第83話百貨店




俺は、武藤一郎と山田伊助の2人を目の前にして、紙の束をめくりながら読んでいた。


「成る程な、よくわかった。複数の専門店を取りまとめて、大型店に集めて商品を売りたい。そしてオリジナル商品も売って利益を上げたいのは分かった。俺が前に話したことを本当にやりたいのだな」


「はい、百貨店ひゃっかてんなるものを作って、下級武士の新たな働き口にしたいと思います」


日本は平和になって数年だが、下級武士は戦がなくなったことで田畑にいそしんでいた。

中には才覚で飲食店や商売をして、大いに収入を伸ばしていた。


そして、武士や町人や農民に女子の子供に、学校制度が普及して10年は経っただろう。

町人や農民や女子は、激変した商いに対応して働いていた。


その為に海外の開発もしている。それなのに国を離れたくない者も多い。

海外では、働き口は多いのだが・・・

国内では、物流が優先されていて、未開の土地も開発出来ていないのが現状だ。



「分かった。店を出す場所は決まったのか?」


「白浜駅の5番目の駅、周参見駅すさみえきの目の前を考えています」


「何故そこを選んだ。目的は、お客のニーズに合っているのか、お客の目的は分かっているのか、運営体制は出来ているのか、計画は出来ているのか、費用は」


早口になったが、一気に言い放った。

2人とも互いを見て考え込んでいた。


「申し訳ありませんでした」


「もう1度、考えて来い」


2人はお辞儀じぎをして、引き下がった。




そんな2人が帰った後に、静香が部屋に入ってきた。


「きついお言葉ですね、あれでいいのですか?」


「あれでいい、商売の奥深さを学んで欲しいからな・・・」


「そうですか・・・」




1ヶ月後には、何百枚の紙をたずさえてやって来た。


「いいだろう。店を出すことを許す」


2人は抱き合って、喜んでいた。その後ろに小柄な男が控えていた。


「あ、そうでした。この者は木下藤吉郎きのした とうきちろうと申す者で、今回のことにも係わっています。前は織田家に仕えていましたが、その前は今川家にも長らく仕えた者です。なので今回の百貨店を任せようよと考えています」


成る程な、これが有名なサルなのか、サルというよりネズミのような顔をしている。


「分かった。それは任せる」


「ありがたきお言葉に感謝します」と木下が頭を下げていた。




売り出す目玉は、既製服きせいふくだ。

最近になって静香が手がけた服がバカ売れしている。

それもオーダメイドだ。

南蛮タイプの着やすい服で、化学繊維かがくせんいで出来ている。

デザインがいいと評判だ。

その静香スタイルを新たにデザインして大量販売する。

価格も安くおさえることが出来るだろう。


そして、新たな果物も売ろう。

まだまだ美味しい果物は、海外にはあるのだ。


3人は、話ながら帰った。




残された紙をもう1度読み返していた。


白浜は開発が進み、住む家さえ困っていた。

なので、3つ目の駅の椿駅つばきえきの前が選ばれた。


2つ目の駅は、白浜の影響を受けて、すでに商店や家が建ち並んでいた。

それに引き換え、椿駅は開発途中で開発しやすく、十分に人口が増える見込みもあった。

そして百貨店が建てば、近隣からも買い物に来る見込みもありそうだ。


なので建売住宅を始めたらいいと思いたった。

道路整備された土地を、家を建てて売る。

ついでにモデルハウスを作って、『あ』モデルや、『い』モデルから選んでもらい、瓦の色など決めてもらう。

一部建増しもOKにしたりして・・・まだ普及していない、畳の部屋もいいかも。

電気も通っているのだ。ついでにLED照明の種類も選ばせるのもいい。


いっそうの事、耐震設計にしよう。

建てられる家は耐震たいしんにする為に、柱で支えるのでなく壁で支える構造にする。

その為に壁枠かべわくは、頑丈に斜めに交差して筋違いを耐震用金具で固定。

そして家自体が、バランスよい設計がいい。


「誰か居ないか?」


「お呼びでしょうか?」


「武藤と山田を呼び戻せ、追加の案件があると言ってくれ」


「かしこまりました」


早足で去っていった。



戻って来た3人は、喜んで家の案件を引き受けてくれた。

目の前でその話に、静香も知らない間に参加して話に夢中だ。


なにやらアメリカで建てた10階建てのビル。

それを越える高いビルを建設しようと言い出している。

いやいやこの時代に、そんな物建てたらダメだろう。

ビルの耐震は、俺もあまり知らないぞ。


地下で耐震ゴムが揺れを弱らせるとか、ビルの屋上でおもりが揺れてビルの揺れを抑えるぐらいだ。




あれからモデルハウスは、大繁盛だいはんじょうであった。


ミニチュアの模型で、柱を基本とした模型と壁枠を基本にした模型を、来客に作らせて揺らしてもらった。

実験を見て客は納得して感心していた。

その場で契約する客も大勢いて、第1次建設数は完売。

第2次公募を急遽きゅうきょ行なう事を、その場で決めてしまった。


ローンが組めるのが良かったらしい。

うちの銀行から行員が出向いて、その場でローンが組めるのがありがたい。



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