第七話 休日の訪問者
「うーん……。ん?」
俺は目を覚ますと、体が座ったままの体勢なことに気付く。身体中が痛い。
(昨日はよく眠れたか? スグル)
(んあ? ナナシか。おはよう……)
俺は目をこすりながら立ち上がる。昨日何も食べなかったからか腹が減っている。
(ところで……昨日の話なんだが……)
(あっ!)
俺は昨日ナナシと話していたことを思い出す。そしてその途中で眠ってしまったことも。
(悪かった! 貧血でつい……)
(いや、別にそれはいい。重要なことは話せたしな。それより……あの後、例のカノン・リールズがお前を監視しに来た)
(え? マジで? それ大丈夫だったのか?)
全く気づかなかった……。まあ、寝てたから気づかなくっても不思議はないけど。
(ああ。対策もしておいたし、これから監視されることもないだろう)
(早いな〜。そんな簡単に対策出来るもんなのか?)
監視しに来たってことは居場所もバレてそうなのに……。
(まあ、心力で見に来ただけだったからな。これくらいなら一瞬で終わる。それと、軽くだが構成員の方も調べた。今の所、心力使いは六人だけっぽいな。こっちはこれから増えないとも限らないからそこまで当てにするなよ)
(はいはい)
俺は食パンを焼きながら、ナナシの報告を聞く。ついでに時計を見ると朝の十時を指していた。……どうやら半日以上寝ていたらしい。
(そういえば、今日はどうするんだ? アヤネ、リアと会うって話をしてたが)
(ん? ちょっと待ってろ)
ナナシに聞かれて、俺は携帯を見る。
『了解です! 何時頃にどこに行けば良いですか?』
と小清水さんからメールが届いていた。どうやら会えるようだ。
『じゃあ今日の一時にここで待ち合わせでいい?』
と、地図で位置データを送りながら返信する。安くて美味いため、俺が重宝しているカフェだ。そして、フレンド申請が来ていた添木のアカウントにも連絡を入れる。
『今日仲間と会えるっぽいから、一時にここ待ち合わせで』
と先ほどと同じ店の位置データを送る。
(よしっ。これでオッケーだ。今日の一時に集合だからそれまでは特になにもないぞ)
(分かった)
そう言うとナナシは静かになる。俺は焼き上がった食パンを食べ始めた。
「……はぁ」
朝食を取り終わった後、着替えようとクローゼットを開けると、思わずため息が出る。俺の視線の先には破れて血だらけになった制服がある。昨日の戦闘で剣崎に切られた物だ。……どうしよう。制服に代わりなんてないぞ……。一応学校で無料で修理はしてもらえるけど……この血がなぁ〜。
一応代わりの服を着る事は許されているが制服を修理している間に限る。修理に出そうにもこの血をなんとかしないと確実に怪しまれる。
(ナナシ。なんとか出来ないか?)
俺は藁にもすがる思いでナナシに聞いてみる。
(残念ながら無理だな。血をきれい洗う心力なんて便利なものはない)
(だよな〜。はぁ……)
俺はとりあえず着替え、洗面所に向かい、洗濯機で洗えば落ちないかと半ばやけくそになった時
――ガチャッ
「!?」
家のドアが開く音が聞こえた。誰だ!? 俺は洗面所の中に隠れる。ここなら玄関からは見えないはずだ。
「……」
静かにしていると何者かがリビングに向かって歩いていく……あれは……悠香か? どうやって入ってきたんだ?
「あれ? スグ兄居ないじゃん。せっかく驚かせようと思ったのに……」
と悠香は残念そうに言う。アイツ……そんなくだらない事考えてたのか……。
「な〜に勝手に家に来てんだ。いつも来る時は連絡しろって言ってるだろ」
俺は洗面所から出ると、残念そうな悠香の後ろから話しかける。
「うわっ! びっくりした〜。急に後ろに立たないでよ! びっくりするでしょ!」
「びっくりするでしょ! じゃねーよ! びっくりしたのはこっちだ! どうやって家に入った!」
「お母さんから合鍵盗んで来た」
悠香はケロリとした顔で答える。……罪の意識は無いようだ。
「よし! 恭子さんに言いつけよう! このままだと俺の家のプライバシーが無くなる!」
「あ! ちょっと待って! 違うの! ごめん! 待って!」
「いーや、待たん! お前が俺の家に勝手に来れる状況なんて疲れて仕方がない!」
「ひどいっ! ていうか嘘! 嘘だから! ちょっと待ってってば!」
悠香は俺の背中にしがみついて弁明してくる。
「じゃあどうやって家に入ったんだよ」
「……えーっと……その……バカにしない?」
「ん? バカになんてする訳ないだろ。なに言ってんだ?」
「じゃあ……う〜ん……」
話そうとしても言いよどむ悠香。いつも言いたいことはすぐに言う悠香にしては言いよどむのは珍しい気がする。
「で? 結局どうやって入ったんだよ。俺の家の防犯にも関わるんだからさっさと教えてくれ」
「そ、その……超能力が使えるようになりました」
「……はぁ?」
俺は思わずそう声を漏らしてしまった。超能力って心力のことだよな? それを悠香が?
