【チート魔術師の異世界学園系青春譚】最強の魔術師たる者、清く、強く、賢く、そしてチートであれ

風のたより

第一章

第1話 棚からぼた餅

帝国立魔術学園


魔術師頂点の学び舎と称される、帝国において唯一国によって運営されている魔術師教育機関。


この学園を卒業すれば一流魔術師になれたと言っても同然であり、逆に言えばこの学園に入れなければエリートの道は閉ざされる。この学園を卒業すること自体がステータスであり、必須の地位。


その世代のトップ魔術師たちが一斉に集結する魔術の園(その)。エリートのための登竜門。



ただもちろんその門は、誰にでも開かれるものではない。


この学園の入学試験に年齢制限や種族制限は一切存在せず、地位や血筋を最もとする社会には珍しく完全な実力主義によって行われる。この試験の前には地位も、コネも、権力も、一切意味をなさない。


そのため獣人だろうと、エルフだろうと、奴隷であろうと、貴族であろうと、10歳満たない幼女であろうと、高齢の老人であろうと、一切関係ない。


筆記試験と実技試験でいかに高得点を出せるか、それが全て。



故に倍率は高く、毎度の試験、合格者はたったの200人前後にも関わらず、年に一度行われる入学試験には毎年何十万人の魔術師がこの試験を受けるために王都に足を運ぶ。


類い稀なる努力と、神に愛された才能を持ち合わせた選りすぐりの魔術師のみが入学を許される過酷な戦い。



何代も続く魔術の名家がこの学園に入学できずに没落するなんて話は、

よく聞く話である。



そんな過酷な戦いを勝ち抜いた魔術師たちが、その日校門に集っていた。


学園へと続く桜並木では溢れんばかりの花に囲まれながら、意気揚々と歩く魔術師たち。

皆笑顔に満ち、合格したという自信を噛み締めて、学園の門をくぐっっていく。


そう、

その日は待ちに待った入学の日であった。



そんな晴れやかな朝、全身ジャージ姿の俺、ベータ・フォルナーキスは門の前に突っ立っていた。


「でけえ……」

ついそう声が漏れる。


世界で最も人口の多く盛んな都市である王都。その実に十分の一を占める学園を前に、俺は圧巻されていた。


田舎の村から出てきて王都の街並みに圧倒されていたのだが、さらにそれを超える衝撃。

もう目眩がしそうである。



何で俺、こんな場所にいるんだろ。

場違いすぎる。


周りには色華やかに着飾っている入学生たち、その中に1人全身ジャージの俺。


明らかに浮いている。入学証明書を持っている手が、意味も分からず震えてきた。

やばい、震え止まらん。



なぜこんなことになったのか。

それを説明するためには、俺の人生の全てを語らなければならないだろう。



俺は元々日本に住んでたニートだったが、トラックに撥ねられ死亡。


気付けばこの世界に転生していた。

どうやら俺の一族は農家の家系らしく、五歳から農業に勤しむ毎日。


ただやっぱり異世界転生したんだから、日本では触れることさえ叶わなかった魔法を勉強したいと思うのが常。

ふとした時にその思いが強くなり、暇があれば村の喫茶店に置かれている数冊の魔術本で勉強することにしていた。



そして数ヶ月前……

俺は今の実力がどのくらい魔術師たちに通用するのか知りたいと思い、帝国立魔術学園の試験を受けることに決めたのだ。そう……記念受験だったのである。


精々勉強して数年の俺が、幼少からエリート教育を受けている魔術師たちに敵うはずもない。ましてやそんなエリートたちすら当たり前に落とされるのだ。農民出身でまともに教育を受けてない俺が、合格できるはずもない。



だが…予想外なことに……


受かったのだ。




正直意味分からん。


合格通知を村長から聞かされた時なんか、絶対になんかの間違いだと思った。

絶対人間違えて通知書送っただろとか、村長がハイジャックならぬ、馬車ジャックして盗んできたのかとさえ思った。



けど…うん、ガチで合格してたっぽいっすね。


おかげで両親、兄妹皆歓喜の嵐。

噂は一瞬で村に流れ、こっち来る時なんか村人総出で送り出してくれるほど。


そりゃド田舎の村から、いきなり帝国立魔術学園への入学者が出るとかなったんだから驚くのは分かる。


けど友人たちが持ってきた横断幕。あれはやめて欲しかった。

恥ずかしい……。



ただ正当な理由で村から出られてこれたのは良かったのだ。

あのままだったらせっかく異世界転生したのに、ど田舎で一生を終える羽目になっていた。

転生者たるもの、旅とか冒険とかしてみたいじゃん。



けど……そうだとしても……

両親には一つ、苦言を呈させて頂きたい。



おい、まともな服用意してくれよ!


豪華じゃなくても、こう……せめて日本のスーツみたいなまともな服、一つくらい家になかったのか?

全身ジャージって、転生する前の俺かよ!恥ずかしいよ!

制服が支給されるから今日だけではあるのだけれど、晴れの日にこんな服のやつおらんって!


あー、マジで恥ずい。

さっさと教室行こ。


できるだけ人の目に止まらないよう、俺は早歩きで指定された教室に向かった。

教室には『S』と書かれた文字。

どうやら俺はSクラスらしい。



扉を開け中に入ると、既に同級生となる生徒たちのほとんどが席に座っていた。


え……空気重っ…。



誰一人、口を開かない空間は異質で静寂で、それでいて圧力があった。

まあ陰キャの俺には好都合か。

俺以外話してるとか、それはそれでキツいし。



クラスには20個ほど机と椅子が並べられており、教室の広さに比べれば閑散とした印象を受ける。

あれ、一クラス40人くらいって小耳に挟んでたんだけどな……ま、いっか。


俺の席を探すと、どうやら窓際の最後尾らしい。

最高じゃねえか。窓を覗けば桜広がる学園内が一望できるし、日当たりもいい。

授業寝ててもバレなそうだし、これ以上ないほど最高の位置。



しっかし……生徒として椅子に座って、黒板を見るだなんて何年ぶりだろうか。

意識しなくても日本でも学生生活を思い出してしまう。


俺の学生生活は……灰色だった。



ずっと教室の端の方にいるようなド陰キャ。

青春のせの文字すら見つからないほどの、薄暗い生活。

彼女などできた試しもなく、友達と呼べる友達もいたか覚えていない。


せっかく転生して、もう一度学園生活と言う青春を謳歌できるのだ。

灰色とはおさらばして、澄みきるほどの青春を今度こそ謳歌したい。


ただこの環境は、日本の学校とは大きく違う。

他の生徒の顔ぶれを見ると、髪色も種族も、年齢すらバラバラ。明らかに俺より年下の、小学生みたいなやつもいるし……。俺、ホントにあの青春を取り戻せるのだろうか?

いや、取り戻せるかじゃない、取り戻すんだ!



その決意が固く決まると同時に、ベルの鳴るようなチャイムが校舎内に響いた。

耳慣れない重く、重厚感のある音。

この音を聞きながら勉学に励むことを夢見た魔術師がどれだけいるだろうか?


そして俺は今、その舞台に立っている。

体が震えるような興奮に包まれ、つい頬が強ばった。


どうやら始まるらしいのだ!俺の青春が!



ただこのときの俺は、何も理解していなかった。

この学園はそんな甘っちょろい青春など送れないほどに、過酷で残酷な環境であることに……。

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