心力のユナイト
美味しい紅茶
第一話 伝承の始まり
白犬神伝承。そんな物が俺、伏島優が住む町、白水市にはあった。その内容は、伝承の名前にもなっている白犬様が200年に一度この街に住む人に心力という力が宿るというものだ。
今年はその心力が白犬様から授けられる年のようで、市が町おこしの一環として様々な活動をしている。
もっとも……200年前からの伝承を信じてる人なんていないし、俺も信じていなかった。信じていなかったのだが……。
(それで? いつになったらお前は出ていってくれるんだ?)
学校に着くと、俺の魂の中に住み着いたという男、ナナシに心の中で問いかける。
(言っただろ? お前には協力してもらうって。 出ていくつもりは無い)
(なんでだよ……。俺はこんなこと関わりたくないってのに)
思わずため息をつき、なんとかならないかと考える。そう、このナナシこそが俺が全く信じていなかった白犬神伝承を信じるハメになったその原因であり、今の俺の一番の悩みの種だった。
「んん……?」
まだ日が出ておらず、部屋が真っ暗な中、俺はぼんやりとした目を擦りながら起き上がる。
普段はこんなに早くに起きることはないんだけどな……。俺はそんなことを考えながら二度寝をしようと目を閉じると、頭の中に声が響く。
(おい、お前、寝ようとするんじゃない)
「んあ?」
その聞き覚えの無い声に思わず間抜けな声を上げる。俺は一人暮らしだ。他人の声が聞こえるはずが無い。俺は思わず飛び上がり、周りを見回す。
「……ん〜?」
しかしやはり周りには誰もおらず、首をかしげていると……。
(周りを見ても何も無いぞ。俺はお前の魂の中にいるからな)
「魂? っていうか誰?」
(ん? そういえば自己紹介がまだだったな。俺はナナシ。200年前の白犬神伝承その生き残りだ)
「……」
(どうした? 返事が無いとこちらとしても何を話せば良いのかわからないのだが……)
「はぁ〜!?」
ナナシと名乗る声の話を聞いて俺は思わず声を上げてしまう。200年前? 白犬神伝承の生き残り? っていうかなんで俺なんかに?
(驚くのも無理はないがこっちにも事情があるんだ。要件はたった一つ。お前には俺の協力をしてほしい)
俺が驚いている間にもナナシと名乗る声は話を続ける。
「は? 協力?」
(そうだ。お前も知ってるだろ? これからこの町に住んでる人間にはこれから心力が授けられる。そいつらの暴走を止める。それが俺の目的だ。そして、お前にもそれを協力してもらう)
「なんで俺が協力しなきゃいけないんだよ。俺はそんな面倒くさそうなことに関わりたくない。他をあたってくれ」
(悪いが俺はお前を諦めるつもりは無い。こっちにも事情があるからな)
ナナシは俺食い下がってくる。なんでだよ……。諦めろよ……。
(とにかく、俺は何がなんでもお前に協力してもらうからな。よろしく頼む)
「おい! 何勝手に決めてるんだ! 俺は協力しないからな!」
(フン。どうだかな。お前の魂を見ればお人好しなのが分かる。きっとお前は俺に協力するぞ)
ナナシは余裕そうに俺に言う。その余裕の態度にイラッとした俺は
「よーし分かった! そんなこと言うなら絶対に協力しねぇ!」
と気持ちを決めたのだった。
「あ、もう時間だね。それじゃあ委員長さん号令よろしく〜」
「起立、気を付け、礼」
「「「ありがとうございました」」」
最後の授業が終わり、帰りの支度を始める。ナナシは授業を受けたことが無いらしく
(授業というのがどんなものなのか興味がある)
と言って一時間目が始まってからは静かになってしまった。
(おい、ナナシ。もう授業は終わっただろ。質問があるんだ。色々教えてくれ)
ちなみに俺は今の所ナナシから何も教えてもらっていない。朝は協力しないって決めたから特になにも聞かなかったが、なにも知らないのは流石にまずい。そう思って俺はナナシに問いかける。
(なんだ? 協力する気になったのか?)
