第6話 言葉が人間を作るのだ

 お姉ちゃんは初等部の頃から天才的にバスケが巧かったけれど、さして努力家ではなかった。


 どちらかといえば、私やつばめと同じように、感覚的にプレーしている選手だった。


 バスケに対してことさらストイックになった契機は、中等部一年生の頃に遡る。


 新入りの一年生が先発選手レギュラーに選ばれたことに対してやっかみもあったし、非難の声もあった。


 監督は部員全員を集めて、こう言ったそうだ。


使。学年は関係ない。試合に出たければ、実力、練習態度、それから普段の生活態度も含め、誰からも文句を言わせない選手になれ」


 それは強烈なメッセージだった。不満のある上級生らをたちどころに黙らせ、羽咲エリサを孤高の高みへと向かわせる、あまりにも鮮烈な言葉。


 監督の言葉を綴ったお姉ちゃんの修養日誌を読み、自然と背筋が伸びた。


 言葉が人間を作るのだ、と思い知った。


 監督の言葉を素直に血肉としたお姉ちゃんは、ひそかにこう綴っていた。


 ――私は虎だ、虎でなければならない。

 ――チームの代表としてコートに立つ以上、虎でなければならない。


 実際のところ、お姉ちゃんは中等部、高等部の六年間を通じて、努めて虎であり続けた。


 でも、お姉ちゃんの本質は虎ではなく、あるてぃまのようなパピヨンなのだ。


 賢くて、可憐で、高貴だけれど、小さくて脆い。

 虎であろうとして、今まで無理を重ねてきたのだ。


 あの日のブザービーターのせいで牙を抜かれた虎のようになってしまったが、虎であるべし、と自らにかけた呪いが解けた、と解釈することもできるかもしれない。


 パピヨンは、フランス語で「蝶」という意味である。

 虎は空を飛べないが、蝶は空を舞うことができる。


地上バスケコートを離れても、お姉ちゃんならきっと大丈夫だよ」


 はたして、そう言って良いものかどうか。


 私は、私の言葉に責任が持てない。

 言葉が人間を作るのだ、と思い知ってしまったから。

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