「ほら〜! やっぱりそんな反応する〜! だから言いたくなかったの! 言っとくけどマジだからね! 冗談じゃないから。お母さんに言わないでよ」
「……いつからだ」
「え? 何? 急に真面目な声になって。もっと呆れられると思ったんだけど」
「良いから答えろ。いつからその超能力を使えるようになった?」
俺は悠香に問い詰める。
「え? き、昨日の夜からだけど……本当にどうしたの? 大丈夫?」
「ハァ……。まさかお前も心力使いになるとはなぁ〜」
「え? 心力使い? ちょっと待って? なんでスグ兄の方が詳しそうなの?」
「俺もなったんだよ。お前と同じ超能力者に」
「……え? マジで!」
悠香は俺の返事を聞くとびっくりしたように目を見開く。
「ああ。会わせたい人がいる。一時に会う予定だからそれまでにその超能力の事を教えてやる」
「ちょっ、話を進めないで? 今私、混乱してるから! そんな事言われても困るっ!」
「Oh……」
俺から心力の説明、悠香が一回襲われた事を話すと悠香はそんなふざけた返事をしてきた。コイツ意外と余裕あるな……。ちなみにナナシに話させようと呼びかけたところ、「幼馴染ならお前でも説明出来るだろ。後でリアの方に説明するときも出る必要あるんだからそのときに同時に話す」と面倒くさそうな声で言われてしまった。……適当な奴だ。
「そういえば今日の昼飯、お前はどうするんだ?」
「切り替えが早いな、おい。私まだ微妙に混乱してるんだけど……。う〜ん……スグ兄はどうするの?」
悠香は呆れたようにつぶやいた後、俺に聞いてくる。
「ん? 今日は自分で作る予定だぞ」
「あ! じゃあスグ兄私の分のご飯も作ってよ!」
「え? 嫌だよ」
俺は悠香にお願いされる。しかし面倒なので普通に断る。
「なんでだよう! 私の分くらい作ってくれてもいいじゃん!」
「え〜……普通に二人分の昼飯作るの面倒なんだが……」
「お願いだよ〜。久々にスグ兄の料理食べたい〜!」
悠香はダダをこねるように俺の肩を掴み、ブンブンと揺らしてくる。
「あ〜。もう分かった分かった! 作るから。作るから待ってろ!」
「やった〜! スグ兄の料理楽しみだなぁ〜」
「……ほんと調子がいいな。お前」
さっきまで混乱してるって言ってた癖に。
「そんな事ないよ。スグ兄以外にはもう少し遠慮してるし」
「……その遠慮俺にも出来ないの?」
「しませんよ〜。何バカなこと言ってんすか」
悠香は呆れたような口調で話してくる。
「チッ! オマエの昼飯は作らなくたって良いんだぞ!」
「ちょっ、舌打ちはやめて! スグ兄の舌打ち結構怖いんだから!」
「ならそのうざい喋り方やめろ! 疲れるんだよ!」
「はぁ〜? 今うざいって言いました? 私のこの愛嬌のある話し方をうざいって言いましたか〜?」
「そういうのがうざいって言ってんだよ! もっと他にあるだろ! ましな喋り方が!」
「え? ましな? うーん……」
悠香は俺の言葉を聞くと考え込む。そして――
「スグ兄〜。私はスグ兄のことがだ〜い好きだから私の今日のお昼つくって?」
俺の耳元まで顔を近づけ甘ったるい声でそう囁いてきた。
「キッモ」
「うぉーい! せっかくスグ兄のためにやったのにキモいは無いだろ! キモイは! 私が傷つくぞ!」
「わ、悪い。つい……」
「ついとか言うな! 余計ほんとっぽくなるでしょうが! あ〜もう。それで? 今日は何作るの?」
悠香はすぐさま切り替えると俺にすぐさまそう聞いてくる。
「ん? ペペロンチーノだけど……文句は言うなよ」
「言わない。言わない。っていうか私パスタは大好物だし。むしろ大歓迎!」
親指を立てて俺の顔の前に持ってくる悠香。
「そうなのか? まあ、作ってくるから。あんまり部屋を荒らすなよ?」
「はいはい。分かってますって」
俺は手早くペペロンチーノを作り終えるとさっさと皿に盛り付け、リビングに出す。俺は先程朝食を食べたばっかりなので少し少なめだ。
「はい、どうぞ」
「うわ〜! 美味しそう! いっただっきま〜す」
悠香は嬉しそうにフォークを取ると美味しそうに食べ始める。
「あっ! これうっまい。お母さんが作るのよりうまい!」
「……それ言っちゃって良いのか? 今の言葉を恭子さんが聞いたら泣くと思うぞ」
