第032話、ピンクの毛ですか?
俺は領主様に説明を続けた、領主様の顔はまだ怖い。
「えー…… 昔の本に書いてあったのですが、昔は心臓の強い人を *心臓に毛が生えている* と表現していました」
「なんとなく聞いたことはある、だがそれはただの比喩であろう」
「たしかにどんなに強い人でも実際に心臓に毛は生えてません、けれど私はそこならヒントを得ました」
俺はふーっと深呼吸をして続きを話す、場の空気は重い言葉に気をつけないと牢屋だ。
「人が運動をすると心臓は激しく拍動します、つまりドクッドクッと膨れたり縮んだりを繰り返します、そして体の中に血を流して体がよく動くように働きます」
俺の説明に困惑しながら話を聞く領主様、隣では執事さんがも俺を見つめている、まだ懐に手を入れたままだ。
「お嬢様の場合はその心臓が弱っているので拍動した際、周りの組織とぶつかる時の衝撃に耐えられないのです、さらにエネルギーもうまく心臓に届いていないようなので活力もありません」
「なのでまずはフワフワの毛で心臓を覆って衝撃を緩和するクッションにします、イメージとしては心臓の周りにわたあめがついてるような感じです」
「次に心臓から太い毛を生やして他の臓器と繋ぎます、その太い毛を通じてエネルギーを心臓に分け与えます」
俺の説明に対して返事がない、領主様はどうするか考えているようだ、目を閉じてしばらく沈黙する。
「つまり、エネルギーの多い部分と少ない部分を繋いで、エネルギーを一定化させる、全体的には普通よりは低い状態だが今よりは良くなる、というわけか?」
すごいな、俺のつたない説明でよく理解した、しかも人間の解剖の知識もないのに。
「その通りです、完全な健康状態とは言えませんが、普通に生活する分には問題はないと思われます」
「ん~……」
「ただこの方法が可能かどうかは実際にお嬢様にお会いして、体の状態を調べないといけません、心臓や他の臓器の状態が私の予想と外れていた場合はこの治療方法は使えません」
「わかった、とりあえず娘に会ってみてくれ、それから娘にも説明をして受け入れたらその治療を頼もう」
俺たちは執務室を出て、お嬢様の寝室へと向かう、執事さんの視線は少しだけ柔らかくなった。
お嬢様の寝室へと到着した、領主様がノックして中に入る、とても可愛らしい感じの部屋だ、カーテンやベッド等すべて淡いピンク色でまとめられており、可愛らしい雰囲気だ、ベッドの上にはぬいぐるみもおいてある。
「……お父様?」
「やぁ、『リリー』 今日の気分はどうかな?」
「……いつもと変わりありませんわ」
領主様は娘に対して優しく穏やかに話しかけた、『リリーお嬢様』の目には諦めがみてとれる、伏し目がちであまり変化のない表情、年齢は10代の中頃だろうかその割には体は細く背も低い、声も小さく弱々しい感じだ、髪は長くしなやかだが艶が無い。
お嬢様は俺たちに気がついて視線を向けてくる。
「……そちらの方々は?」
「初めまして、治癒師のサルナスと申します」
「同じく治癒師のエステンじゃ」
「料理人のネネタンです★」
リリーお嬢様はやや困惑した表情してこちらを見ている、まぁなかなかに濃いメンツだからしょうがない、でも無表情よりは断然いい。
「……治癒師さん? 前とは違う人」
「はい、お嬢様のお体を治す手がかりを見つけ、本日来させていただきました」
「治らないわ、今までも治癒師さんがいろいろ調べてくれたけど変わらなかった、無理なの」
そう言って目線を落とすリリーお嬢様の目には活気がなかった、また無表情に戻ってしまった。
「たしかに難しい状態です、けれど可能性が見えたんです、今までにない新しい方法なんです!」
ピクッとリリーお嬢様の表情が動いた、俺は領主様に話した内容をそのままに伝える。
最初のひと言でリリーお嬢様は女の子にあるまじき表情になった、俺はあんなに嫌悪感を表した表情を知らない、話を進めると表情が困惑→苦悶→葛藤と次々と変化した、彼女にとってこの治療方法はよほど衝撃的だったのだろう。 沈黙がながれる、俺は答えを急かさず黙って待つ、しばらくしてお嬢様が口を開いた。
「……その、心臓に生えた、け ……毛は体の外に出てきたりはしますか? 例えば口から急に出てきたりとか」
怖い、それは怖い、不意にいきなり口から毛が出てきたとか想像するとかなり怖い、そりゃ不安だよな夜だったら俺でも気を失うかもしれない。
「だ、大丈夫です、あくまで心臓の周りだけなので体の外へ出ることはありません」
またしばらくリリーお嬢様は沈黙する、どうしてもマイナスのイメージが強い毛魔法、なにかプラスイメージになるようなポイントはないだろうか。
「で、ではその毛の色とかは選べるのですか?」
ん? 色? それは特訓のおかけで自由自在に変えることができる。
「それは可能です、なるべく目立たないように心臓の色に近いものにしようと思っていますが」
「それなら、ピンクでお願いします!」
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