第42話河野水軍




佐々木泉美ささきいずみは、女性なのに大柄な女だった。

180センチの身長で、筋肉も引き締まっている。


なんでも、幼い頃から大きく、柳生心眼流の甲冑兵法を習っていたらしい。

いつしか付いた名が麒麟児きりんじだった。


この時代の男は、160センチでも背が高い部類に入る。

なので、目立っていた。

顔も化粧はしていないが、素顔でも綺麗な顔立ちだ。

それにともない話し方も男と変わらない。


最初は船乗りの経験者を船長に任命したが、経験より才能を重視するようになった。

駆逐艦は、船乗りの経験が余り必要ない。

戦況を瞬時に判断して、的確な指示をすることが重要だった。

そして、才能を買われて、船長に任命された。


「【なばな】や【ながしま】より先行しろ」


「船長、この艦は最新ですよ。負けるはずがありません」


「バカ野郎が、我ら学問所上がりの新参者だと言う事を忘れるな。ここで手柄を立てなくてどうする」


「船長の心配も分かりますが、こっちには秘密兵器がありますよ」


「それが慢心なんだよ、このバカが」


船長の心配に反して、時間が経つにしたがい両艦を引き離していた。


「船長、離れ過ぎじゃないですか?」


「いい、このまま進めろ」




「あ!船長、河野水軍が見えました。数大小合わせて100は居ます」


「そのまま進めろーー、ライフル隊の準備をさせておけ」


「分かりました」




「敵の船の、右側面を秘密兵器で仕掛けるぞーー」


「早速使うのか、了解!!」


「オラオラオラア、衝撃の準備をしておけーー」


河野水軍を目の前にして、右に大きく回り込み、側面に猛スピードで突っ込んだ。

河野水軍は、帆で風を受けての行動の為に、相手の動きに付いてこれなかった。

無防備な側面をさらしながら、弓を構えて矢を打ってきた。


頑丈な鉄製の船体に跳ね返されている。


最初の犠牲になったのは、小船だった。


側面にぶつかり「ドンシャン、バリバリ」と響くとすでに沈んでいた。

そして、2番目の犠牲になる大きな船にぶつかった。


「ドン、メリメリ」一瞬止まったが、紀伊の船尾少し沈んだ。

すると紀伊の船首が大きく浮かび、敵の船にのしかかった。

紀伊の舳先へさきは特殊加工された鋭利えいりな作りになっていた。


そのまま船の側面が「グシャリ」と裂けた。

そのまま進む紀伊によって、2つに割れていた。

そうなると後は沈むしかなかった。


次々に船が犠牲にあっていた。


ようやく河野水軍を抜けた時には、13もの船が沈み、3船が惨い形で浮かんでいる。


「早く引き返せーー。更にぶつけるだ!」


「船長の命令だ!早くしろーー」


またも、側面攻撃が続いた。



「船長、あの船です。偉そうに怒鳴っているので間違いない河野通直こうのみちなおです」


「ヨシ、あの船に近づけろーー」


「皆!聞いたか早くしろ」



ようやく近づくと、佐々木は船首に備え付けられた捕鯨砲ほげいほうにしがみ付いていた。

これは、クジラを取る為に装備されたものだった。


佐々木は狙いを定めてレバーを握った。

「バシュン」と発射音がして、大きな鉄のもりが打ち出された。

銛には丈夫なロープが結ばれていて、そのロープが凄い勢いで伸びてゆく。


目標の船のどてっぱらに当たり抜けなくなっている。


「モーターを回せ、野郎ども乗り込んで捕まえて来い」


甲板からライフルの銃声が響きわたった。

そんな中で縄梯子なわばしごが下ろされた。

その縄梯子で途中まで降りて、飛び乗ってゆく兵士たち。

船内で白兵戦が起きた。


「船長、足を傷つけたけど生け捕りにました」


「間違いないのか?」


「おい!間違いないな・・・本人も認めてます」


「なら、早くこっちに連れて来い」


「了解」




大半が沈められていた。

そうなると指揮もくそもなく、逃げ出す船が大半だった。


その頃になって、ようやく現れた【なばな】と【ながしま】であった。


紀伊の横を通り過ぎる時に、なばなの河上かわかみが怒鳴っていた。


「覚えていろーー、このくそ女」


「船長、あんなことを言ってますよ。あの白髪爺しろかみじじが」


「ほっとけ、あの爺ちゃんはあっちの方はお盛んらしいぞ」


「ワハハハハ・・・そりゃーー面白い」



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