第61話蝦夷の土産




巨大に輸送船が入港している。

北海道(蝦夷えぞ)からの輸送船で、その船で明智光秀も乗って帰って来ているはずだ。

大型クレーンによって冷凍された毛ガニが、鉄製のカゴに一杯のまま吊るされて陸に降ろされていた。

荷台に載ったカゴは、急いで冷凍庫へと運ばれだしている。


「道を開けろ。カニが通るのを邪魔するな!!」


威勢いせいのいい男の声が響き渡っている。

中には、そんな連中とケンカする者まで現れていた。


「お前こそ邪魔するなーー」


そんなケンカしている連中の横には、冷凍されたホタテの貝柱が一杯に入っていた。

その向こうには、ジャガイモが大量に積まれている。

俺が、種芋を渡したのが順調に育ったようだ。

そして俺の目の前では、トウモロコシが詰まった麻袋を担いで、送り先へと仕分けしてりた。

送り先には、京や九州方面の前線基地と書かれていた。


「殿、あのカニにトゲが一杯に生えてます。あのカニは食べるのですか?」


「ああ、食べると美味しいぞ。今晩の食事には出すように言っておくよ」


「あら・・・ありがとう御座います」




「殿!!只今戻って参りました」


すがすがしい声がした方を向くと、明智光秀が数人を引き連れて手を振っている。

そして、駆け出して向かってくる。

歳は50を過ぎているのに、なんと若々しい行動だ。

俺の所に来た時には、連れられた若者の方が息を切らしている。


そんな光秀は、北海道のことをあれこれと話だして中々止まらない。


「光秀殿、ここでは何かとうるさいと思いまする、どうか殿と一緒に城へ参りましょう」


「は!!申し訳ありませぬ・・・」


頭をかきながらついて来た。




天守閣から眺めていた光秀が、ぽつりと呟いた。


「ここからの見晴らしに比べれば、人とはちっぽけで御座いますなーー。蝦夷えぞを見て歩き回ってつくづくと思いました」


どうやら、自然の北海道を満喫まんきつして世界観が変わったようだ。


「寒い蝦夷は、辛かっただろう。今度、大和国やまとのくにを貰うことになった。蝦夷にとどまるか大和の代官として赴くか、好きな方を選べ」


「それでは、蝦夷でお願い申し上げます」


「蝦夷が好きになったか?」


「好きになりました」


「分かった。任せたぞ」


「ははーー」



明智光秀を交えて、夕食を食べていた。

お膳には、『毛ガニの甲羅盛り』が出て来た。


静香は、口いっぱいに入れて食べている。

もう無言で2匹目だ。


光秀は、毛ガニを器用にきながら食べていた。

カラになった毛ガニは5匹で、食べっぷりは半端ない。


なので会話は弾まない。

俺は、七輪の網にのせて焼いた毛ガニを、はじめて箸をつけて食べていた。






急に目が覚めた。

静まり返った夜の部屋には、静香に寝息の音が「スー、スー、スー」としかしなかった。

急に淡い気配が感じた。


果心居士かしんこじで御座います』


微かに声だけが聞こえてきた。


「何か用か・・・」


『ポルトガルとスペインの連合軍が向かっています』


「え!・・・何故その情報を・・・」


『後、1ヶ月で到着するでしょう』


淡い気配が急に消えてしまった。

まさに化け物だ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る