第五話 VSカノン・リールズ

「どうやら覚悟は決まったようだな。さあ、君たちは勝てるか? 我々、『カノン・リールズ』に!」


 剣崎は仰々しく両手を広げながら名乗る。急に変な名前を名乗るな……と思っていると添木が一歩前に出る。


「悪の組織、カノンリールズ。貴方達は私達が、いえ『ロード・ヴァルキュリア』が打ち破る!」

「……はぁ!?」


 キリッと格好つけた添木の言葉に思わず声が出る。私達って! この人、俺も数に含みましたね? なんとなく思ってはいたが……こいつら、厨ニだな? 喋り方とかもそうだけどっ、カノン・リールズとかロード・ヴァルキュリアとかいかにもな名前だ。


「ねえ、透。やっぱりこれやめないか? なんか恥ずかしい」


 俺が添木の言葉に困惑していると勝浦が呆れたように剣崎に話し始める。


「そうか? 大義にはそれにふさわしい名が必要だろう?」

「いや、そうかも知れないけどさ……。聞いてるこっちの背中がむず痒くなってくる」

「悪いが慣れてくれ。それに、格好がついていると仲間も加わりやすいだろう?」


 あいつら、呑気に話しているな。今なら当てられる! 俺はそう考えて心力を発動させた瞬間――


(スグル! 前に撃て!)

「ッ!」


 ナナシがそう叫ぶと同時に剣崎の方から光弾が飛んでくる! 俺は慌ててそれを電撃で迎え撃つ! 電撃と光弾がぶつかった瞬間……


 ――ドカーン!


と先程のような爆発が目の前で起こり、辺りが眩い光に包まれる。その光が収まり、視界が開ける。


「おいおい。ひどいじゃないか。伏島優。人が話している間に攻撃しようとしてくるなんて。空気が読めないのか?」

「なっ……!」


 その剣崎の後ろには、大量の光弾が浮かんでいた。なんだよ……あの数。


「フゥ……。なるほど。それが君の心力か。なかなか面白い心力だな。だが、それでこの大量の弾を受けきれるか?」


 剣崎がそう言うと同時に大量の光弾を俺に向けて飛ばしてくる!


「……ッ!」


 俺はその光弾を電撃で撃ち落としていく。そのうちいくつかは爆発していくが、全ては撃ち落とせず俺に当たると同時に爆発する。


「やはり連発は出来ないようだな。さあ、どんどんいくぞ」

「ッチ!」


 俺は相変わらず光弾を撃ち落としていくが、打ち漏らした光弾が俺にダメージを与えてくる。しかもこれ、もう10m位近づかないと電撃が当たらねぇ!


「……グアッ!」

「大丈夫!?」


 打ち漏らした光が顔面に当たって思わずうめき声を上げると、添木が心配そうに声をかけて駆け寄ってくる。


「あ、ああ。大丈夫だ。そ、それより、えっと……添木でいいか? あんたは大丈夫か?」


 俺が話し始めると、光弾の勢いが少し弱まり、話をする余裕が生まれる。


「私は大丈夫。というかあの男、貴方にしか攻撃していない。攻撃してないからか舐められているようね。……伏島君で良いかしら?」

「呼び方は添木に任せる。それよりあんたの能力はなんだ? もう少し近づければこいつを当てられるけど数が多すぎる!」


 とりあえず電撃が当たるところまで近づけないと話にならない!


「……それは教えられない」

「は? なんで!」

「教えることは出来ない。けれど、あの剣崎とか言う男の心力を、数秒間止めることくらいは出来る」

「! 本当か?」

「ええ。ただし、連発はできないし、あっちの勝浦には使えない」

「分かった! それじゃあ、添木のタイミングに合わせる。あいつの心力を止めてくれ!」

「了解したわ!」


 数秒でもあいつの心力がなければ電撃の射程距離に入れる!


「話し合いは終わったか? それではこちらも再び本気を出すとしよう」


 話が終わると剣崎がこちらに話しかけてくる。するとまた先程のように光弾が勢いを増して俺たちを襲ってくる。あいつ……! こっちの話が終わるまで手加減してたってことか! まずい! この距離だと添木にも当たっちまう!そう思った瞬間――


「ジ・アリエス! ファーストドライブ! ジャッジメント!」


 添木が呪文のような言葉を叫び、赤いオーラが右目全体を覆う!


「ほう?」


 すると、目の前まで迫っていた光弾がフッとかき消える。今の内に……! 俺は全力で前に走り、射程圏内まで一気に近づくと、電撃を指先に溜めて、思いっきり放つ! この一撃で、あいつを倒す!


「食らいやがれッ!」

「ッ! なるほど。なかなか高威力だな。私の心力とは大違いだ。だが、一撃で私を倒すには少々距離が足りなかったようだぞ? 次は、私の番とさせて貰おう」

「なっ……!」




 剣崎が言い終わるのが早いか、大量の光弾が俺を襲う!


