きっと、そうなんだ

きゃっくん【小奏潤】

第1章 転生まで

ep1 ライバル宣言

「ねむ!!」


彼は浅木アサギ カエデ、私の想い人である。

彼は何も疑うことのない屈託のない笑顔で少し息切れ気味に私を呼んだ。


「どうしたの?」

「これ!!」


「これ」と言って楓が差し出したのは不器用そうに包んだのがわかる何かだ。

今日は2月14日バレンタインデーだ。

楓は男の子で、私は女の子だ。

本来ならば、私から愛情のこもったチョコレートとともに告白するべきだ。

もちろん、私だって恋する乙女だ。

バレンタインデーに告白を何度も、これでもかというくらい妄想はしたし、

チョコの代わりのクレープを練習して、お母さんが糖尿病にならないかと心配になるほど、

先月から味見はしてもらった。

しかし、昨日、いざ作ろうと思ったら、練習のしすぎで小麦粉は切れるし、

家の料理用の小麦粉を使おうとしたら、賞味期限が1年前でさすがに使えないとわかったので、

今年はバレンタイン告白を見送ろうと思った。


今、目の前には楓がいる。そして、楓は何かを渡そうとしている。

これは状況から察するに、逆チョコなのではないか?

でも、今どき逆チョコなんて……。


「べ、別に好きだとかそんなんじゃなくてさ、いつもお世話になっているからそのお礼だから」

「う、うん、ありがとう」


受け取った何かを私はカバンに直した。

「お礼だから!!」とまだお礼を楓は強調している。


「それじゃ、また明日。学校で」


楓は顔を赤らめて、それこそリンゴのように真っ赤にした。

楓と私は家の方向が真逆なので、各々の帰路についた。


私は「根岸ネギシ」と書かれた表札の自宅に帰り、楓からもらった何かを大事そうにマジマジと眺めた。

これがチョコなら私はホワイトデーに好きですって返事をする。

でも、仮にチョコだとしても、本当にただのお礼かもしれないし……。


確かに、私は、楓の面倒を小さいときから見てきている。

幼稚園では、内気な楓を私が無理やり私のいたグループに入れたりしたなぁ。

小学校では、ちょっと活発になってきた楓が調子に乗って女の子を泣かそうとしているところを叱ったりもしたなぁ。

中学校では、いつのまにか大きくなっていて気づいたら私が楓のことを好きになった。

でも、その中学もあと1年で卒業する。


高校は明らかに学力の差があるから、同じところに行けないだろうし。

付き合うなら、今年しかない。

来年は受験で恋愛にかまけている場合ではないから。


これがチョコなら、きっと楓は私が好き!!

でも、もし、違ったら?

私はショックで立ち直れないかもしれない。

それに、チョコでも本当にただのお礼かもしれない。


そんな事を考えながら、私は箱を開けようとした。

包装を丁寧に剥がしながら箱が見えてきた。


そこにお母さんが1階から私を呼んだ。


夢雨ムウ三池ミイケさんが来てるわよ」


私の友達が来たらしい。

三池 玲令レレ

通称、れれまる。

私と同い年で、私と同様に音楽が大好きな女の子だ。

将来は、私とれれまるとあと2人くらいでバンドやりたいね!とよく言っている。

それに、実際、私はボーカルの練習のため週1回、トレーニングに通っている。

れれまるも、ボーカルの学校にこれも週1で通っている。

ちなみに、通っているサウンドスクールは一緒だ。

というか、サウンドスクールでれれまると私は知り合った。

あれは、私が中学1年生だから、去年の話。


私がレッスンの時間まで余裕があるから、待合室で音楽関連の雑誌を読んでいた。

その時に、れれまるが初レッスンみたいで緊張でガチガチで待っていたから、

れれまるの緊張をほぐそうと、私が声をかけたのをきっかけで仲良くなった。


そして、実は同じ学校だったこともわかり、さらに仲良くなった。

今年は年賀状を交換したこともあり、住所はお互い知っていた。


そして、れれまるが初めて私の家に来た。


楓からもらった何かを私は今すぐにでも開けたかったが、

お母さんが、「三池さんが寒い中待ってくれてるんだから、早く行きなさい」と急かしたので、

私はれれまるを優先した。


「れれまる、どうしたの?」

「ねむち、大好き」


彼女は私のことを「ねむち」と呼ぶ。

そして、友情だとわかっているが、「大好き」とも言ってくいれる。

しかし、今日は珍しく、初めて会った時かのように、

かなり緊張しているようにも見える。


「あがる?」


私は何気ない気持ちで友人だし当たり前だし寒いしと思って

れれまるを家にあげようとした。

でも、れれまるは首を横に振り、宣言した。


「私、ねむちの楓くんへの想い知っているけど、私も楓くんが好き!!」


そして、こう言った。


「たとえ、同じバンドで活躍するのが夢でも、ねむちと私は恋愛ではライバルだから!!」


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