46 自覚する願い(ルーツ視点)
俺はコピー人間のルーツとサナと対峙する。こうなる予感はしていた。最後に立ちはだかるのはこの二人だろうと。前回、対峙した時は頭が混乱してしまったが、今度は全力で戦う。俺にも俺の生き方がある。道半ばで終わらせるわけにはいかないのだ。
負けはほぼないはずだった。暗黒竜ラグナロクは単体でも世界を滅ぼし得る存在。コピーの二人は英雄に近い存在だと思うが、ラグナロクには勝てない。
しかし、コピーのサナは俺が聞いたこともない召喚獣を召喚した。一体どこから連れて来たのか!
ハデスと呼ばれたその召喚獣と、ラグナロクの激闘が始まった。俺はコピーの二人を迎え撃つ。
ルーツのスタイルは変わらず、魔力の剣と魔法の合わせ技。サナは純粋な魔道士。しかし、二人とも以前戦った時より強くなっている。俺がルーツと純粋な魔法勝負で押される場面もあった。
ハデスとの連携は、そこまでではない。恐らく召喚に制限があるのだろう。事前に連携の訓練をしたとは思えない。
「ブルーニーが言っていました! あなたは助けを求めるべきだったと!」
「ああ、そうだろうな! あいつはいい奴だから!」
ルーツの攻撃を捌きながら、俺はルーツに怒鳴り返す。
「ええ、そうです、いい人です! 今はあのチームのリーダーやってます! 話してきたらどうですか!?」
「ブルーニーがリーダー!? ははっ、そうか、バスティアンは降りたのか! なら、あのチームの結束も高まっただろうな!」
攻撃の合間を縫って、声をかけてきたサナにも叫び返した。
「そんな言葉で俺を躊躇させようとしても無駄だ! 俺は計画を完遂する!」
「いいや、あなたは必ず引き返す! まだ迷っている! ブラストがあなただったら、既に魔力結界内の人間は死んでいましたよ!」
「世迷い言を!」
しかし、それは正しいのだ。ブラストだったら、躊躇しなかっただろう。どうしたら穏やかな死を与えられるか、悩み抜いたのは確かに俺なのだ。
ペースを乱されている。横目でラグナロクとハデスの戦いを見ると、ラグナロクが押されている様子が分かった。本当に、一体どこから連れて来たのだ、この召喚獣は。
「決着をつけるぞ!」
俺はラグナロクの巨体に飛び乗り、破壊神トコヨニを吸収した水晶を使ってラグナロクに指示を出す。ラグナロクは口に凄まじい魔力を集中し始めた。ラグナロクの奥義だ。過去の大戦でも、これを防ぐ方法は無かったとされている。そこに、さらに俺の魔力も込める。
「サナ、やるぞ!」
「了解!」
ルーツとサナは俺と同じようにハデスに飛び乗った。そして、ハデスは両手を握り、そこに凄まじい魔力が集中していく。あれも奥義のようだった。俺と同じように、ルーツとサナもそこに魔力を追加する。
向こうも最後の一撃勝負か。いいだろう、受けて立ってやる!
ラグナロクは口を前に突き出し、魔力を放出した。ハデスの両手からも魔力の渦が放たれ、ぶつかりあった。
俺もルーツもサナも歯を食いしばり、魔力を注いだ。全くの互角だった。2対3とはいえ、ラグナロクのパワーについてくるとは! 何か躊躇した瞬間、負けてしまうような状況だ。
死力を尽くすために己を鼓舞しつつ、心の中で彼らの言葉が蘇る。俺を救うのが大義? そんなの、彼らが地獄と無縁な人生を送ってきたから言えることだ。
だが、悪い気分ではなかった。何なら、宗教国家スオードで初めて彼らと対峙した時もそうだった。俺は彼らに何を思っているのか。
コピーのサナは、サナ王女とはまるで別物だ。言動に含みがなく、気高さを感じる。コピーのルーツも、俺とは別人なのだ。狂ってしまった俺と違い、真っ直ぐな目をしている。何より、彼らには
そうだ。その真っ直ぐさを
分かってしまった……。俺は彼らの行末に興味を持ってしまったんだ……。彼らに生きてほしいんだ……。
俺と対峙したのが彼らだった時点で、俺の敗北は決まっていた……な。
俺の躊躇とほぼ同時に、ハデスの奥義に押され、ラグナロクの眼前で大爆発が起こる。俺の身体は投げ出され、地面に激突した。ルーツとサナも吹っ飛ばされていた。
敗北してしまえば、彼らの言葉が図星であることを、心が簡単に認めてしまう。残忍な人間という種族を変えたいと思ったのは本当だ。だが、今いる善良な人間を置き換えるには、死を与えるしか無かった。
悩み抜いて編み出した方法が、幸せな夢を見させながら穏やかに人生の幕を閉じさせる、というもの。言い方は綺麗だが、それでも結局のところ、人殺しだ。
ルーツとサナの言う通りだったかもしれない。俺は、
「ぐ……ぅう!」
「う……ぐ……!」
ルーツとサナはなおも闘志を燃やしながら立ち上がって俺のもとに来ようとしている。もういい、俺の負けだ、力を抜け。
俺の隣ではラグナロクが爆散している。ハデスも力を使い果たしたのか、幻界へと戻ろうとしていた。
闇の魔力の大半が吹っ飛んでしまったため、俺は義手の左手を切り離した。左手は光となって消えた。
「オーデルグ……その身体……?」
「気づいたか? 俺の心臓は闇の魔力で無理やり動かしている。尽きてしまえば、死あるのみだ」
左手での消費分を抑えたからまだ持つだろうが、闇の魔力の残量からすると、その時は近い。
「終わりです、オーデルグ。もうやめましょう」
「ああ、そうだな……。負けた以上は終わりにする……」
俺は紫の水晶を破壊した。魔力結界の源だったものを破壊したので、これで魔力結界は小さくなり、やがて消え去るだろう。
「きっと、お前たちが正しかった。俺は迷っていたよ……」
「そうですか……」
「届いたなら、良かったです……」
倒れたままの俺の前で、二人は座り込む。
「だが、人間が残虐なのは間違いない。お前たちのような英雄が一番危ないんだ。気をつけて、生きろ……」
「全て終わったら、今度は俺たちの心配ですか……」
「あなたも、難儀な人ですね、オーデルグ……」
「ふっ、どうかな……」
ここには3人しかいないはずなのに、俺はふと4人目の影に気づいた。そちらに目を向けると、俺が夢で見た老婆が立っていた。
「ち、長老!」
「無事だったんですね!」
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