「……ガッ!」

「伏島君!」


 次の電撃を放つのが遅れた俺は、ほとんどの光弾を食らってしまう。後ろで添木の声が聞こえる。視界が揺らぎ、足元もふらつく。


「……やはり君は素晴らしい! これだけの攻撃を食らっておきながら、まだ立っていられるとは! やはり君は私と手を組むべきだ!」


 剣崎は攻撃を止めて、俺に言う。


「言っただろ。俺は人殺しを容認するようなヤツと組む気はないって。それより、お前がどうしてナナシのことを知っているか、教えてもらうぞ」

「断ると言ったら?」

「お前を倒して、無理やりにでも聞き出してやる」


 俺は話している間に溜めていた電気を剣崎に打ち出した!


「そうか。ならばこのままむざむざと死ぬがいい!」

「ッ!」


 俺が放った電撃は光弾で再び防がれ、目の前が眩しく光る。その奥から出てきた大量の光弾が俺の横を通り後ろで爆発が起きる。今の……見えていないと当たらないのか?


(スグル! 攻撃するなら食らいながらでも近くで撃て! お前の電撃なら近くで一発当てれば十分倒せる!)

(それ大丈夫なのか? さっきのでも結構きつかったんだが)

(お前の魂は今までの攻撃で致死量の5分の1ほどダメージを受けてる。今までのダメージを後4回は受けられるはずだ)

(了解!)


 俺は光が収まる前に剣崎の方向に駆け出す!


「うおおおお!」




「! ジ・アリエス!」


 俺が突撃するのに合わせて、添木が先程と同じように心力を発動させようとする!


「ファーストドライブ! ジャッ――」

「悪いが、また心力を止められると困るのでな」


 そう言うと俺の目の前に迫っていた光弾のいくつが俺の横を通り、添木に当たり爆発する。


「添木!」


 思わず俺は足を止めて叫ぶ。


「私は気にしないで! 大丈夫! 耐えられないほどじゃない!」

「……ッ! 分かった!」


 俺は再び足を動かし、剣崎の直ぐ側まで近づく! 攻撃の一部が添木に向かったおかげでそんなに多くはない!


(スグル! 今だ!)

「今度こそ!」


 ナナシがそう言うと同時に電撃を剣崎に向けて撃ち出す!


「なッ!」

「あっぶね〜。透、流石にもう手加減するの辞めたらどうだ?」


 俺が撃ち出した電撃は剣崎に当たる直前に物に当たったように途切れる。


「そうだな。できればお前にこれ以上負担を――」

「『心力模倣重力操作』」

「グッ!」

「グァッ!」




 俺の目の前で呑気に話していた二人が急に地に伏せる。すると俺の左手の感覚が無くなり、勝手に持ち上がる。その手の平には昨日のように口が生えていた。ナナシは先程電撃が途切れた所に手を伸ばす。そこにはまるで何かがあるように手が進まなくなった。


「空気を固定して、壁にしているのか……。なるほど、お前の心力は『固定』か。スグルの肉体の主導権を固定して俺の魂を封じ込めたって所か」

「答えると思うかい?」


 勝浦がそう言うと、ナナシが触っていた壁が無くなる。


「そこまでだ。お前が俺の魂を封じた瞬間、スグルの電撃がお前を倒す」

「え? あっ!」


 そう言われて、俺は慌てて指先を光らせる。完全に忘れてた……。


「……お前ぼーっとしてたろ」

「う、うるせぇな! そんなことより、質問しなきゃだろ? お前、どうしてナナシのことを知ってた?」

「……」


 俺が聞いても、剣崎、勝浦は、黙ったままで何も答えない。すると、ナナシが口を開く。


「どうした? さっきまで楽しそうに話してたじゃないか? 心力使いが選ばれた者だとか、心力を社会に認めさせるだとか。なぁ? 同じように話してくれないのか?」


 ナナシは煽るように話す。しかし、剣崎は


「残念だ。この力、君の心力の一端に過ぎないのだろう? やはり、なんとかして君たちも仲間に加えたかったのだが……仕方がない。どうやらお前を弱らせ、仲間にさせるほどの実力は私には無かったようだ。さて、伏島優、そしてそのもう一つの魂よ! ここからは仁の心力もすべて使って、全力で相手をしてやろう!」

「伏島君! 上にっ!」


 剣崎が言い終わると、添木の叫び声が耳に届く。上を見ると大量の光弾が浮かんでいた。……ッ! そんな遠くにも作れるのかよ!


