第8話 - 3 ボーイズ・Be・ラブストーリー

「……とまあ、そんな話があってですね」


「へぇ、それは大変ですね」

 


 麻婆豆腐を今日もかき込みながら他人ごとのようにあしらう味楽来玖瑠実氏。

 


「さすがヘイ様でございます。恋愛相談もなされるのですねっ!」


「ネネさんが笑っている! まるで天使のようだわ!」


「……きしょい」



 喜々として鬼気迫りくる危機エクストラテレストリアルⅣ式略してエデン・レイのキス顔を片手の平で気怠げに押し返す夢野ゆめの根底ねね、愛称ユメ。



 四人は昼食を食堂で取りながら、昨日私が受けた相談を相談していた。彼とはあの後取り留めもない話を止まらなくした後に第三者ーー今回はこの女子三名ーーの相談介入を快諾して貰ってから別れた。むしろ女性の意見は推奨、ありがたく受けたいらしい。なぜ? 共感されたいとか? 違う意見欲しいとか? それとも罵倒されたいの? マゾなの?



「まあ、そんなわけなんだが……どうしたらいいと思う?」


「どうしたらって、彼は具体的にどうしたいんです?」


「まずは知り合うところから。今は遠くから眺めているだけだからな。その後は仲良くなってあわよくば交際して行きたいとのことだ。しかし、相手にその気があるかは不明。私の見立てだと、多分いつも一緒にいるガールズの中に想い人がいてもおかしくはないのではないかと思っている」


「つまりノーマル……ですか」


「おそらくは」



 唯一話し相手をしてくれる玖瑠実氏。あとの二人はやんのやんのしているだけ。時間渡航者同士仲良くしていこうぜ。

  


「どうしたものかな……まあ、これは悩むだろうな。相談するよな。うーん、普通に悩む。恋愛するだけでも悩むってのに、事例が特殊……って言うと言葉悪いな、ええと、例外的……普遍的でない? かな。とにかく相手のことを考えつつ、しかし自分の気持ちに嘘はつけないどうしましょう状態。難しいね」


「いえ、簡単なことだと思いますけど」


「え!? ほんとに?」



 私は非常に驚いていた。冗談でも、比喩的にでもない。普通に驚いた。なぜならここ二日悩みに悩み、察しに察し、鑑みることこの上ない気持ちについて考え込んでいたのだから、その一言はまさに欲しかった解答であり、同時にアホみたいに悩んでいた自分が文字通りアホだと言われたようでもあった。


 

「ええ、簡単ですよ。『好きです、付き合ってください』って言えばいいんですよ。簡単なことです」





 ※  ※  ※





 彼女はつまり、友達として、人間として、愛をこめて『好きです』友達として、人間として、愛をこめて『付き合ってください』と隠された意味すべての意味を含めて告白すればよいのだと言う。友達として好きです付き合ってください、と、愛をこめて私はあなたのことが好きです付き合ってください、両方の意味を込めて『好きです付き合ってください』といえばいいのだと。実際に言葉にするのは『好きです付き合ってください』だけ。同姓としてなら友人になりたい意味を察することもあろう、愛を察することもあろう、つまり受け止め方は相手次第に任せようということらしい。最悪、『一人の友達として』の言葉を添えれば、そちらへ逃げることもできるだろうとのこと。なるほど、相手の反応・出方次第で付け加える言葉を変えることもできる。何も言わず『好きです付き合ってください』のみにすることもできる。相手には選択肢を提示しておいて、こちらはどの選択肢であってもゴールをグッドもしくはトゥルーハッピーにできる。悪い方になる前にこちらからルートを変更することで、バッドだけは完全に避けられる……ということか。



「なるほど……面白いですね」


「どうだ?」


「一見すると詐欺師の口先だけのように聞こえますが、しかしどう転ぶかわからない『告白』をコントロールできるかもしれないというのはありがたいアドバイスてす。不安というのは失敗を恐れているからこそ、現れるもの。失敗の可能性が薄まれば、不安は少なくなり、緊張も程よくなる気がします。ありがとうございます、大変参考になります」


「それは良かった」


「ではさっそく実行してこようと思います」


「さっそく!?」


「善は急げですから」


「急いては事を仕損じるともあるけど」


「今回は仕損じた場合の予防線が何本もあります。それよりも私の感情がいま! 抑えられないのです!」


「……そ、そうですか……。では、私は陰から見守ってます」


「はい。よろしくお願いします」



 こうして、自称超能力者の告白大作戦は決行されたのである。

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