俺は悠香と会話しながらフォークを動かす。我ながら良い出来だ。美味い。
「そういえば……」
「ん? 何?」
しばらく黙々と食事をしてから俺はあることを思い出して聞く。
「お前どうやって俺の家に入ったんだ?」
「ふぉへふぁふぁれふぁよ。ふぃんふぃふぃ――」
「ちゃんと飲み込んでから話しなさい」
「ふぁい」
悠香はごくんと喉を鳴らし、食べ物を飲み込んでから話し始める。
「あれだよ。心力使ってちょちょいっと開けたんだよ」
「……そういえばお前の能力ってなんなんだ?」
悠香が心力使いになった事に頭が一杯で聞くの忘れてた。
「え〜どうしようかな〜? 他人に能力をおしえるのはなぁ〜」
「ふざけてないで言え」
「あ、はい。それでは発表しましょう! 私の能力は! 『物の時間を巻き戻す』です!」
悠香は突然テンションを上げて、大声で明かす。
「大声出すな。近所に迷惑だろ」
「え? そこ? もうちょっと能力の方に反応しない?」
「いや、だってなぁ〜。急に物の時間を巻き戻すって言われてもなぁ〜?」
正直あんまりしっくりこない。
「そうは言っても私だってそれくらいしか分からないんだもん。けどこれ結構便利なんだよ。さっき家に入ったときもドアの時間を巻き戻してドアの鍵開けたもん」
自慢気に悠香は俺に言ってくる。ん? 待てよ……? それなら……。
「ちょっと待ってろ」
「え? どしたの?」
俺は悠香の質問を無視して慌てて洗面所に向かい、洗おうとして入れっぱの制服を取り出した。
「これも戻せるのか?」
「ん? 多分でき――どうしたのそれ!? 血だらけじゃん!? え? 誰の? 返り血? っていうか量多くない? ……まさかスグ兄、人を……殺……」
「してねぇよ! よく見ろ! 破けてんだろ? 俺が切られたんだよ」
とんでもない誤解をされそうだったので慌てて訂正する。
「え……? 大丈夫? これ結構血、ついてるけど……」
「もう治ったからそんなに心配すんな。で? 戻せるのか?」
「ん。出来ると思うよ? ほら」
悠香は立ち上がって俺の制服に触れると、制服が光り、血が消え、穴が塞がっていった。
「おお! ありがとう! ほんとに困ってたんだよ……! マジでこれからの学校どうしようかと……」
「ふっふ〜ん。もっと褒めろ〜。優秀な私を褒めろ〜」
「ほんと普段は面倒くさいけど世話見ておいて良かった〜」
「おい。今なんで毒吐いた? 今私を褒める所だぞ? ねえ? なんで?」
「そろそろ時間だな。行くか」
俺は食事を終え、そそくさと立ち上がり、シンクに皿を置き、出ていく準備を始める。
「おい、無視かよ……。あ〜もう。意味分からん。それで? これからどこ行くの?」
「ん? エントラスってカフェ。最近見つけたんだけど、安い上に美味いからよく行ってるんだよ」
「へぇ〜。そこで待ち合わせしてるの?」
「ああ。ほらさっさと食え。遅れるぞ」
「あ〜。ちょっと待って〜。もう食べ終わるから」
悠香は急いで料理を食べきると、俺と同じようにシンクに皿を置き、出ていく準備を整えた。
「ごちそうさまでした〜。よ〜し! それじゃあ、カフェ、エントラスに行こう! いや〜スグ兄が美味しいって言うなんて楽しみだね〜」
「なに? お前さっきまで食べてたのにまだ食べるの?」
俺は思わず呆れた声を出す。コイツ……まだ食べるのか……。
「デザートだけだよ。カフェなんだからデザートになるようなモノくらいあるでしょ?」
「まあ、あった……はず。俺は頼んだことないけど」
「大丈夫でしょ。スグ兄が美味しいっていうくらいの料理を作ってるならスイーツも美味しいでしょ」
悠香は楽観的に言う。まあ、そうだとは思うけど……なんか俺も食いたくなってきたな。
「ん。着いたぞ」
しばらく悠香と歩き、目的地のカフェ、エントラスに着く。
「お、ここかぁ〜。もう中に他の人居るの?」
「さっきメールが来てた。一人はもう来てるっぽいな」
先程小清水さんから着いたと連絡が来たのだ。
「うわっ……なんか緊張してきた……」
「そんな事言ってないで、さっさと行くぞ」
そうして俺たちはエントラスのドアを開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます