第三話 魂の消えた犠牲者

「ふぅ〜最後の最後に大変だったね、優」

「……ああ」

「小清水さんは、大丈夫?」

「は、はい…… 少し疲れたけど大丈夫です」

「そう、それなら良かった。ところで……優、随分様子が変だけど大丈夫?」

「……ああ」

「じゃあ、小清水さんが疲れてるみたいだし、駅まで送ってってくれる? 僕はそろそろ帰らなきゃだから二人きりになるけど」

「……ああ」

「え!」

「ん? どうした?」


 突然小清水さんが驚いたような声を上げたので、話を全く聞いていなかった俺も会話に参加する。


「い、いえ! 伏島さんが送ってくれると言ったので……本当に良いんですか?」

「え? 俺そんな事言ってた?」

「ホントに大丈夫? 優、さっきの会話もなんだか上の空だったし」

「あ、ああ。ちょっと考え事してた。悪い」


 上の空だったのはそれ程までに先程のナナシとの会話は俺に衝撃を与えたからだった。





(その女、魂がなくなっているぞ)


 ナナシははっきりとそう言い放つ。


(え? それってまずいんじゃないか?)


 先週、電撃使いと戦った時に魂にダメージを受けすぎると死ぬとナナシが言っていたのを思い出した。


(当たり前だ。そもそも魂とはその人間の肉体以外の全てと言ってもいいものだ。魂が無くなるとその人間には意思が無くなる。要はただ生きるだけの生き人形だ。その状態になったやつが治ったのを見たことが無い)

(お、おい。つまり……)


 ナナシの説明に嫌な予感がして、冷や汗が流れる。


(オマエの想像通りだ。スグル。その女はもう死んでいるようなものだ)





「優! いい加減帰ろうよ。もうあの人も病院に送ったし」


 ボーッとしていた俺は響也に呼ばれてハッとする。


「あ、ああ。悪い悪い。じゃあ小清水さん、駅まで送るよ」

「え!? い、いいんですか? 迷惑なんじゃ……」


 小清水さんは申し訳無さそう名様子だ。


「大丈夫、大丈夫。一応やるって言ったからな、駅くらいまでは送るよ」

「そうそう、ちゃんと話を聞いていなかった優が悪いんだから小清水さんは遠慮しないで送ってもらっちゃいなよ」

「俺が話聞いてなかったのも悪いけど響也がやるように仕向けたんだからな?」

「いや〜まさか本当にオッケーしちゃうとは思ってなかったよ〜。それにさ、優もたまには女の子と話した方が良いんじゃない? 優がクラスで女の子と話すの見たこと無いし、まともに話せなさそう」


