第5話 - 5 異世界と平衡世界を同義とするなら、一度思惑とリレーションにピリオドを添えて

 姫川桃子は在学時十二の部活と同好会の代表を務めていたのだという。



 この時点で私の記憶と大きく異なっている。



 さらに、姫はある種のカリスマ的な人気を博し、宗教のようなファンを獲得していたという。



 これも違う。



 確かに顔の広く影響力のある人ではあったが、自分自身を誇示するような人ではなかった。他人に好かれても、他人を好きにはならない人だった。どのような人間関係を築いてもそれ以上の関係にはならず、極めて人間に感情を持ち込まない人。そんな姫だから、私に対しても交際を申し込むことはなく、結婚を申し込んだのだと思っている。答えは保留のまま時空超えてしまったけど。なんなら、違う世界にいるまである。私の認識と記憶がことごとく違っているのが何よりの証拠。混乱するばかりだ。



 

「私は超能力研究会に所属していました。姫川部長はそこの代表者でもあったので、私もお話したことがあり、ええ、もちろん面識はありました。しかし、部長は先程話しました通り、掛け持ちが多くお忙しい。そこで私はたのまれごとをされることが多かったのです。なにせ部員の少ない同好会ですので。活動的だったのは私一人だけなんですよ、実際。あとは幽霊ですね」


「姫から頼まれごとが多かった」


「はい。卒業されてからは私が部長を務めているんですけど、部員も二人しかいないですし、特に活動もしてなかったので、実質休部状態だったんです。ある日、まあ最近のことなんですが、この間久しぶりに片付けでも、と部室に出向いたんです。すると部のパソコンにメッセージアプリで部長から連絡がありました。内容は『高校での人間関係を断ちたい。手伝って貰えないか』みたいな内容です。細かい文言までは本文を確認しないとわかりませんが、そのような内容でした。私は部長の心情を思い、あれやこれやと働き出しました」 


「その中に、玖瑠実氏の名前もあった」


「いえ。直接は出なかったんです。あがった名前は玖瑠実さんのクラスメイトさんでした。そこから先は私のミスです。私は他人をうまく誘導し、まるで操るかのように操作していた気分でいました。噂と、事象と、物証。タイミングを見て提示する。しかし、ああ、結果は現在のとおりです。他人をどうこうできるだなんて、おもいあがりも良いところで、甚だしいにもほどがあった。猛省をいくらしたところで、事態解決には繋がりません。一度壊れた人間関係を修復することは困難を極めます。壊すのは容易いことを知っていて実行したがゆえに、です。ーー私はこれ以上関わると良くないと思い、現在は一切の介入をしていません。当事者でありながら、その後の現状全てを把握していないことを、お許しください」



 そこまで話すと、枝桜氏は深く頭を下げた。そこにいたのはイチ少女としての彼女だった。



 ※ ※ ※




 ブラウ氏と枝桜氏と別れた私とユメは翌日、あるところへ向かうために学園から離れていた。玖瑠実氏の実情には胸を痛めることしかないが、しかし枝桜氏を一方的に責め立てたところで事態は改善しない。ブラウ氏共々改善へ協力することを約束し、連絡先を改めて交換して一度ピリオドを打つこととした。



 さて、今度は私の番だ。



 黒川ヨウヘイの問題は二つある。



 一つは時間超越したこと。



 これは私が二年から三年に昇級している事実、新聞やスマートフォンで確認した日付が、一年ちょうど経過している日付である事実がエビデンス。現実である証拠として私に突きつけられている。仕組みは理解不能解読不能。未来人を自称する玖瑠実氏を訪ねるも、イチ女子高生になっており、調べた結果無関係の可能性が高い。そうなると、おそらく姫が何かしら影響していることは間違いないだろうと思う。



 思う……のだが。



 だがしかし、それは果たしてこの世界における姫なのだろうか。時間を超えているからと言ってそれが同一の世界である可能性はのではないか。身の回りの人物の属性ーーたとえば味楽来玖瑠実氏が自称未来人からテニス部のエースになっていたり、たとえば自称超能力者の枝桜氏が男から女へ性を変え、超能力の話は微塵もせず、ただのひとりの女の子になっていたりしたことーーが元の世界と異なっている事が何よりだ。私が今元居た世界とは異なり、まったく別の世界にいるのだとするならば、帰るためには元の時間かつ元の世界に戻らなければいけないことになる。ややこしい。混乱してくる。頭を抱えたくなったが、しかしそんなことをしたところで元に戻るわけではない。大丈夫だ、なに単純なことだ。変化が起きたのならその原因を探り、突き止めてであるコトモノをに戻せばいい。



 それだけだ。まあ、それが最も、一番に難しいのだが。




 ともすれば次なる行動はただひとつ。




 われらがお姫様に会いにいくことである。

 

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