第25話 たわいもない
アンジェリカは深紅の髪や瞳の色を引き立たせるような緑のビキニで、ビキニトップスから堂々見える胸の谷間も、ビキニボトムスからはみ出すような臀部も、惜しげもなく太陽の下に曝け出している。
カーラはワンピースタイプの水着で全体的に露出が少ない。修道女の服と同じような濃紺一色の水着からは、胸の谷間も臀部もほとんど見えない。
だが神様は目に見えないものであり、教会の教えを体現した水着なのだろうか。
僕は神様を信じない。いくら祈っても最上位魔法は使えるようにならなかったから。
でもこの光景は、神様が創ったと言われたら信じてしまうかもしれない。
クリスティーナはアンジェリカ以上の豊満な肉体を…… と言いたいところではあるけれど、意外と露出は少ない。
水色の髪に映える真っ白なビキニだけど、胸を覆う面積がアンジェリカのそれよりも大きく、腰にはパレオを巻いているから真っ白な臀部が見えない。
死んだ魚のような水色の瞳は、雲一つない空を、空よりも青いローモンド湖を、どんな思いで映しているのだろう。
彼女の艶姿が完全に見られないのは残念だけど、同時に安心する。
ここはプライベート・ビーチとはいえ、僕たち以外の人間が入ってくるかもしれない。見も知らずの人間にはクリスティーナのそんな姿を見られたくなかった。
「いかがです? アデラ叔母様のプライベート・ビーチは?」
片方の腕を胸の前で横に伸ばすストレッチを行いながら、アンジェリカは誇らしげに言った。
ここはローモンド湖の湖畔。
岸辺に寄せては返す波は、僕の故郷の黒い海よりも穏やかで。
ここに来るまで馬車で通りすがった場所と違って、釣り人も手漕ぎ舟で観光する人たちもいない。
屋敷のすぐ近くが抉られたような形の入り江になっており、遠浅で波が穏やか、しかも外からは人目に付きにくいため格好の泳ぎ場となっている。
『慰霊祭は明後日よ。アンジェリカの縁談の相手、ジョナサンとの顔合わせは三日後だし、明日は存分に羽を伸ばしてらっしゃい』
というアデラ様のご厚意で、今日一日は遊べることになった。
ストレッチが終わった後、僕たち四人は波打ち際に入る。海と違って岸辺は砂利と大小の石で、足の裏の感触がくすぐったい。
水着とはいえ、貴族のたしなみとして万一の事態にすぐ対応できるように太腿に革製のベルトを着け、杖を差し込んでいる。
膝まで水につかると、日差しは暑いのに涼しく感じられるほどだった。ローモンド湖には湧水が流れ込んでいるせいか、夏場でもかなり冷たいらしい。
「ほら、いきますわよ!」
でもそんな冷たさをものともしないアンジェリカが水をすくって、僕らにかけてくる。僕やクリスティーナ、カーラも負けじと応戦した。
アンジェリカは水遊びが好きなのか、テンションが上がりっぱなしだ。
白い歯を見せて大きく笑い、銀笛のような声はいつも以上に澄んでいる。
誰に気を遣うこともなく、大きく手を振り上げて水をかけていく。はじめは遠慮がちだったカーラも勢いよく反撃するようになっていった。
死んだ魚のような目をしていたクリスティーナも、ほんの少しだけ口元をほころばせた。カーラ以上に腕を大きく動かしているのに、水は小柄なカーラの半分も飛ばないけれど。
僕はこの場にいるただ一人の男子なので、少し加減しながら反撃していく。
アルバートは「ごめん。少し用があるから」と今日は屋敷にこもるらしい。
アールディス家の嫡男ともなれば、色々とやることも多いのだろうか。
しばらくそうやって全身が水に濡れた後、もう少し深いところまで行って泳ぐことにした。
澄んだローモンド湖の水は、水深が浅いところでは水中を泳ぐ魚がはっきりと見える。
僕は魚を追うようにして水に潜り、ゆっくりと肌を包む水をかき分けて泳いでいく。水面を波立たせると魚が逃げてしまうため、水中で櫓をこぐようにして、穏やかに。
アンジェリカやカーラも同じように魚と戯れているのが見えた。指を差し伸ばすと逃げるのに、足をつつかれてびっくりしたり驚いたり。
日光が水面の波を金色の網のように水底に映し出しているのを、指でなぞったりもしている。
クリスティーナは魚も金色の網にも関心を示さず、一人でゆったりと泳いでいる。水の掛け合いの時とは別人のように、優雅に。
初めて出会った時から、変わっていない。クリスティーナは運動全般が苦手だけれど、泳ぐのはすごく上手い。
大きいおっぱいも、くびれた腰も、育ったお尻も強調される水着なのに。
いやらしさを感じさせないほど、彼女自身も、泳ぎ方も綺麗。
水色の髪が泳ぎに合わせて水の中でそよぎ、まるで人魚のようだ。
やがて疲れたのか彼女は波打ち際の方へ泳ぎ、やがて歩き、水から上がる。パレオが水で体に張り付いて、隠れていた体の線が露わになった。
アンジェリカ以上の腰のくびれも、丸みを帯びて胸がドキドキするお尻の形も、はっきりとわかる。
普段の僕なら眼を逸らしてしまうけど、周りに僕のことをからかう同級生はいない。
アンジェリカもカーラも、いじりやからかいを好むタイプじゃない。
だからクリスティーナの艶姿を、目に焼き付けるように見る。
魔法も使わない、剣術もない、たわいもない遊びの時間。それがすごく心地いい。
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