしょうか、ヘイ様」


「!? い、いつの間に……」


「ふふ。超能力者も欺くとはな。さすがユメだぜ」


「お褒めの言葉光栄に」


「ユメ、細かい説明は省くけど、タイムトラベルする必要ができた。また手伝ってくれるか」


「御意に。私はどこまでもお側に仕える心意気でございます」


「夢野さん……あなたは、どうしてそこまで……」


「ヨウヘイ様は切り札的存在。チームの希望そのものでした。そして、私の命の恩人でもあります。世界違えど、ヨウヘイ様のいるところに仕え尽くすのは前世からの使命なのです」


「私も……俺も感謝してるよ、ユメ姫」


「…………」



 夢野は少し涙を浮かべ、ぐっとこらえて。小さく「はい」と、それだけ言った。



「急ごう。レイは少年と一緒だな?」


「はい。命令があるまで“姿眩まし”して待機しております」


「よし。より具体的な作戦を組み上げたら、即行動といこう」


「はい! おねがいします!」



 こうして三人は話を詰めながら、目的地である祭りのメイン会場、“”屋台メインどおり“”へと急いだのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る