第15話:それは蛙のような鳴き声で……。
食堂で家族皆で夕食を食べた後、お母様から明日の為に早く休むようにと言われました。
明日は昼前からドレスを着る準備があり、体力精神どちらもかなり消耗しますので、今日の夜はたっぷりと寝ておく事が大切なのです。
「では、お先に失礼いたします」
「ミッ、ミラベル、明日は本当にロブにエスコートしてもらうんだな?」
「ええ。お父様、急にどうされましたの?」
ロブにエスコートしてもらう事は随分と前にお伝えしていたはずなのに、何故か焦ったように確認されてしまいました。
今更『反対だ』と言われるのかと一瞬焦りましたが、「いや、確認なだけだよ、おやすみ」と言うとお兄様と何かモソモソと話し始めてしまわれました。
お母様とお義姉様は知らぬ顔で優雅にお茶を飲んで談笑していらっしゃいました。なんだか今日は変な空気です。
食堂から部屋に戻り、明日の為にと手早くお風呂に入って、すぐさまベッドに潜り込みました。
ベッドには入ったものの、まだ九時なので眠くなりようがありません。なのでカーテンを開けてもらい、夜空を眺めながら眠気が来るのを待つことにしました。
薄曇りの夜空に金色の光を放つ美しい月が淡く浮かび上がっています。まるで私の心の中を表したような曇り空です。
今日は満月前夜。
デビュタントボールは毎年必ず満月の日に行われるのです。
そういえば、セオドリック殿下が「満月と新月の日は、我が眼に秘めたる邪神が疼く」とか言っていましたね。
未だに厨二病言動をされているのでしょうか?
王城から戻って以来、私の家族はもちろん使用人も領地の民達さえも、殿下や王族の方々の話を一切しなくなりました。
たぶん私の前でだけなのでしょうが。
私も自ら王族の方々のお話は耳にも目にも入れないようにしていましたので、あれから殿下がどのように過ごされ、成長されたのかわかりません。
たぶん明日お会いすることになるのでしょうが、普通に挨拶出来るのでしょうか?
「…………ハァ」
少し、憂鬱になって来ました。
ぐずぐずと考えても仕方ありません、もう寝てしまいましょう。
朝早く起きて、全身を侍女たちに揉まれ、磨かれ、整えられ、お昼にごく軽く食事をし、少し休憩してからコルセットの締め上げ開始です。
ベッドの支柱に抱きつき、コルセットの紐をグイグイと絞められる引力と衝撃に耐えます。
乙女としてどうかとは思いますが、「ぐえっ」や「ぐるじぃぃ」などのうめき声は許して欲しいです。
ある程度絞めて、少し休憩をすると、コルセットに合わせ肋骨や内臓が動くらしく、息苦しかったのが少し楽になります。そうしたら更にコルセットを絞めるのですが、私はいつも断固拒否です。
「お嬢様、まだまだ絞められますが?」
「陛下への挨拶やダンスもあるのよ、酸欠で倒れたくないわ。これくらいでもドレスは入るでしょう?」
「入りますが……」
ずっと私の侍女をしてくれているザラは不服そうですが、断固拒否なのです!
ドレスを着て、化粧や髪を整え、ジュエリー類を着けて、準備万端です。
サロンで家族に挨拶しようと廊下に出ると、キラキラしく盛装した仏頂面のロブが待ち構えていました。
「お嬢……じゃなかった。ミラベル嬢、お手を」
「あら、エスコートしてくれるの?」
「仕事ですからね」
「ふふっ、ありがと」
ロブの右手の内肘に左手を添えて二人でサロンに向かいました。
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