(いや、けどなにも知らないのはまずいんじゃないかと思ってな)
(そうか。協力する気が無いなら教えん。協力するならまた話しかけろ)
そう言ってナナシは黙ってしまう。……ったく、頼み事をするならもう少ししおらしくできないのか……。
しばらくして、ちょうど帰りの支度が終わった時――
「優くーん、帰りましょうー」
とクラスの外からおっとりとした声と共に幼なじみの悠香がひょっこりと顔を見せる。
「ああ、今行くよ」
(誰だ? その女)
俺が返事をすると頭の中でそんなナナシの声が聞こえてくる。
(幼なじみだよ。一ノ瀬悠香。昔っから親が出張とかで家にいなかったときは悠果の家によく預けられてたんだ)
答え終わると同時に悠果に近づく。
「悪い、少し遅れた」
「大丈夫ですよ。今日は予定もないですし」
といつものように肩を並べて帰る。
(なんだ。付き合ってるのか?)
と、ナナシがとても興味深そうに聞いてくる。
(幼なじみって言っただろ。昔はよく助けてもらったし、大切な存在ではあるけどな)
(何だ、つまらん)
ナナシが本当につまらなさそうな感じで言ってくる。心力使いを止めるとか言っている割にはこういうことにも興味を持つようだ。
「どうかしたんですか? 優くん?」
そんなことを考えていると、悠香がそう聞いてくる。その顔はどこか心配そうだ。
「どうかしたって何が?」
「なんだか、上の空だったので」
多分、ナナシと話してたことだろう。
「いつも通りだよ。心配されるようなことは特にない」
「そうですか? ならいいんですけど。あ、そういえばお母さんが、たまにうちに顔見せてねーって言ってましたよ」
「あー……最近顔見せてないからなー」
「お母さんはしつこいと思います。優くんもとっくに高校生になったんだから、今どき一人暮らしだ! ってそんな心配しなくてもいいのに」
悠香は不満げに言う。
「確かに月に一回は多いよなー。俺もついそっちに顔出すの忘れること多いし。三ヶ月に一度くらいが丁度いい気がする」
「分かりました。お母さんにそう言っておきます」
多分あんまり意味ないと思いますけど。と悠香はボソッと呟いた。まあ、そうだろうな……。
悠香といつもどおりの会話をしながら、俺の家につく。
「で? 今日はうちに来るのか?」
「はい!」
悠香は時々、学校が終わってからこのように直接俺の家に遊びに来る。本人曰く、家よりもこっちの方がとやかく言われなくて楽らしい。
「おじゃましまーす!」
ドアを開けると、悠香が先に俺の部屋に入っていく。そして、俺より先に荷物を部屋に置き
「ふぅー疲れたー」
ドサッとベットに倒れ込み気の抜けたため息を吐く。
「スグ兄〜漫画読んでいい?」
「いいけど勉強の後でな」
「え〜! いいじゃん」
「こっちは恭子さんにしっかりお前の面倒見るように言われてんだよ」
昔からお世話になってるからしっかりと恩は返しておきたい。
「あ、お母さんそんな事スグ兄に言ってたの?」
「そうだ。だからさっさと勉強しなさい」
「じゃあアニメ見ながらでいい? 今日のアニメ楽しみにしてたんだ〜」
と言いながら勝手にテレビを点ける。
「いや〜、やっぱりスグ兄の家はアニメ見るにはうってつけだね!」
コイツ……相変わらず家主の俺よりもくつろいでやがる。俺の動画配信サービスの履歴なんてほとんどコイツのアニメになってるし……。
(おい、スグル)
急にナナシが話しかけてくる。
(どうした? なんかあったか?)
(いや、そこのユウカの態度が急に変わったから気になっただけだ)
ああ、そんなことか。確かに悠香のさっきまでの姿を見てから素の姿を見ると困惑するかもな。
(悠香はこっちが素だぞ。高校に入ったときに『スグ兄』って呼んでいるのが恥ずかしいとかなんだかで外で話す時はあの礼儀正しい悠香のキャラ? みたいのができたんだ)
(なるほど。まあ確かに15、16だとそのような呼び方は恥ずかしいのかもな)
ナナシはそんなおっさんのような事を言って静かになった。特にやることも無いので俺も悠香と同じように宿題を進め始めた。
「終わったー! マンガ読もー」
勉強を始めてから1時間ほどして悠香が思いっきり伸びをして、本棚へと向かう。俺はすでに自分の宿題を終わらせてパソコンで動画を見ていた。
「スグ兄も、終わったなら手伝ってくれても良かったのに〜」
「アニメ見てるから遅くなるんだろ。我が物顔で人の家でくつろいでるんだからそれくらいで文句を言うな」
スグ兄のケチと不満を声に出しながらベッドに座り漫画を読み始めた。
しばらくして、静かに漫画を読んでいた悠香が急に
「今日夜ご飯一緒に食べない? なんか体に悪いもの食べたい」
と言ってきた。
「なんだよ。体に悪いものって」
「最近お母さんが体にいい食べ物に目覚めたらしくってね、食事の味が薄いんだよ。だからなんか体に悪いもの食べたい」
「恭子さんの気遣いを完全に無駄にする提案だな。……それより、モクバーガーでいいか?」
恭子さんには悪いが夕飯を作るのが面倒くさい俺にとってはありがたい提案だ。
「おっいいね~。じゃああと一時間くらいしたら行こう!」
と言って携帯を取り出す。
「あ、お母さん? あなたのかわいいかわいい娘の悠香だよ〜。ちょ、鼻で笑わないで? 娘のギャグを鼻で笑わないで? そうそう、それで、今日はスグ兄と一緒に夜ご飯食べることになったから私の夜ご飯いらないよ〜。何? スグ兄と話したい? オッケー」
悠香の電話を聞いてると、突然俺に携帯を渡される。
「スグ兄、お母さんが話したいって」
「なんか話すこと会ったっけ?」
「さあ? さっきのたまには顔見せろって話じゃない?」
と軽く話してから携帯を受け取る。
「はい。代わりました。優です」
「優くん、いつも悠香がごめんなさいね」
と申し訳無さそうに言ってくる。
「大丈夫ですよ。昔はそちらの家によくお世話になりましたから」
「あらそう? それじゃあ悠香のこと、よろしくね。それから、何かあったらすぐうちを頼ってね」
と言って電話が切れた。あの人も意外と図々しい。
「なんだって?」
「いつもお前がお邪魔してますって話と何かあったら頼れって話」
「別に邪魔じゃないのにね」
「……」
あまりの図々しさに言葉も出ない。この図々しさは親子の遺伝なのだろう。……まあいいか。
「そうだ。スグ兄、あのアニメ見た?」
「あーなんだっけ? 『オオカミ少女は空を想う』だっけ? まだ見てないな」
「え〜早く見てよ。どうせ暇でしょ」
「暇じゃねーよいい加減にしろ」
悠香の頭を軽く小突く。
「イテッ。ごめんごめん。けど早く観てほしいのはホントだから」
周りで誰も見てないから語れないんだよね、とぼやきながら悠香はまた漫画を読みはじめていた。
「いやーやっぱりモクバーガーが一番だね。チーズが濃厚だ」
悠香とモクバーガーを食べた帰り道に悠香がそんなことを言っている。
「まさか奢らされるとは思わなかった」
「まあまあいいじゃない。こんな可愛い女の子に奢れたんだから良かったじゃん」
そう言うと悠香は俺の背中をポンポンと叩く。
「チッ……。お前の素を見て奢りたくなるような男はこの世に一人もいねーよ」
「舌打ちはやめて! スグ兄でかいから舌打ちされると怖い!」
「ならそのうざいボケやめろ」
「うざいはヤメロ〜。傷つくだろ〜!」
いつものように、中身のない会話をしながら悠香を家に送る。途中で
「そういえばこっちから行くとかなり近いんだよねー」
と言って悠香は暗い路地裏を進んでいく。
「大丈夫か? こっちかなり暗いぞ」
「大丈夫、大丈夫。今はスグ兄がいるんだし。一人の時はこんな暗い道通らな――」
(伏せろ!)
突然ナナシの叫び声が頭の中に響くと同時に体中に鋭い痛みが流れる。
「……ッ! 大丈夫か!? 悠香!」
慌てて悠香の方を振り向くと、悠香は倒れていた。
「悠香? おい! 大丈夫か!? おい!?」
(落ち着け。スグル。ユウカはまだ死んでない。寝てるだけだ。それよりも後ろを見ろ)
「後ろ?」
ナナシに言われた通りに後ろを振り向く。
「あ? なんで倒れてねえんだ? これ受けたら今までの奴らは倒れてたんだけどな」
柄の悪そうな男がゆっくりと俺に向かって歩いてくる。
(左手を見ろ。黄色いオーラが見えるか? あれは心力を使うと出てくるものだ)
今のが心力の攻撃ってことか? ていうかなんでこんなに早くに遭遇するんだよ!?
(おい! ナナシ! なんとかしてくれ!)
(……悪い、少し時間稼ぎをしてくれ。今準備中だ。)
(はぁ!? お前、あんだけ偉そうだった癖に!)
(だから謝ってるだろ。それとも、お前もこのままそこのユウカみたいになってもいいのか?)
……それは困る。何をされるか分からないまま意識を失うのはゴメンだ。
(でも、どれくらい持つかわからないぞ?)
(安心しろ、さっきのあいつの攻撃を受けたユウカを見ろ。怪我をしてないだろ?)
(ん? あ、ああ。さっき眠ってるだけって……)
(そうだ。つまり、あいつの攻撃は魂に作用するものなんだ。肉体には影響しない。俺がお前に協力を求めた理由はその魂の力が恐ろしく高かったからだ。悠香とは違い、お前なら何発かはあの攻撃も耐えられるだろう。それに俺もお前の魂を守ることが出来る。これなら何の力もないお前でもいくらか時間は稼げるだろう?)
(……分かった。やるだけやってみる)
俺は覚悟を決めて男を見ると自身のオーラを見て不思議そうな顔をしていた。
「なんかミスったか? まあ、いいか。もう一回やれば」
そう言って男は右手を銃の形にしてこちらに向けてきて――
「はい、バーン!」
その瞬間、指先が光り、胸に先ほどと同じ痛みが走る。
「……ッ!」
「は? なんで? 今度はちゃんと狙ったんだが……」
またも倒れない俺に対して、男の顔に警戒の色が浮かぶ。
「お前、なんで悠香と俺を狙った?」
時間稼ぎのために男に話しかける。
「ん? 別にお前らを狙ったわけじゃねーよ。ただお前らがこの暗〜い路地裏に来たから、この力を使ってありがた〜く金をいただこうと思っただけだ。って俺の話はどうでもいい。お前の話だ。どうしてこの力に耐えられる?」
「それは……」
「まあいいか。さっきから効いてはいるっぽいし。そのうち倒れるだろ」
その瞬間また手を銃の形にして攻撃を始める。
「チッ!」
突然の攻撃に掛け声はいらないのかよ! と思いながら、男が手を銃の形にしたのに反応してギリギリで攻撃を躱す。俺がもといた場所を見ていると、稲妻のようなものが一瞬見える。
「今の……電気か?」
「おお、よく分かったな。まあだからなんだって話なんだけど」
男は余裕たっぷりの様子で電撃を連続で放ってくる。しかし、連発しているからか狙いの精度は悪く、近くのゴミ箱や壁にも当たっている。
「……ッ!」
しかし狭い路地裏でその攻撃を避けきることは難しく、体中に痛みを感じながら、慌てて近くのゴミ箱に身を潜める。どうやら物を貫通して攻撃することはできないらしい。
「……ッチ! 当たんねぇな」
男は近寄りたくないのか、こちらの様子を伺っている
(おい! ナナシ! まだか!?)
(もう少しだ。頼む)
(この膠着状態が続くならいけそうだけど……)
「あ、そうだ。そこの……ユウカちゃん……だっけ? お前の彼氏か何か?」
男が急に話しかけてくる。質問の意図は分からないが、攻撃されない時間が増えるのは好都合。そう考えて俺は質問に答える。
「別に、ただ小さい頃からの幼なじみで仲がいいってだけだ」
「ふーん。そうかそうか。ちなみに今、ユウカちゃん、俺の目の前に居るんだけどいいの?」
俺は一気にその質問の意味を理解して慌ててナナシに話しかける。
(おいナナシ!あいつの攻撃は魂にダメージを与えるって言ってたよな!? もし倒れたあとも魂にダメージを与えられたらどうなる?)
(そうなったら死ぬな。ああ、なるほど。あいつはユウカを人質にしているのか)
ナナシは感心した様子で男の目的に気付く。
(なんとかならないのか!?)
(なんとかなるならすでにしている。遅いのは分かるが他人の魂の中だと今までと勝手が違うんだ)
「ほら、早くしないとユウカちゃんにも攻撃しちゃうよ?」
ナナシと話していると、男は下卑た笑みでこちらを伺っている。
「5〜」
男がカウントダウンを始める。
「4〜」
オーラを纏った右手の先でビリビリと光が強くなっていく。あの電撃溜められるのかよ!
「3〜、2〜」
これ以上考えている暇はない! 無理矢理にでも近づいてあいつの顔面に一発入れてやる!
「1――」
「うおおおぉぉぉ!」
男のカウントダウンが終わる寸前に俺はゴミ箱の裏から飛び出す!
「馬鹿が! 本当に殺すつもりな訳ねぇだろ! これでお前も終わりだ!」
俺の方に指を出し電撃が放出される瞬間――
「無駄だ!」
さっきまで隠れてたゴミ箱の蓋を盾にして電撃を防ぎ、そのまま男に近づいていく!
「なっ!?」
男は防がれたことに驚いていたが、すぐに切り替えて、盾では防げない足を狙ってくる。
「ッ! もう遅い!」
溜めた電撃ならまだしも単発なら倒れるほどじゃない。電撃の痛みに耐えながら男のすぐ側についた!
「さっきまで良くも人の体にビリビリと電撃を当ててくれたな!」
憎まれ口を叩きながら思いっきり拳を振り上げる。
「このガキがァァァァ!」
男の右手が光り、電撃が放たれる寸前に拳が男の顔に俺の拳がめり込む。
「グァッ!」
情けない声と共に男が吹っ飛び、倒れる。
「ハァ、ハァ、ハァ」
初めて人を殴った……。少し右手が痛い。
(おお、やるな!)
呑気にナナシが俺に話しかけてくるが、今はそれどころじゃない。
「おい! 悠香! 大丈夫か!?」
(まだもう少しかかると思うぞ。心力を持っていない奴が魂にダメージを受けんだ、かなりの時間気を失うだろう)
(そ、そうなのか? 俺は別にそんなこと無いんだけど)
(それだけお前の魂の力……もとい適正が高いってことだ)
(適正?)
聞き慣れない単語に思わず聞き返す。
(心力を扱う才能や、心力に対する抵抗力の高さだ。俺が保証してやるが、お前適正ははっきり言って異常な程だ。俺が今まで見た誰よりも、そして俺よりも高い)
(ふ〜ん。っていうかお前結局何もしてねぇじゃねぇか!)
