第36話 おらさ、うぜぇとか、わがんね

 翌日、レンを見送ったのは日曜のことだったので、この日は学校がある。


 朝になって、目が覚めると隣にはレンの代わりに柊木が居て。

 何故か俺の手は、柊木の腰元に回されていた。


「くぅ……」


 そしてご存知だろうか、男の朝の生理現象を。

 その現象は日によってまちまち起こる怪奇現象の一つで。


 男は朝を迎えると同時に、愚息がお日様に敬意を表すようにそそり立つのだ。


 今の俺は柊木の腰に手が回されているほど密着した状態にあり。


 固く大きくなった愚息は、柊木の両足に挟まれている!


「へへ、竜馬、今日も元気いっぱいだね」


 ふぁ!? 焦った面持ちで柊木の顔を見ると、まだ寝ているようだ。

 こいつ、夢の中で俺とヤっているみたいだな。


「じゅるるるるるるる、ちゅばば、じゅぷじゅぷ」


 口から病的なリップ音をあげ、柊木は腰をグラインドさせてしまう。


「ば、やめ、く……嗚呼っ!」


 この時の話は墓まで持って行こうと思いました、まる。


「僕、もうお嫁にいけない、竜馬以外の殿方の所には」

「お前が悪いのに? はぁぁぁぁ」

「竜馬はそれでも男か! 責任問題だよ責任問題!」

「いいえ! ケフィアですから!」


 などと柊木と朝から揉めながらリビングに向かうと。


「お早う御座います、お二人とも」


 高薙さんがすでに居て、朝食を待っていた。


「お早う高薙氏、聞いて下さいよお姉たまぁ、あちし、竜馬に凌辱されちゃったざます」


 柊木は今朝の出来事をさっそく高薙さんに曝露している。

 高薙さんは柊木の口から眉唾な話を聞き、俺を睨みつけた。


「柊木さんへの辱めそのものもそうですが、クラホさんはお遊びだったのですか?」

「俺は柊木を辱めてなんかいないし」


 と言うと柊木はわかりきったように。


「嘘だ!! もう、僕、お嫁にいけない、竜馬以外の殿方の所には」

「やり口が汚ぇぞ柊木!」

「汚い? 卑怯? ありがとう、最高の褒め言葉だ」


 で、今日の朝ごはんはなんだろう?


「母さん、朝ごはんは?」

「たまご掛けご飯でいい?」

「……そうだよな、昨日なんて出前とったぐらいだし」

「竜馬、我が家にはとにかくお嫁さんが必要よ、それも料理上手な」


 そこで母さんはちらりと柊木を見る。


「う! 将来のお母さんから期待の眼差しを感じる、僕頑張ります!」

「頑張ってね柊木さん、ファイトよ」


 柊木がはつらつな感じでそう言うと、母さんは笑っていた。

 だからだったのか、柊木は一杯のわんに対し、卵を三個投入する。


「精力つけないとね、絶倫竜馬の嫁やるなら」


 余計なことを満面の笑みで言うな!

 本日は母さんの痛い視線を受けつつ、VR登校をした。


 席に着き、なんとなしにクラスの喧騒とネットニュースを見ていると。


『今日はクラホさんはお休みのようです』


 高薙さんからレンが学校を休んだ連絡が入る。

 お父さんの容態が悪化したのかな……大丈夫だろうか。


「はいはい、皆さん席について下さい」


 レンの様子を思案していると、新生・餅鬼先生がやって来た。


 新生・餅鬼先生とは何ぞや? それは入学当初はうだつのあがらない紫煙臭かった担任の変わり果てた姿で、今の餅鬼先生はパーマを当てたボブカットと切れ長の目が魅惑的な学校一の麗人先生となっていた。


「今学校は大変な時期ですから、全員気を抜かないように気を付けましょう」


 餅鬼先生の胸に留められているシャツのボタンはおっぱいが大きくてはちきれそうだった。そんな新生・餅鬼先生は映研の顧問だったらしく、部長が父の柊木校長を糾弾するさい暗躍していたそうだ。


 そ、それってハニ―トラップとかしたんですかね、私、興味あります!


『竜馬、鼻の下が伸びてるぞ、放課後は性的なお仕置きだ!』


 急に飛んで来た個チャを受け、隣にいた柊木を見ると自分の胸をたくし上げていた。


『( ゚∀゚)o彡゜おっぱい! おっぱい!』

『うるせぇ、黙って先生のありがたい朝礼聞け』


 でもまぁ、柊木とのやり取りは不安な気持ちを霧散してくれる。

 柊木といると鬱屈とした気分が晴れるから不思議だ。


「……――」

『将門くん、私の朝礼中に無駄話とはいい度胸です。放課後職員室に来ますか?』


 しかし、いくら餅鬼先生の容姿が変わろうとも、中身は変わってなさそうだった。


『冗談です。放課後、映研の部室で落ち合いましょう』


 ……はぁ。

 午前中の授業が終わったら、レンにメッセージ飛ばすか。


『( ゚∀゚)o彡゜おっぱい! おっぱい!』

『しつけーよ』


 柊木は遊びたい盛りの子犬のような絡み方で時々うざかった。


 § § §


 昼になり、ログアウトすると事件が起こった。


「母さんお昼は?」

「……たまご掛けご飯」

「なして!? 買い物とか行ってないの?」

「えぇ、私は仕事があったし、そんな暇なかったのよ……」


 今さらながら、我が家は小母さんの偉大さを痛感している。


「あ、じゃあ僕が何か作りましょうか!」


 そこで名乗りを挙げる柊木さん、マジで大丈夫すか?


