第030話、病気の女の子を救えって?


「相談?」


 俺に相談とはなんだろう思いつかない、彼氏役とかは勘弁してほしい、つい魔法で毛を生やしてしまうかもしれない。


「この前、弟に会いに治癒院へ行ったでしょ? その件なんだけどね★」


「内容までは聞いてませんでしたね、あの時ノミー課長に何の相談だったんですか?」


「実は病気の子がいてね、前にエステンちゃんにも相談したけど難しいって断られて、それから他に方法がないか違う治癒院を頼ろうと思って弟の元に行ったの、それで弟の伝手で治癒師の上の方にも調べてもらってるんだけど、良い方法が見つからなくて」


 話を聞きながらエステン師匠は思い出したようで*うまいっ!*を止めて話に加わる。


「あ~ その件か、だいぶ前に聞いた件じゃの、だからありゃ無理じゃと言ったであろう」


 エステン師匠の言葉に少し落ち込んだ顔をするネネタン。


「どんな病気なんですか?」


「心臓じゃ、その子は心臓が弱くての、動くたびに息切れを起こし胸に痛みがはしる、疲れやすくいつもベッドで寝ておる」


「心臓か…… 治癒魔法は効かなかったんですか?」


「部分的に損傷した、とかならワシの力で治せる、じゃがその子の場合は心臓全体が弱くての、だからといって心臓全体に治癒魔法をかけて一時的に心臓の能力を回復させても、その後すぐに元に戻ってしまう、場合によってはその反動で更に寿命が縮まる恐れもある、外傷の場合とは違うのじゃ」


「なるほど」


 エステン師匠でも難しいのか、俺は前に行った訪問治療での2件目の事を思い出していた、魔法は万能ではない。

※『第016話、訪問2件目、少しシリアスな話です。』参照



「それでね…… 前にサルナスちゃんの魔法が特別だってエステンちゃんに聞いたから何か良い方法はないかと思ってね、相談に来たの」


「そう言われても…… ん~…… 今はなんとも思い付かないですね」



「サルナスちゃんでも難しいのね、いいわ何か思い付いたら教えて★」


「わかりました、考えてみます」


「じゃあ、わたしはこれで帰るわね、ほんとうは泊まりたいけど店を途中で抜けてきたから★」


「あ、そうなんですね、わざわざありがとうございます」


 こんなに暗いのに灯りのひとつも持たずにネネタンは帰って行った、迷わず歩けているようだな野生の勘かな?


 それにしても心臓か、なにか良い方法はないのだろうか、その子がかわいそうだ、俺はエステン師匠に教わった治癒の内容を頭の中でグルグル回しながら考えている。 ふと気づくとエステン師匠はいつの間にか寝ている、今度はお尻をボリボリかいている、俺はそっと毛布をかけた。


「あっ!」


 俺はかなり強引な方法を思い付いた、けどこの理論ならいけるのでは、俺は思わず拳を握りしめた。



***



 翌日ネネタンの元へ俺は訪ねていた、エステン師匠は一度帰ってからシャワーを浴びたいそうだ。 中身はオッサンみたいだけど、一応女の子だな。 ネネタンはかなり驚いていた。



「えっ!? もう方法が見つかったの? 相談したのは昨日よ」



「確証はありません、でもこの方法ならいける気がします!」


「わかったわ★ その方法を聞かせてちょうだい★」


「それは……」


 俺はネネタンに方法を説明した、更に後から来たエステン師匠にも話した、二人も悩んでいたが最終的にこの方法にのっかることにしたようだ。


「それで病気の子はどこにいるんですか?」


「私の知り合いの子でね、案内したいんだけど★ サルナスちゃんの格好はちょっと…… シャワー貸すから浴びて服も着替えて★ なんなら私が手伝って……」


「ひとりで大丈夫です! 絶対に来ないでください! あなたの影が見えたらすかさず目を毛で覆いますからね」


「反応が早いわね★」



***



 俺はシャワーを浴びてネネタンの服を借りた、意外だか普通の服だ、なんなら俺の持っている服よりもセンスが良く上質だ、なぜ普段はテカテカのボディコンやらギラギラのチャイナ服やら着てるのだろう。


「じゃあ、今から患者さんの元に行きましょう★」


 俺とエステン師匠はネネタンの後をついていく。



***



 患者さんの家に着いた、無事に着いたのだが俺は家をみて顔と体が固まっている、大きくて立派な家… というか屋敷だ。 入り口には頑丈そうな門がある、家の大きさは体育館の三つ分くらいかな、患者さんのご職業はなんでしょうか。


「……ここですか?」


「そうよ★」


「えーと、患者さんのご職業は?」


「この街の領主さんの一人娘★」


「出直しましょうか心の準備ができてません、普通の子じゃなかったんですか? 領主さんの一人娘!? 俺みたいな一般市民とは縁のない存在ですよね、無理無理無理」


「大丈夫よ、領主さん優しいから★ 私のお店にも時々くるの、それでね『シャッチョサン、キマエイイネ、トテモカッコイイネ』って言うとニコニコして、いろいろ注文してくれるの」


「いやいやいや、それたぶん違う国から来て頑張って働いている人って思われてますよ、それでいろいろ注文してくれるのはたしかに良い人って感じですけど」


 俺らが屋敷の入り口付近でワチャワチャやっていると、門が開き男性が出てきた。 黒の執事服を着こなした渋い感じのする年配の男性だ、温和そうな顔つきだが目つきは鋭く、姿勢がとても良くビシッとしている、こちらに近づいてきた。


「どなたでしょうか? なにかお約束でもありましたか?」


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