「チッ!」

「もう遅い!」


 俺が剣崎に電撃を撃ったときには上から光弾が降り注いでおり、電撃は防がれてしまう。それと同時に左手の感覚が戻ってくる。




「これで魂をもう一度封じたよ。透。これからはもう一つの心力も使うんだね?」

「言っただろう? 全力だと。どちらにしろ、このままだとジリ貧だ。さあ、始めてくれ」

「分かった」


 二人が話し終えた瞬間勝浦の背中のオーラが強く光る。そのあまりの眩さに目の前が見えなくなる。視界が開けるとそこには……。


「なっ!」

「な、何……? あの数……」


 今までの倍ほどの数に増えた光弾に、俺と添木は思わずそう声を漏らす。


「驚いている暇などないぞ。さあ、今度こそ終わりだ!」


 その瞬間、俺の視界を光弾が覆う!




(スグル! 一旦リアの所まで下がれ!)

(! 分かった!)


 俺は電撃で光弾を撃ち落としながら、後ろに下がる。しかし今までよりも増えた光弾に対処出来るはずもなく、ガッツリと攻撃を食らう。


「グァッ!」

「ジ・アリエス!」


 添木が心力を発動させようとするも――


「させないと言っただろう!」


 光弾が曲がり、添木の妨害に向かう!


(リアを守れ! スグル! あのレベルの心力を使っているんだ。そう長くは続かないはずだ! 長期戦に持ち込むためにも、リアと一緒に防御に徹しろ!)

(そういうことね!)


俺は自分の体を添木の前に出し、光弾をもろに受ける。しかし……!




「ファーストドライブ! ジャッジメント!」


 俺が攻撃を受けたことで添木の方まで光弾が届かず、呪文が唱え切られる。やっと攻撃が止まる!


「大丈夫? 伏島君」

「ハァ、ハァ、だ、大丈夫だ。とりあえず、あの量の光弾だとそんなに長い間打ち続けられないらしい。全力で防御に徹するぞ!」

「分かったわ。私は今まで通り心力を止め続ければ良いのね?」

「そうだ! 頼んだぞ」

「任せて! さっきので分かったけれど、魂が傷つかない限り、数秒のクールタイムさえあれば攻撃できそう」

「それだけできれば十分だ!」


 話が終わるのと同じ位のタイミングで光弾が飛んでくる。


「防御に徹するか。ならばこちらも全力でお前の魂を削りきってみせよう!」


 俺は光弾を受けながらも電撃を放ち、少しでもダメージを減らしていく。


「ガッ!」

「ジ・アリエス! ファーストドライブ! ジャッジメント!」


 再び、添木が心力を止めてくれる。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!」

「本当に大丈夫? かなり多くの攻撃を受けていたけれど……」


 激しく息切れしている俺に添木は心配そうな声をかけてくる。


「だ、大丈夫じゃなくても、この状況をなんとかしないと、どっちも終わりだ! 絶対に耐えてみせる!」

(スグル! 後2回くらいだ! なんとか耐えてくれ!)

(あ、ああ! 回数が分かるだけでも気が楽だ!)


 今までの感じからして、俺も後2回耐えられるか微妙だけどな……。


「なるほど、私達の限界が近いと知っての防衛策か。しかし、お前の魂も十分弱ってきてるぞ? さぁ、最後の我慢比べといこう!」

「クッ!」


 光弾を食らいながら、俺は剣崎の心力をなんとか出来ないか考える。何かないか……? あの心力をさばき切れる何かが……!


俺は自分の心力の性質を考える。電撃。それが俺の心力だ。物理的な干渉は起こせず、剣崎の光弾のように魂にだけダメージを与えられる。


「ッ!」


 そこまで考えたときに一つの可能性を思いつく。剣崎と同じ攻撃方法? 先程、剣崎は俺を避けて添木に攻撃するために光弾の軌道を曲げていた。もしかして俺の心力も……。試しに……!


「よっし!」


 放った電撃に円を描くように曲がれと念じると、電撃は俺が念じたように曲がり、光弾の大部分を受け止める! 出来た! これなら後一回も……! そう思ったとき光弾の数が一気に減る。




「ハァ、ハァ、ハァ、悪い……。透。これ以上やると固定の方が使えなくなりそう……」

「……そうか」


 そう言って、剣崎も光弾を消す。こ、これで終わりか? 随分とあっけないように感じる。


(気を付けろ。まだ俺のは封じられたままだ!)

(そ、そうか)


 だが、手数が減った今なら簡単に近づける! そう思ったときだった。


「ならばそろそろ潮時か……。思ったよりも戦えたな。いいものを手に入れた。そして……」


 フッ……と剣崎の姿が見えなくなる


「なっ!」


 どこ行った!? 俺がそう思ったのも束の間、剣崎は俺の目の前に現れ、胸元に手を置く。


「ガハッ!」

「さらばだ。伏島優。君の強さに敬意を評して、その名を私の記憶の中に永遠に刻んでおこう」


 俺の体は右肩から左脇まで袈裟斬りされたかのように傷つき、激しく血が噴き出した。


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