 響也は小清水さんに聞こえないようにか、小声で言う。


「余計なお世話だ。だいたい、俺にだって女子の知り合い位居るぞ」


 性格はあんなだが悠香だって女子だ。


「そんな事言ったって、どうせ優のことだし、一人ぐらいしかいないんでしょ。僕なんてクラスの全員と知り合いな自身があるよ」

「お前は三股の悪名で知られてそうだけどな」

「……ま、まあそんなことは置いといて、とりあえず! 僕は帰るから、小清水さんのことはよろしくね〜」


 俺と話すのが面倒くさくなったのか響也はそそくさと帰っていった。


「響也のやつ……逃げやがったな……」

「あ、あの……伏島さん? な、何を話してたんですか?」


 俺がぶつくさと文句を言っていると小清水さんが聞いてくる。


「ああ、いや……別に気にしなくもいいよ。どうでもいいことだから。それより近くの駅でいい?」

「あ、はい。それでお願いします……」

「オッケー、それじゃあ行くか」







「……」

「……」


 歩き出してから数分、俺と小清水さんは二人共無言で歩いていた。非常に気まずい……。これじゃあさっき響也に言われたことも反論出来ないな……。


「あ、あの……ふ、伏島さんは岩水さんと……な、何をしてたんですか?」


 そう思っていると小清水さんが話題を作ってくれる。


「ん? 俺は映画、『楽園の死神』ってやつ見てたんだけど、知ってる?」

「あ! 知っています! 私、それの原作読んでます!」


 小清水さんは嬉しそうに話し始める。


「ホントに? ていうか小清水さんってそういうの読むんだな」

「あ……ハイ。姉がよくそういうの読んでて、他のはあんまり読まないんですけど、楽園の死神だけは名前が面白そうだなって――」


 小清水さんが楽しそうに話をしていると突然グラリと体が揺れ、倒れそうになる。


「おぉっと!」


 慌てて小清水さんの手を掴み、体勢を整えさせる。


「大丈夫か? 怪我とかしてない?」

「あ、す、すいません……。 なんだか急に目眩がし……て……?」

「ん? どうかしたか? やっぱりどこかに怪我でもしたんじゃ……」


 急に歯切れの悪くなった小清水さんを心配する。


「い、いえ! 私は大丈夫なんですけど……」


 小清水さんが掴んだ手の方に目を向ける。


「あ、わ、悪い! 手、掴んだままで……」


 俺は慌てて手を放す。男が苦手って公言してるくらいなんだから掴まれたままだと困るよな。


「そ、それは大丈夫です。流石に助けてもらったのに拒否するみたいな恩知らずなことはしませんから……。そ、そんなことより、大事な話が!」


 小清水さんはぐいっとこちらに寄ってくる。


「な、なんだ?」


 小清水さんの顔がすぐ前に来て、少しドキッとする。


「そ、その……えーっと……」


 小清水さんが言葉に詰まる。


「ご、ごめんなさい! やっぱりちょっと自分の中で整理したいので後で連絡します! それでは!」


 そう言うと、小清水さんは走り去ってしまう。


「ちょ、ちょっと?」


 声を掛けたときにはすでに道の角を曲がり、小清水さんの姿が見えなくなってしまった。


「連絡先交換してないけど大丈夫かな……」





 小清水さんと別れ、家に帰ってから昨日のように心力の練習をする。


(まだやってたのか? その無駄な練習)


 ナナシが呆れたように聞いてくる。


(別に良いだろ。こんな非日常的な事そうそう体験出来ないだろ。無駄でも使ってみたいんだよ)

(まあ……その気持ちはよく分かるが……)

(だろ? 別に使うことでデメリットがあるわけでもないし)


 話しながら俺は電撃を目の前のクッションに向かって打ち出す。微妙に外れた電撃は壁に音も無く当たり消えていく。


(フッ……まだまだだな)

(う、うるせぇな。まだ慣れないんだよ)


 煽ってくるナナシに言い返すとナナシは話を変える。


(そういえばスグル、どうしてあの女の為に救急車を呼んだんだ? 治らないって言ったよな?)

(別にいいだろ……。今の医療技術なら治るかも知れないし)


 意思のない生き人形というナナシが言っていた言葉を思い出す。そんな状態の人を放置したくはなかったのだ。


(まあいい、俺に協力してくれるなら特に文句を言うつもりもないしな)

(それなら良かった)


 ナナシの会話を終えて先程の小清水さんとの会話を思い出す。


「そ、そんなことより、大事な話が!」


 結局と言うか、やはりというかあの後小清水さんから連絡は来てない。まあ、連絡先を交換してないのにメールやらなんやらが来ると怖いんだが……小清水さんは何を話そうとしていたんだ? わざわざ大事って言う程の事……思いつかないな。






