EP1

#11

 呉越同舟。


 春秋時代の国である呉と越は戦争を繰り返す程仲が悪かった。しかし、もし両国の人が同じ舟に乗っていて、嵐に遭って舟が沈みそうになったならば、きっと彼らは互いに協力し合って舟を沈めない様にするだろう...という、孫子のたとえ話を基にした言葉であり、危機に対して敵対する者同士が共に立ち向かうことを意味する。


 人間の性を良く示した言葉だと思うが、そもそも呉と越の人が同じ舟にいる事にいるなんてことがあっていいのかと疑問に感じる。いや、中国史に関して無知な自分が言えることじゃないし、どうでもいいことにツッコんだら孫子に叱られそうだが。


 僕は嫌いな人と舟には乗りたく無い、というか、誰かと舟に乗るなんて気不味そうで嫌だ。あと、舟も船も乗った事無い。


「そういえば、委員会の集まりって今日だよね?」


 進級、そして白渡の転入から1週間。


 当たり前の様に僕の机で昼食を摂る彼女は、僕がサボらない様にする為にか、わざとらしく面倒な仕事のことを話してきた。


 クラスメートの"配慮"によって僕と白渡は同じ委員会に入ることになった。幸い僕が所属先を選べたので、昨年やって相当楽だった、監査委員を今年も務めることにした。


 それで、新しい委員の顔合わせとか連絡をする会が昼休みにあるのだ。でも去年は殆ど何も無かったから、サボって良くない?

 

「そうだな、だからさっさと飯を食うか残すか捨てるかしなよ、あと2分で出るから」


「じゃあ伊折君にあげるね?隠密振っておこうかな」


「どうしてパラノイアになるんだ...」


 憎い奴とはいえ、ずっと絡まれていれば嫌でも話をする様になる。


 そういえばこの1年でまともに会話をする相手なんて黒瀬と従妹ぐらいしかおらず、学校やクラス内なんてもっての外だった。


「そう言う伊折君は大丈夫なの?まぁ中学時代ピンクの悪魔って呼ばれていた君なら余裕で完食か」


「え...新色君、そうなの?」


「違うわ...」


 隣のクラスメートに誤解される。


 内容は酷いものだが、少し楽しいなんて思ってしまうのが、何故か悔しい。

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