第23話 この何でも屋の商売人に心からの相談を‼(2)

「ウチの空き家に悪霊が根城を張るようになりまして、ギルドに相談したのですが、

いくら祓っても霊は消えず仕舞いでして……。そんなわけで物件に手をつけれないんです。ですからここに来たわけですが……」


 俺たちが狂喜のままに店で暴れている所に来店したベレー帽を被った眼鏡の不動産屋のおじさんから、

お悩み相談を受けるウィズ。


 いや、ウィズはアンデッドの王でドレインタッチが得意だから食欲か。


「では、その物件を見に行くことに……」


 半透明で消えかかったウィズがふらつき、石畳の床に座り込み、荒い息を吐く。


「どうしたのですか? 顔色がいつも以上に青ざめていますよ? 体調が悪いのなら今日はゆっくり休んで、また今度でも……」

「へ、平気です。少し休めば……」


 ほら、アクアが強引に浄化するから、ウィズが消えかけてるじゃんか。

 俺はアクアの片腕を手に取り、大きく手を上げる。


「ちょっと何すんのよ?」

「はいはーい。その依頼、爽やかアクシズに任せて下さーい!!」


****


 街から少し外れた場所にある別荘みたいな立派なお屋敷。


「本当に幽霊退治とかできるのか? 街の噂では祓っても次々と霊が住み着くという話が出ているが?」


 剣を布で磨くダクネスが不安げに俺に話しかけてくる。

 アクアとめぐみんは屋敷内の冒険(頭脳も子供)を早くしたいらしい。


「まあ、ゴーストバ○ターズアクアがいるから大丈夫だろう。それに徐霊できたら、この屋敷に住んでもいいと言われたし。なあ、アクア?」

「フフフ、私の力で屈服させられる足や首がない亡霊たちがわんさかいるのが見えるわ。一晩あればこの家もろとも浄化してあげるわ‼」

「いや、放火魔じゃあるまいし、流石さすがに家ごとは困るんだが……」


****


「えー、ちょっと待ってよ!?」

「ははっ。これでアクアの四連敗。次負けたら明日の昼メシオゴリな」


 しんしんとした夜の屋敷内のリビングでトランプ遊び(ババ抜き)に熱中する俺たち。


「カズマ、くつろぐのもいいのですが、この屋敷、何か不気味な視線を感じるのですが……」 

「だな。めぐみんもか。俺も思ってた。アクア、さっさと徐霊せんか」


「そう焦ることもないわよ。

低級の悪霊ばかりだし、のんびりおかきでも食べながらチビチビ一杯やるわ」


 お前はどこの飲んだくれだよ。


「まあ、中にはアンナ=フィランナ=エステイドと言う名の少女の地縛霊もいるわね」


 彼女はこの屋敷に住んでた貴族とメイドの隠し子で、その理由を気に牢へ監禁。

 後に両親さえも不慮の事故でいなくなり、病気に伏せた彼女は本当の親の顔も知らずに……。


 どこの古いギャルゲー(美少女ゲーム)の内容だよ。

 ひたすら話が重いぜ……。


「でも彼女は悪霊の類いじゃないわ。向こうから危害は加えてこないはずよ。それにちょっと甘いお酒が飲みたいとほざいているわ。カズマ、準備よろしくね」


 いや、お前が飲みたいだけだろ。

 こういう、いい加減な霊能力を持ったアクアに浄化を頼むことになるとは……。


 この少子高齢化社会(意味が違う)も終わりかもな。


****


 日付は夜中近く。

 暖房の効いた暖かな部屋、天日干しされたふかふかのベッド。 


 こんなゴージャスな屋敷で暮らせるとなるととてもありがたい。 


 アクアには霊が寄ってくる体質があるようだし、気がついたら徐霊されていそうだな……。


****


「──あれ、いつの間にか、寝ていたのか」


 月の光が窓から照らされる明るい深夜。


『カタン……』


 物音に気づいて目線をずらした所に一足の靴が見えた。


 何だ、あんな所に赤い靴とかあったか。

 異星人(異人さんでは?)に連れられて行ったのではないのか?


 それにさりげなく動いていた気がしたけど……。


『カタン……』


 おっ、落ち着け。

 勇者の俺(違う)が動揺してどーする。


『カタン……』


 俺の頭から血の気がさっと引く。

 目の前には新品のワインボトルを抱いたフランス人形の姿が……。


「のおわあああー!? でっ、出やがった!? アクア、アクア大統領様(いいえ、水の女神です)、助けてくれー!!」


 俺は部屋を飛び出し、救いを求めてアクアの部屋の扉を強引に開けると、そこには背の小さい幼女がー!!


「のわあああー!?」

「きゃっ、何ですか? カズマ!?」


 フリースのパジャマを着ためぐみんが涙目でこちらを見ている。


「何だよ。ビックリさせるなよ。それよりもアクアは留守なのか?」

「はい。私が訪ねた時にはすでにいなくて」

「……と言うことはめぐみんも変な人形に襲われたのか?」

「はい。大きな酒瓶を持っていまして……」


 めぐみんがモジモジとしながら何かを訴えているが……。


「あー、何でシャケじゃなく、酒なんだよ。

あまりの怖さに腹が空いたじゃないか」

「カズマ、それなら調理場に行った方が早いかと」

「材料もないのにどうやって魚を焼くんだよ」

「そこはカズマのスティールで上手いように」

「嫌だぜ。俺をどこぞの犯罪者と一緒にするなよな」


 話の最中に、めぐみんが落ち着きもなく、今度は体を縮める。


「それよりもカズマ、私トイレに行きたくて……」

「ああ、トイレならこの通路をまっすぐ進んで左だぞ?」

「そうじゃなくて、怖いから同行してくれませんか」

「えー、面倒だな。この前のワニ退治の時、

紅魔族こうまぞくはトイレには行かないって発言していたじゃないか」

「それとこれとは話が別です」


 あれだけ大口を叩いて、ご飯とスイーツは別腹とか言うヤツか。

 女の子ってわかんねーなー。


****


「母さんが茶碗蒸ししてー、鍋つかみ編んでたー♪」


 俺はトイレのドアの前に立ち、用を済ませるめぐみんの要望により、懐かしの歌謡曲を歌った。


「聞きなれない珍しい歌ですね」

「前に住んでた日本って国の切ない歌さ」

「鍋つかみという部分がなんとも」

「それがないと蒸した茶碗蒸しが取れないからな」


 高○名人の一秒間に十六連打じゃあるまいし、どんだけ早業はやわざな縫い方なんだよ。


「さて、用事は済ませたし、後はアクアを見つけないと」

「ダクネスはどうします?」

「フランス人形に拘束されて、さぞかし本望だろう」

「なるほど」


『この私を相手に人形から、こんな辱しめを食らうなど、逆にこちらが興奮して……』とか叫びそうなドMだからな。


『コンコン……』


 すぐそばのドアから響く遠慮がちなノック音。


「もう来やがったか……めぐみん、少し退いてろ。強行突破する」

「でも相手は幽霊ですよ?」

「フッ。これからは俺の方に足を向けて寝れないぜ」


 キザなポーズを決めた俺はドアに向かい、勢いをつけて体当たりをした。


 埃を浴びながら開いた扉の先には、しゃがみこんでいる一つの人影。


「おらー、かかってこいよー!! フランス人形とてちてたー‼」



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