「……」

「優く〜んご飯食べましょ……ってどうしたの? 難しそうな顔して」

「いや、今日の朝からすごい視線を感じる」

「へぇ〜優なんて見ててもつまらないだろうに。誰が見てんのさ」


 響也はそう言うと、キョロキョロと辺りを見回す。


「小清水さん。昨日大事な話があるって言われたんだけどそれから特に会話もないし、俺なんかしたか?」

「小清水さん? あ、ホントだ。今こっち見てたよ。しかも大事な話でしょ? 告白でもされるんじゃない?」

「昨日まで名前すら知らなかった男に告白なんてする訳無いだろ」

「まあ、僕もそんな事微塵も思ってないけど……あ、小清水さんこっちに来たよ」

「え? マジ?」


 小清水さんの方に目を向けると、こちらに歩いてきていた。微妙に顔が強張っている気がする。




「あ、あの、伏島さん! 今日の放課後、予定ありますか?」

「ん? ああ。特に予定は無いけど……昨日の話のこと?」

「は、はい……あ、後、できれば二人きりで話したいんですけど……」

「二人きり? 他人に聞かれたくない感じか?」

「そ、そうですね……出来れば……」


 二人きりでか……。どこか良い所あるかな……。


「あ、なら優の家とかどう? 確か一人暮らしでしょ? 確か」


 突然話を聞いていた響也がそんな提案をしてくる。


「え? いやぁ……俺は良いけど、小清水さんはそれでも良いのか?」

「は、はい! この際伏島さんの家でも良いです。二人きりになれれば!」

「そ、そうか。 なら今日直接家に来る?」

「あ、お、お願いします! それじゃあ、放課後!」


 そう言うと小清水さんはペコリと頭を下げて席を離れていった。




「ホントになんなんだろうね。小清水さんが二人きりで話したいことって」


 響也は近くの席を近づけて、持ってきた弁当を開けながら聞いてくる。


「さあ? 心当たりが全く無い」

「まぁ、もうすぐ分かるでしょ。あ、お箸忘れた。ちょっとご飯食べるの待ってて。売店行ってくる」


 そう言うと響也は俺の返事を待たずに教室を出ていった。


「今日は悠香と帰れないな……」


 そろそろ一緒に帰りたいと駄々をこねられそうだな……。先に連絡しておくか。










「はい、どうぞ〜」

「お、お邪魔……します」

「そんなに緊張しなくても……無理そうだな……」


 小清水さんは家に入るなりぎこちない動きになる。よく見ると顔に汗が浮かんでいる。


「とりあえず座ってて、なんか飲み物持ってくる。麦茶でいい?」

「は、はい! ありがとうございます!」




 リビングに荷物をおいた後、キッチンから麦茶を持ってくる。


「本当に大丈夫か? 汗すごいけど」

「す、すいません……私、よく考えたら男の人の家にお邪魔するの初めてで……その……き、緊張してしまって……もう少しどこで話すか考えるべきでした……失敗です……」


 そう言うと小清水さんは落ち込んだように顔を俯ける。


「まあまあ、そんな緊張しなくていいから。それよりも、大事な話って?」


 これ以上話を引き伸ばしても仕方が無いので、早速本題に入る。




「あ、はい! その……伏島さんって今、何か特殊な状況に置かれてたりしますか? 例えば……魂が2つあったり……」


 突然、俺の魂の状況を言い当てられる。なんで知っているんだ?


「は?」

「す、すいません! 急にこんな事言われても困りますよね? でも、どうしても気になってしまって……ごめんなさい!」


 俺が思わず尖った声をだすと、小清水さんはペコペコと頭を下げる」


「あ、いや、別に良いんだが……どうやってそのことを知ったんだ?」




(おい、スグル、腕借りるぞ)

(え? ちょ、ちょっと!?)