「お願い出来る柊木さん?」


 母さんは柊木の申し出に素面ながらも喜んでいるのを、息子である俺は知っている。


「もちろんです! 実は、家ではちまちま自炊することもあったんで」

「あら? それは期待できるかもしれないわね」

「お任せあれー! ぼ・くはシャイなー! 竜馬の、嫁ー!」


 誰もお前のことシャイだと思ったことはない。

 柊木が『( ゚∀゚)o彡゜おっぱい! おっぱい!』の手つきで冷蔵庫に向かうと。


「あー、あはは、でも食材がまるでないとさすがの僕も」

「だったら倉庫から都合してもらっていいわよ」

「了解です! じゃあお宅の息子さんと一緒にちょっと……な、竜馬?」


 と言う流れで、俺は柊木と自宅で試験栽培などで蓄えた野菜と、取引先の酪農家から頂き保存していた豚肉、牛肉、鶏肉、羊肉などの肉類がある我が家の食材倉庫へと向かった。


「これ着て、中は冷凍庫だから」


 柊木に向かって無造作に関係者用の防寒着を投げて渡す。


「へぇー、竜馬の家にこんな場所あったんだー」

「俺の聖域はすぐに見つけて、ここは見てなかったんだな」

「あれは竜馬の匂いを辿っただけだからね」


 ……俺、そんなに匂うの!? まさか加齢臭とかじゃあないよな。


「開けー、股!!」

「柊木さん、さすがにそれにはドン引きっすわ」


 柊木の合図の横で冷凍室の扉を開け、中に入る。

 冷凍室の電灯が一斉に点き、様々な食材が陳列されている光景に柊木は絶叫した。


「うわぁあああああああ! 犯されるうううううう!」


 とっさに柊木の口を手で塞ぎ、ふざけるなと言う意味を込めて梅干し刑にした。


「いだだだだだっ、冗談なのに~」

「冗談が冗談になってない、早く昼食の食材決めて出るぞ」

「えっと、ここにはどんな物があるの?」

「俺も詳しくは把握してないけど、一応倉庫のアクセス権渡しておく」

「サンキューなのじゃ、ふむふむ、お? トゥフフ、で、よしあった」


 倉庫のアクセス権を渡しただけで、柊木も器用な感じに食材を集めていた。

 冷凍室の棚整理は主にロボットがやってくれるから、権限さえあればなんとなかる。


「終わった?」

「うぃ、今日のお昼はご馳走だよー!」


 柊木が選んだ食材は俺の方で出荷作業を終わらせ、俺達は足早に冷蔵庫から出た。


「閉じろー、心!!」

「つぅー」


 冷凍室の扉を閉めて、選んだ食材を持ってリビングに戻る。

 柊木は手を洗っては、早速昼食の準備をしようとしていた。


「流れて行けー、僕の身体に張り付いた不浄物質たちよー。さてと、竜馬も手伝ってくれるかな?」


 嫌な予感がするが、時間も押していることだ。

 俺も腕裾をまくって手を洗い、柊木の指示を仰いだ。


「竜馬は先ず僕を味見してみて、僕今から裸エプロンになるからさ」


「豚バラ肉を解凍して三分の一にカットしたら、にんにくの芽と一緒に塩コショウで炒めればいいんだな?」


「うん、その間に僕は竜馬の全身を隙間なくペッティングするからさ」


「柊木が中華風の卵スープ作ってる間に、米を光速炊き込みモードで焚けばいいんだな、わかった」


「もう竜馬が全部やればいいじゃん!!」


 意思疎通の取れない会話をしていると柊木は切れました。

 これが俗にいう逆切れって奴ですよ。


「時間がないんだから、遊んでないで料理してくれよ!」

「ほら竜馬、お尻が空いてるよ!」


 と言い、俺のお尻を下から上にいやらしい手つきで撫で上げる柊木さん。


「僕のお尻も空いてるよ! ほら!」


 今度は自分のお尻を突き出してふりふりと横に振る。


 詰まる所、我が家の昼食が時間内にちゃんと出来たのは奇跡的だった。


 柊木に付き合っていると無限に時間を搾取される。

 本人は楽しいのかもしれないが、うぜぇーって!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る