第99話今川城御前試合③




第5試合目が始まろうとしている。



その男は、蝦蟇渋郎がましぶろうと名乗っていた。そして素手であった。

ただし、手には手甲と足には具足が付けられていた。

そしてこの男は、異常に足が長い為に身長も2メートルはあった。


そしてこの男は推薦でなく、公募で勝ち上がった1人であった。

なんでも足を振り回して戦うスタイルで、何人もの強豪きょうごうを倒していた。


素手で相手を倒す古武道の一種で、蝦蟇流と名乗っている。

何処かで古武道を習い、自己流にアレンジしたものだろう。




そして、相手をするのは、狙撃隊の1人だった柏木源九郎かしわぎげんくろう

接近戦になった時に使う、銃剣の達人だった。


忍者隊の格闘技を取り入れて、発展したものだった。


ここで使われるのは木製のライフル銃で、先には竹製の剣が付いていた。


俺も見た事があるが、銃剣をくるくる回して戦う姿は凄いものがあった。




互いの御前にお辞儀をして、向き合った相手にもお辞儀をしている。

そして準備も整ったようだ。



見届け人が合図の「始め」と言い放った。



蝦蟇渋郎は、サッと体を沈めた。

まさにガマが地面にっている姿に似ている。



源九郎は、一瞬だが困った顔をした。

槍ならいいが、銃剣で足下を攻撃すればスキが出来てしまう。


そしてその瞬間だった。蝦蟇が速い移動から蹴りを放った。

なんとか銃剣で防いだ。しかし体を回転させながら蝦蟇の回し蹴りが襲ってきた。

仰け反ってかわしたが、次の回し蹴りが低く襲ってくる。


仰け反った勢いでバク転してかわした。



両者はにらみあった。


「やるではないか? 大名の家臣は腑抜ふねけだと思っていたが違う奴もいるもんだ」


「お前もやるな。俺らは戦った経験が豊富だ。そこらの大名と同じにするな」



蝦蟇はジャンプして空中から蹴りが襲う。

銃剣で受けた。更に連続の蹴りが襲ってきた。


すばやく持ち替えて銃床(ストック)で蹴りを打ち返した。

バランスを崩しながら、回転移動に入った蝦蟇が更に低い蹴りを放った。


又も銃床で蹴りを叩き付ける。

「ガン」と音がした。


引き抜こうとするがビクともしない。

仕方ないと思ったのか、足を縮めて固定された足に近づくと右足を突き出してきた。

またも銃剣で受止めた。


そのスキに一気に後方へ移動。


又も睨みあった。



「やりおるな、最終奥義を出す羽目になるとは思いもしなかった。これでお前は終わりだ」


更に低い姿勢で回転して来る。

その回転に勢いが付いてきた。

放たれた蹴りは威力があって、銃剣で防いでも衝撃を受けてしまう。

防ぐしかない程だ。


次の蹴りが凄かった。防いだがその勢いが体にも当たった。

体がふらついた所へ、回し蹴りが襲った。


蝦蟇は変だと思った。あれ? 空気を蹴ったように衝撃がない。

その瞬間だった。背中に撃痛げきつうが襲った。


蝦蟇の背中に銃剣が刺さっていた。


蝦蟇が蹴ったのは、布だった。



源九郎は、忍者が使う変わりの身で目くらましをした。

そしてジャンプして、蝦蟇の中心点に銃剣を突き刺した。



見届け人が「早く救護班を呼べ」


又もや救護班が出動して、担架たんかで運ばれていた。

背中には銃剣が刺さったままだ。抜かなかったのは、出血をさせない為だった。




見届け人が「勝者、柏木源九郎」と大きな声で言った。


大名からうなる声が聞こえていた。

俺はお構いなく拍手をおくった。


柏木源九郎は、てれるように頭をいていた。



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