 小清水さんに質問をした瞬間、ナナシが突然話しかけて来る。すると、右腕が勝手に上がり、そこに口が現れる。


「うわぁ!」「ヒッ……!」


 突然俺の腕に口が現れたことに、二人して驚く。しかしそんな俺達の困惑を無視して――


「はじめましてだな、アヤネ。俺の名前はナナシ。200年前に起こった白犬神伝承、その生き残りだ」


 いつも頭の中で流れるナナシの声が放たれた。






「え? ナナシなのか?」

「だからそうだと言ってるじゃないか?」

「び、びっくりした〜。急に口が出来たから何事かと……」

「え? なんですか? 何なんですか? これ!?」


 口の正体が分かって落ち着いた俺と対照的に、小清水さんは完全にパニックに陥ったままだ。一旦落ち着かせよう。




「ちょ、ちょっと落ち着いてくれ。事情を説明するからさ」

「そうだ、お前は今から俺の話を聞く必要がある」


 再び、ナナシが口を開けると、小清水さんはビクッと震え、


「ひっ……!」


 と怯えたように小さく声を上げた。


「落ち着いたようだな。それでは早速本題に入るが――」

「ッ!」


 ナナシは話を続けようとすると、小清水さんは再びビクッとする。落ち着いているようには全く見えない。




「ナナシ、ちょっと黙っててくれ」

「なんでだ? こいつは心り――」

「お前がしゃべると小清水さんがビビって会話が出来ないんだよ! しばらく静かにしてくれ!」


 小清水さんの様子を全く気遣おうともしないナナシの態度に苛立ち、声を少し荒げる。


「……悪い」


 そう言ってナナシは口を引っ込めた。


「……あー悪いな。小清水さん、怖がらせ……て……。え?」


 口論を終えて小清水さんの方に顔を向けると、小清水さんは涙目でプルプルと震えていた。


「ううっ……。す、すいません……。お、大きい声がこ、怖くて……」


 謝罪をしながら、小清水さんは目元をゴシゴシと拭う。


「え? な、泣くほど? わ、悪い! 気遣いが足りなくて!」

「い、いえ! わ……悪気が無いのは、わ……分かっているので……ただ、ちょっと落ち着く時間が欲しくて……」

「わ、分かった。じゃあ、部屋の外で待ってるから。落ち着いたら教えてくれ」


 そう言うと俺は慌てて部屋を出る。






「な〜にが会話にならないだ。お前も会話出来てないじゃないか。スグル」


 俺が部屋を出ると、先程と同じようにナナシが口を生やして、文句を言ってくる。


「しょうがないだろ。まさかあれだけで泣くほど怖がられるとは思ってなかったんだ」

「ったく、やっと見つかった心力使いだってのに……ただ話すだけでこんなに苦労するとは思わなかった」

「……え? マジで? 小清水さん心力使いなの!?」

「気づいていなかったのか……大体、そうじゃないとアヤネの前で俺が姿を見せる訳ないだろう」

「それもそうだけど……」


 俺の中にもう一つの魂があるのに気づかれたのは彼女の心力のせいだったのか。





「し、失礼しました……た、多分もう大丈夫です……はい……」


 しばらく待っていると小清水さんが部屋から出てくる。


「おお! 丁度いい。アヤネ。今からオマエにも説明するからよく聞いておけ」

「は、はい……な、ナナシさんで良いんですよね?」

「ああ、それじゃあまずはアヤカの今の状況を教えてやる。まずはその力だが――」






「なるほど……。こ、この力が、あの心力だったんですね……」


 ナナシから心力の話や俺が今どういう状況なのかの説明を受けた小清水さんは水色のオーラを右手から出し、それを見つめる。心力を発動させているのだろう。


「あれ? 小清水さんは水色なんだな。オーラの色」

「え? 伏島さんは違うんですか?」

「ああ。ほら」


 心力を発動させて、右手から黄色いオーラをだす。


