十月十五日

安東琴音

 しいんと静まり返った家の中、琴音はパソコン画面二つとスマホをすべて確認しながら株の値動きなどをチェックしていた。中学卒業後高校には行かず、未成年でも働ける仕事口を必死に探した。年齢を偽って夜のバイト、無論性的な事は関わらないが、水商売のようなものをやったこともある。夜の、大人の世界に足を踏み入れたのは正解だった。学生では絶対わからない株、投資の話を聞くことができたからだ。

 それまで株はよくわからないもの、投資は一発で貧乏になる信用できないものだと思っていた。客からそれは誤解というか勘違いだよ、投資とギャンブルは全く違う、と笑いながら指摘され興味を抱いたのがきっかけだった。

 そこから投資家の客から話を聞いているうちに本格的に勉強をし、最低限の生活ができるようになる金額の投資を始め、夜の世界は卒業した。十八歳になった今では株と投資で生活をしている。贅沢はできない程度の金額だが琴音には十分だった。派手な生活をする気はないし多数の人と関わる気もない。

 未成年でありながら生活基盤を探した理由は単純だ。琴音には家族がいない。正確には以前はいたが今はいない。それはすべて十年程前の忌まわしい事件のせいだ。

 琴音は子供の頃とある田舎町に住んでいた。子供の数が少なく学校で一クラスだけ、クラスの全員が友達だった。地元で農家をする家が多く、どちらかと言うと貧しい人たちが多い場所だった。最近流行りのゲーム機やカードゲームなど買ってもらえるわけもなく、友達同士で集まればやるのは昔ながらの鬼ごっこや花いちもんめなどの道具がなくても遊べる遊びだ。

 たぶん、あの日もそういう類のもので遊んでいたはずだ。かくれんぼか鬼ごっこか、とにかく全員が散り散りになってやる遊びだったのだろう。

 だから全員バラバラの場所で見つかったのだ。琴音が見つかったのも神社の中、かなりわかりにくい場所だった。見つかった時意識がなかったし目が覚めたら何も覚えていなかった。

 十年前ほど前に起きた児童連続殺人事件。そんな名前で捜査本部が作られはしたが事件解決に至っていない。明らかに他殺だった六名の児童。琴音は意識不明の状態で見つかり目を覚ましたのは一か月後だった。警察が何度も聞き取りに来たが、琴音は何も覚えておらず事件解決の糸口は見つからなかった。琴音に目立った外傷はなく、おそらく友達が殺されるのを見てしまった事による精神的ショックで眠っていたのだろうという判断となったのだ。

 これに納得できなかったのは被害者の保護者達だった。地元なので琴音が生き残ったことは周知されている。病院にいる時も、退院してからも保護者達は琴音に詰め寄り何があった、犯人はどんな奴だった、とものすごい剣幕で来たのだ。何も覚えていない琴音に明らかな苛立ちをあらわし、日を追うごとに琴音を責める保護者が増えてきた。

 何故、お前だけ生き残った。何故自分たちの子供が死ななければならなかった。何を隠している、都合よく何も覚えていないなどありえないだろう。そんなことを言われ、ついにお前が代わりに死ねば良かったんだと罵られる事態となり、琴音だけでなく家族に対しても嫌がらせが起きたのだ。

 無論最初親は琴音をかばった。琴音だって被害者だ、何も悪くない。しかし友達の中に地主の子がいたのが圧倒的に琴音たちを不利にした。村八分のような事が起き、両親は常に苛々し始め、琴音との仲が悪くなっていった。地元で農家をしていたため引っ越すというわけにもいかず、農業しかしてこなかった両親が会社勤めなどできるわけがない。田舎の土地など売れるわけもなく、両親はその土地から出ることができなかった。

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