結局俺一人で倒しちまった。あんなに偉そうだったのに本当に何もしてくれなかった。
(しょうがないだろ。お前の魂の適性が高すぎて中々上手くお前の体を使える状態にならなかったんだ)
(ああ、なるほど。それより……コイツどうしよ――)
その瞬間俺の体をさっきまでとは比較にならない程の激痛が走った。体に力が入らなくなり、倒れてしまう。
「……カハッ!」
「人の顔思いっきり殴りやがって……! 最初は気絶させるだけのつもりだったがもういい! 顔も見られてるし、殺してやる」
男は立ち上がると、右手を突き出し指先を光らせる。
「死ね」
ヤバイヤバイヤバイ! 体に力が入らない! そもそも今まで人を殴った事ないんだから一発で倒れるはずなかった! 俺、死ぬのか? 悠香はどうなる?
死を間近に感じる。軽くパニック状態になり、考えがまとまらない。
(落ち着け、お前の体、借りるぞ)
頭の中にナナシの声が響いたと同時に体の感覚がなくなり、視界が勝手に動く。
「悪いな、それ以上攻撃を受けるとコイツの魂が壊れるからな。終わらせてもらうぞ」
「は?」
男は突然口調が変わった俺に困惑の様子を見せる。
「『
その瞬間、男の手が体と共に地面に打ち付けられた。
「ウゥッ!」
男は強く体打ち付けたからかうめき声を上げる。そして俺の体が立ち上がる。
「お前、これまで何人にその電撃を打った?」
「お、お前らで4人目だ。」
男は怯えたような様子で答える。
「お前ら?」
ナナシは、俺の体で男の頭を踏みつけた。
「あ、あなた達で四人目です!」
「そうか。まあ、お前の言ってることが本当かどうかを知る手段はないからどうでもいいが。せめて、今までの四人が受けた痛みくらいは知っておけ。『
その瞬間、ナナシは先程まで男が使っていた電撃を何倍もまばゆい光を出し、男に向けて打った。
「……ッ」
男は電撃を受けた瞬間体をビクッとさせて、動かなくなった。
(お、おい、ナナシ。殺してないよな?)
(ああ、大丈夫だ。心力使いは魂が相当強くなるからな。もうこいつは心力を使えないだろうが)
そう言いながらナナシは男の体を調べだす。
(? 何してんだ?)
(ああ、あいつはまあまあ上手く心力を使っていたからもしかしたらって思ったんだが……。お、あったぞ)
そう言いながらナナシは男の胸元から黄色い宝石のようなものを取り出す。
(なんだ? それ)
(『心像』だ。これを取り込むと取り込んだやつは元の持ち主の心力を使えるようになる。出るかどうかは半分運だけどな。これがあれば、お前も戦う力を得れるわけだ)
(おお! それはありがたいな。ぜひ貰いたい)
今回の戦いはなんとかなったが、これからどうなるかは分からないからな。力を貰えるなら貰っておきたい。
(ただし、条件がある。ちゃんと心力使いを止める手伝いをしろ)
(……)
俺は悠香を見る。倒れているが確かに息をしているその姿を見ると、先程死にかけたからか、とてつもない安心感が湧き出てくる。
(ハァ……。分かったよ。俺も力がほしいし、協力するよ。あと、図々しいのは分かるんだが、一つお願いがある)
(なんだ? お前が協力するだけでこっちとしては大満足だ。できるだけのことはするぞ)
(俺の大切な人を死なせるな)
(……理由を聞いてもいいか?)
(なんでだよ?)