「あ、ホントだ……」


 小清水さんは感心したように声を漏らす。


「心力は人によって色が違うんだ。まああの男とお前みたいに同じ色のこともあるけどな。」

「なるほどな〜」


 てっきり全員黄色いのかと思っていた。




「話が逸れたな。お前はあの日、帰る途中でスグルと触れて、俺の存在に気づいたんだろう?」

「は、はい……伏島さんに手を掴まれたとき、魂が2つあるって気づいて……」

「ああ、そうか。手掴んだ後スゲー挙動不審だったのはそれに気づいたからなのか」

「あ、いえ……。普通に手を掴まれたのにもびっくりしてました……」

「そんなことはどうでもいい。ここからが大事な話だ。アヤネ、オマエは俺の協力してくれるか? しないなら、アヤネの心力を使えないようにするつもりなんだが……」


 ナナシは唐突に本題に入る。命の危険もあるし、流石に参加しないだろうが、あの時の男みたいに心力を小清水さんに向けて放つのは中々に気が引けるのだが……。




「……」

「まぁ、別に無理することも無いし、普通に断ってくれて良いぞ。ナナシは結構強いっぽいし」

「……い、いえ。私なんかで良ければ協力させてください!」


 少し悩んだ後に小清水さんはナナシからの協力を了承した。


「え!? マジで!? 結構危ない事することもあると思うぞ?」

「だ、大丈夫です! す、少し怖いですけど……」

「な、なら別に無理しなくても――」

「そうか。ならこの話は終わりだな。続きはまた今度だ。俺は疲れたから少し眠る。じゃあな」

「お、おい! ちょっと?」


 話すだけ話すと、ナナシは口を消してしまう。




(おい! ナナシ! 少しは話を聞け!)

(うるさい……。魂を変形させて無理矢理喋ってたから眠いんだ……。静かにしてくれ……)

(は? まだ話は終わってないぞ! おい! ナナシ!)

(……)


 あいつ本当に寝やがった……!


「あ、あの……どうしたんですか?」

「ああ、悪い。ナナシが寝ちまった。もう少し話したかったんだけどな……。ていうか良いのか? 俺達に協力するって言ってたけど」

「は、はい! もしかして……迷惑でしたか?」


 小清水さんは不安そうな目でこちらを見てくる。


「ああ、いや……そうじゃなくって……小清水さんがこういうのに協力してくれるっていうのが意外でさ。協力するのも怖いってさっき言ってたし」


 話したのは昨日が初めてだし、まだそんなに話してない。それでもなんとなく小清水さんが協力してくれるような性格には思えなかった。


「あ、そ、その……伏島さんって学校に来てますよね?」

「ん? そりゃ学生だしな」

「ってことは一応毎日会うと思うんです。そうしたらクラスで伏島さんを見る度に私は逃げたって感じる気がして……そうなるのはイヤなんです。」

「いやぁ……流石に危ないことだから俺のことは気にしなくて良いんだぞ?」


 ナナシは協力を求めたとはいえ、クラスメイトを巻き込むのは気が引ける。


「い、いえ! やると言ったからにはやります!」


 小清水さんは決意を固めるように言った。




「まあ……小清水さん嫌じゃないならいいけど、嫌になったらすぐ言ってくれ。本当に無理はしなくていいから」

「お、お気遣いありがとうございます……」

「いやいや、当たり前のことだから。別に気にしなくてもいいよ。……そういえば小清水さんって心力ってどんなのなんだ? 魂を感知できるとか?」


 小清水さんが俺の中に居るナナシの魂に気づいたことを思い出し聞いてみる。


「あ……そ、それは能力の一部というか、能力を使わなくても出来るっぽいです。それであの人の魂が無くなってることに気づいたので。本来は……やってみた方が分かりやすいと思います。ちょ、ちょっと右手を出して貰えますか?」

