イニシエーターズ

空翔 / akito

1章 ファーストキャンペイン

Prologue

 東京エリア――渋谷。


「エリア制圧まで、もう少しだ! 最後まで踏ん張れ!」


 その場の指揮を執る女性が、付近の仲間たちに喝を入れる。

 そして、仲間と自分を喰らわんと攻撃してくる化物たちを、剣銃ソードガンを用いて撃ち殺す。

 女とその仲間たちを襲う化物は、人間の形をした、体中が岩のようなもので繋ぎ合わせられたような形をとり、あちこちの亀裂が赤く光っている。


霧島きりしまさん!」


 女性が声の聞こえた方向へ視線を向けると、一人の男が女性のもとに近づいて来ていた。


「あいつら……こんな強さなはずがありません! おそらく周囲の能力を強化することに長けたスペクターがどこかに紛れていま……」


 刹那、一体の化物が男の頭部を攻撃範囲に捉え、その歪な形をした腕で殴らんとする。

 女性はすかさず銃剣の剣の部分で、その攻撃を受け流すためにカバーに入り、攻撃を流されバランスを崩した化物の心臓部分を、今度は銃で打ち抜いた。


「す、すいません……」

 

「気を抜くな。おそらくそのスペクターはあいつだろう」


 女性が銃口を向けた方向へ男が視線を移すと、そこには周囲の化物が赤い光を発しているのに反して、緑色の光を放つ化物がいた。

 こちらが戦闘に集中しているせいもあるだろうが、その化物は上手く周囲に溶け込み視認できないように行動しているようだった。


「た、確かに……あいつだけ全く攻撃を仕掛けてくる気配がないですね。むしろ自身は援護にまわるといったような動きをとっています」


「私が奴のところまで一気に攻め入る。清水しみず、お前は私の後方の援護を頼む」


「わ、わかりました。」


 唐突な戦略にも関わらず、男はそれを受け入れる。


「では行くぞ!」


「はい!」


 二人は同時に猛烈なスピードで、標的の位置まで一気に駆け抜けようとする。

 途中、他の化物がそれを絶とうと攻撃してくるが、二人で互いを庇い、何とか目標を攻撃範囲に捉えられる位置まで到達した。


「これで終わりだ!」


 女性の扱う銃剣ソードガンの銃口が、目標の頭部を延長線上に捉える。

 しかし同時に、化物の腕が女性を目掛けて尋常ではない速さで振られる。


「ま、まずい!」


 このままだと先に自らが攻撃を受けてしまうと思った女性は、防御態勢に切り替えようとする。

 だが予期した攻撃が途切れた。


「霧島さん! 今です!」


 男が瞬時に化物の腕を、刀で弾き飛ばしていた。

 女性は防御態勢に切り替えるのを止め、そのままトリガーを引く。

 射出された弾丸は化物の頭部を穿つ。

 そのまま化物は倒れこみ、起き上がることはなかった。それと同時に、周囲の化物の動きが一瞬鈍る。


「強化状態が解けた! 一気に叩き潰せ!」


 女性の一声と共に、仲間たちは一斉に攻撃を仕掛ける。

 先刻とは違い化物の能力が低下し、次々に攻撃が刺さっていく。

 数秒前とは明らかに形勢が逆転していた。


***

 

 そうしてようやく――


「何とか制圧完了しましたね」


「ああ、やはり能力強化型のスペクターは先にたたくべきだ」


男の言葉に女性はそうやって返す。


「それはそうと……もう少しで新入隊員がやってくる時期ではないですか」


「ああ、今年はどんな顔が揃うのだろうな」


 女性は空を見上げながら、心の中で思う。

 今年の新入隊員が、どれだけ初陣で命を落とすのだろうか……そして、そんな絶望的な状況を変えることのできる人材が必要だ……と。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る