協力しろって言ってたくせに今度は理由がいるのかよ。
(お前の魂の適正が思ったより高かったからな。この力を悪用されると困るんだ。だからお前の覚悟を聞いておきたい。納得のいくものなら使わせてやるよ)
(随分と偉そうだな)
(良いから話せ。まだそこまで自覚できないとは思うがそれだけお前の適正は高いんだ)
(……)
俺はそう言われてから、少し考え、そして話し始める。
(俺さ、小学校の時母さんが事故で死んでるんだよ。)
(……)
話し始めると、ナナシは静かに聞いてくれる。
(別に、事故を起こした人を恨んでるわけじゃない。もう七年前の話だしな。だけどさ、急に死んじゃったからさ、何もしてあげられなかったんだよ。別れの挨拶すらも)
(……別にお前のせいじゃないだろ)
ナナシは俺を慰めるように言った。
(ああ。そうだな。でもな、やっぱり悔いは残るんだよ。いや、人が死ぬなら必ず悔いは残るとは思う、でもそういうのってできるだけ減らしたいだろ? お前に分かるのかは分からないけど)
(……いいや、よく分かる)
しみじみとした感じの答えが返ってくる。何か見に覚えがあるのだろう。
(そうか。……それでさ、さっき悠香が狙われた時、ここで悠香が死んだらって考えたらすげぇ怖かった。また別れの挨拶もできないのかって。そんなの嫌に決まってるだろ? 死なないでほしいんだよ。急には。病院のベッドでみんなに囲まれて、とかさ、ありきたりだけど、そういう、すげー恵まれた死に方。そういうのを俺の大切な人にはしてほしい。……これが理由でいいか? 悪いな、長々と喋っちまって)
(理由を聞いたのはこっちだ。別に謝らなくていい。それと――)
(なんだ?)
(絶対にお前の大切な奴は死なせない。)
ナナシは覚悟を決めるように宣言した。
(そうか。ありがとな。じゃあ……これで交渉成立か?)
(そうだな)
ナナシの返事と同時に体の感覚が戻る。
(で? どうやったら心力が手に入るんだ?)
(簡単だ。心像を砕けばいい)
言われたとおりに心像に力を入れると、簡単に砕けて光が俺の中に入って来る。
(これで、心力を使えるようになるはずだ。使い方は分かるか?)
(ああ、なんか使い方が頭に流れ込んできた)
試しに電気を指先に溜めてみと、先程のナナシよりも強く指先が光る。
(おお……。これが心力か)
(お前の魂の適正ならそれくらいは余裕だろう)
(へぇー、ってそれよりも早く悠香を家に帰さないと)
恭子さんが心配すると思い、悠香の肩を持ち、悠香に家に向かう。
(っていうかこいつどうしよ)
俺は倒れている男に目を向ける。
(放っておけ。どうせ何かされても自業自得だ)
(それもそうか。そういえば……お前さっきなんか電撃と重力操作? 使ってたけどどっちもお前の心力なのか?)
(よくぞ聞いてくれた! そう、俺の心力は他人の心力を模倣できる! よってこう名付けた! 『心力模倣』とな!)
(お、おう、強いんだな)
急にハイテンションになったナナシに適当に相槌を打つ。
(そうだろう、そうだろう。これで200年前も多くの心力使いを倒したんだ。そいつらの心力も模倣できるからな。大抵のことは……。って聞いてるか?)
(悪い。あんまり聞けないかも)
悠香を抱きかかえるように持ち上げようとするも、体に微妙にしびれがあって運ぶのがキツイ。これちゃんと家まで運べるか?
「ハァ、ハァ、ハァ……」
悠香の家に息を切らせながらも着く。意識を失った悠香を見た恭子さんは驚いていたが、モクバーガーで勉強していたら寝てしまっただけだ。と誤魔化したら
「面倒をかけてごめんなさいね」
と何度も謝ってきた。
「いえいえ。今までお世話になってきたので、これくらいは当然です。あと、悠香によろしく言っといてください」
「分かったわ。全く悠香にもそれくらい真面目でいてほしいものね」
と愚痴をこぼされる。
「まあ、学校だとかなり猫かぶっていますけどね。それじゃあ」
と帰りの挨拶をする。
「じゃあね〜」
その後、家に帰り、明日の準備を終わらせて、寝る寸前にあいつに呼びかける。
(ナナシ)
(なんだ?)
(そういえばさっき助けてもらったお礼を忘れてたと思ってな。ありがとう)
(当たり前だ。お前に死なれると俺も死ぬからな)
(とりあえず、明日からもよろしくな)
(ああ、よろしく)
こうして、俺の、街を守る長いような短いような物語が始まったのだった。
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