第81話飛行機が飛んだ




俺と実験担当者5人が見守る中、責任者がスイッチを押した。

すると動力が入り、大型扇風機が回り出した。

徐々に風の風力が上がり出した。今は中ぐらいの風を発生させてキープしている。

試作翼に風が当たり揚力ようりょくが発生していて、その揚力が計測中だった。


「計測値82に達しました。そのまま81、80、82に戻りました」


「これも今一つだな、次の試作翼を設置してくれ」


「強風にしないのですか?」


「中でこの数値だと見込みはないよ」


3人が付けていた試作翼を取り外し、新たな試作翼を取り付けて点検をしている。


「固定部4点異常ないか?」


「ありません」


「計測器の接続も大丈夫か?」


「大丈夫です。数値に異常ありません」


風洞ふうどう実験室から出るぞ」


次の実験が開始された。


「計測値110に達しました」


「ヨシ、強風にしてくれ」


「分かりました」


「計測値300に達しました。大成功ですよーー」


「山田、よく頑張ったな。これで次の段階に行けるな」


「まだまだ、いい物を作りますよ」


にこやかに笑っている。

2日前までブツブツ言っていた人間が、こんな顔をするのだと感心してしまう。


これで、飛行機を飛ばす翼の形状が決まった。

俺の知識を参考にしたが、実験結果を見ないと使えないと判断。

ライト兄弟も、風洞実験をしたことで有名だ。

ただしエンジンの馬力が小さくて、更にプロペラへはチェーンで回転を伝えていた。

エンジンに直接プロペラを付ければいいのに、回転にムダな力を使ってしまっている。

ライト兄弟が自転車店を経営していたので、そうなったのだろ。

後発の飛行機は直接に回転軸につないで、馬力のムダをなくしていた。




ここは、先程までいた実験室より静まり返っていた。

設計図に向かって何人も、黒炭で作られた筆記具でカリカリと図面上に書き込んでいた。

時には間違ったヶ所を消しゴムで消している。

このゴムも、南蛮人の影響下のタイやインドネシアから輸入されたもので、今も大量に輸入している。

飛行機に使うタイヤには、欠かせない材料だ。


「佐藤、どんな具合かな」


「今の所は、軽く小型である条件ですと800馬力しか出ません」


「無理を言ってすまないが頼むよ」


「それは重々分かってます。こんな光栄な仕事は、絶対に成功させます」


「それからネジ規格は、統一してくれよ。好き勝手に新たに作る事は禁止だ」


「何故ですか? 強度が欲しいときに変更すれば簡単です」


「それだと、メンテで似た規格のネジで絞めた場合はどうする。締め付け強度がなくなってしまうぞ。それに同じ規格だと機械化が進みやすく単価も安くなるんだ」


「そこまで考えるのですか? ・・・」




あれから3ヵ月後に、改良された翼と1100馬力のエンジンを載せた小型飛行機が完成した。

試作機なので木製の機体だ。

大工連中が試行錯誤しこうさくごしてようやく作り上げた。

一部は補強の意味でアルミ合金のパイプを使用。機体の強度を増している。


将来的には、超アルミ合金で軽く強度もある合金を使う予定だ。

すでに確保して生産ラインに乗るのを待っている。



そして広い飛行場に、何処で嗅ぎ付けたのか大勢の野次馬が土手の上から見ている。


「あんなに人が居ては、秘密は守れません」


「しかし、この実験飛行をもとに更なる開発が進むんだ。遅らせる訳にいかない」


「そうゆうことだ。秘密はいつかばれる。秘密に関しては諦めよう。実験を行なってくれ」


俺のとなりの静香は、左手をギュッと強く握りしめた。

なにやら静香まで心配を掛けたようだ。


あわただしく飛行に向けて動き出した。

滑走路に物が落ちていないか確認する者や、もしもの備えで消火準備をする者たち。



旗が振られ、滑走路はOKの合図が出た。


飛行機のプロペラが「ブルルウウウウ」と音を発しながら動き出した。

50メートルも走ると、機体がふわり浮き1メートリ、5メートル、15メートルを飛んでいる。



土手にいた野次馬が騒ぎ出した。


「なんであんな物が空を飛んでいるんだ」


「すごい!すごいぞ!!」


中には座り込んで、おがみだす者まで現れていた。



ああ、遠くの方でUターンして戻って来た。

ここからが本番だ。

着地方法なんてあまり知らない俺は、皆と一緒に協議して考えた。

紙飛行機を飛ばし着地を観察。飛行機模型を手で持って着地方法を探した。


失速ぎりぎりのスピードで滑走路に進入して、滑走路上で失速すれば無事着陸する。

いたってシンプルな答えだった。

それを飛行機に置き換えて、どのように操作してやるか議論した。




それが目の前で行なわれようとしている。

ゆるやかに高度が落ちて、タイヤで着地して飛行機が走り続けた。

タイヤのブレーキで速度が落ちて止まった。


「着地成功!成功だ!」


研究者や作業者が騒いでいた。


「旦那さま、21分の飛行時間ですよ」


俺は、静香の顔を見た。静香は冷静に時間を計っていた。



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