「ん? いいけど……どうするんだ?」


 小清水さんに右手を差し出すと水色のオーラを出した両手で俺の手を掴む。急に手を掴まれてドキッとしたが、小清水さんは気にしていないかのように続ける。


「ちょ、ちょっと待って下さい……今探してるので」


 と目を閉じて集中しているようだった。


「探してる?」

「は、はい……あ、これとかいいかも……」

「なにかあったか?」


 どうやらなにかを見つけたらしい小清水さんは手を離して話し始める。


「その、伏島さんの心力ってまだ教えて貰ってないですよね?」

「そうだな。教えるタイミングもなかったし」

「それが分かりました。伏島さんの心力は魂を破壊する電撃を出す能力ですよね?」

「おぉ……当たってる……。他人の心力が分かるのか?」


 もしそうなら今回の魂を奪った犯人や心力を持っている人を小清水さんが見つけてくれるかも知れない。そう考えて期待しながら聞いてみる。




「そ、それも出来ますけど……せ、正確には違います。わ、私の能力は『魂の情報』を読み取れるんです」

「魂の情報?」

「は、はい。その人の記憶とか……感情とか……他にも色々と分かります」

「なるほどな、それじゃあ俺の心力はその魂の情報から読み取った訳だな」

「は、はい……。も、もう一度やって見てもいいですか? まだあまりこの能力に慣れてなくて……」

「ああ。いいぞ。俺もよく練習してるしな」


 そう言いながら小清水さんに手を差し出す。


「そ、そのプライベートはできるだけ守るようにしますので……」

「ああ。頼む」


 小清水さんは俺の手を掴んで集中するように目を閉じた。


「……幼馴染が居るんですね……。悠香ちゃん……可愛い子ですね。へぇ〜幼稚園のときから一緒……」

「ああ、そ、そうだな。全部合っているぞ」


 な、なんか……自分の昔の話をされるのって恥ずかしいな。


「他には……ええっと……フフッ」

「ん? どうした?」


 俺の記憶を読んでいた小清水さんが突然小さく笑い声を上げる。


「い、いえ! すいません。その悠香ちゃんの伏島さんの前での態度を見まして……信頼されてるんだなぁと思いまして。後、その悠香ちゃんの変わりようが面白くって……フフッ」

「……」


 今までの緊張したような顔から一転、可愛らしい笑顔の小清水さんにドキリとする。


「ん? どうかしましたか?」


「ああ、いや……なんでも無い。っていうかもう結構遅いけど大丈夫?」


 小清水さんを誤魔化すために話題を変える。


「あ! すいませんこんな時間まで!」


 バタバタと帰りの準備を始める小清水さんを待っていると右腕の感覚が無くなる。




「アヤネ、もう帰るならこれを持ってけ」

「ナナシ!? 起きたのか!?」

「ついさっきな」


 突然ナナシが現れ、俺の右腕を使って小清水さんに小さい宝石のような物を投げる。


「うわッ! なんですか? これ……。あっ……」




 その宝石のようなものは小清水さんの手の中でキラキラと光を放ちながら消えていった。


「俺の心力の一つだ。これでアヤネに何かあったら分かるし、すぐに駆けつけられる」

「あ、ありがとうございます……わざわざこんなこと」

「別に気にしなくていい。特に俺やスグルに負担がかかるわけでもないからな」

「そうそう、小清水さんになにかあったら困るし。なんか連絡したかったらここに連絡して」


 そう言って俺の連絡先が書かれたメモを渡す。


「わ、分かりました! それじゃあ……」

「また駅まで送ろうか?」


 メモを受け取った小清水さんにドアを開けながら尋ねる。


「きょ、今日はまだそんなに暗くないので大丈夫です!」

「分かった。じゃあ、また明日」

「は、はい! ありがとうございました!」






 その日の夜……


「おお……」


『小清水です。今日はありがとうございました。心力の話とか色々不安だったので同じ境遇の知り合いが出来て嬉しかったです。これからよろしくお願いします!』


 というメールが猫がお辞儀しているスタンプとともに小清水さんから送られてきた。悠香以外の女子とメールで会話するのが初めてなので軽く感動する。




(なーにニヤニヤしてるんだ。ただの手紙だろ。気持ち悪い)


 メールを見ているとナナシが茶々を入れてくる。


(うるせぇーな。俺にとっては一大事なんだよ。普段女子とコミュニケーションなんか取らないんだから。それより明日からってどうするんだ?)


 俺はナナシに反論しながらこれからの予定を確認する。


(とりあえず新しい心力使いを探すのが目的だからな、アヤネには軽く心力の練習をするように言っておいてくれ)

(オッケー)


 ナナシの指示通りに小清水さんに返信する。




『明日からよろしく。とりあえずやることはないから、軽く心力の練習をしておいてほしいって』


 そうメールを送るとすぐに既読が付き、


『了解です』


 と短く返信が帰ってきた。


(送ったぞ)

(ああ、感謝する。それにしてもまさかこんなにすぐに協力者が出来るとは、幸先がいい)

(そうだな)


 ナナシとの会話に適当に相槌を打ちながら今日の小清水さんの会話を思い出すと、明日からのナナシとの活動が少し楽しみに感じた。

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