第3話 そらのめぐりのめあて
ラグランドのものよりも落ち着いたトーンの青い瞳をほのかに細めて、そのひとは笑う。
「おかえり」
「ただいま帰りました」
こちらの姿を確認すると、兄レオナードが寝台から身を起こした。上掛けを畳む手付きも、背を伸ばす動作もゆっくりとしている。なんだか身体が重そうだ。ラグランドよりも長くて大きな手のひらが肩にガウンを掛けている間に、ラグランドは後ろの宮棚との間にせっせと枕とクッションを敷き詰めた。
「ありがとう」
兄がゆったりと背を預けるのを確認し、寝台そばに椅子を運ぶ。
「どうだった? 楽しかったかい?」
「…………」
ラグランドは答えずに水差しから水を注ぎ、兄に手渡した。兄は僅かに目を丸くすると、小さく会釈した。なんとなく、ばつが悪くて、目を逸らす。
窓には細かな幾何学模様が刺繍されたレースのカーテンが掛けられ、穏やかな陽光をやわらかく透かしている。
寝台そばの小机には、花瓶が二つ並べられていた。青と赤、ふっくらとまあるく大きな花弁と、細くギザギザした形の花がつんと澄まし顔をして背を並べている。落ち着いた色彩のこの部屋の中で原色の飾りは一層目を引いた。色も大きさも形も長さもバラバラでちぐはぐなのだ。覗き込めば、青い花の方は根っこもそのまま付いている。一本だけ異様にひょろりと背が高い謎が解けた。
花瓶のそばには、カードが二枚置かれていた。余所行きの角張った細い字と、文字の代わりに描かれた大きな絵。上の弟と下の弟が庭園から花を摘み取り、見舞いにと贈ったものらしい。
くつくつとおかしそうに笑う声が空気を震わせた。兄は笑ったままグラスを小机に置く。その声音はまだひび割れていた。
「父上に聞いたよ。ラグに花を渡す係の女の子たちが揉めに揉めたって」
光都リータス。
王都エセルからは森を挟んだ北部の大地。
ラグランドは初めてその地に足を運び、先刻戻ってきたのだ。
アルカディア王国王太子である父の供として、連れて行ってもらったのだ。五日も王宮を離れるのは初めてで、ラグランドにとっては何もかも新鮮な出来事であった。けれども、ラグランドの心が躍ることはなかった。だって、本来この視察に同行するはずだったのは、四兄弟の長兄レオナードだったのだ。
五日間もエセルを出るのは兄にとっても初めてのことで、小さな弟たちの手前、態度には大きく表してはいなかったが、ずっと胸を弾ませていたのだ。
兄は予定の何ヶ月も前から彼の地について勉強を重ねていた。地図と図鑑で光都リータスの山と湖、森の位置を確認しては季節風や生態系について知識を深めていたし、厨房に足を運び、食事会のメニューを持ち帰るので弟たちにも光都の名物料理を再現して欲しい、と料理長に交渉していたのだ。
しかし、兄は視察を楽しむことはできなかった。高熱を出して寝込んだのだ。
それで、父がやむなくラグランドを代役に任命したというわけだ。
兄がとても楽しみにしていることを父も知っていたので、出発の前日に「日程を変更できなくてすまないね」と大きな手のひらで気遣わしげに兄の頭を撫でた。けれども、レオナードはただ静かに首を振り、微笑んだ。
「ラグが私の代わりを果たしてくれるから安心です」
父は眩しげに青い目を細めて大きく頷いた。幼い弟二人を抱える母を護るように、と厳かに命じた。声音の割に、熱で朱く染まったレオナードの両頬を擦る父の手付きはひどくやさしく見えた。
そういうわけで、第二王子である自分が第一王子レオナードの代わりに視察に同行したのだ。馬車の中でずっと頬を膨らませていたラグランドに父は目を丸くしたが、初めての視察に緊張していると捉えたようだ。
「いずれお前も担う公務なんだ。今回はレオよりも順番が早くなっただけだ。そう気負わなくて良い」
笑って肩を叩いてくれた。けれども、視察の間、ラグランドの眉間には皺が滲んだままだった。
花を渡す係の少女たちが揉めたのは、歓迎セレモニーの出来事である。
観光ではなく視察ではあるが、数年ぶりに王族が光都に足を踏み入れたのだ。ありがたいことに街は歓迎ムードにあふれていた。街の鉱石灯はぴかぴかと磨かれ、家々の窓にも、道にも季節の花がいっぱい飾られていた。
その歓迎セレモニーはラグランドにとって一番疲れたイベントであった。
馬車が街に到着してもラグランドに下りる許可は出なかった。
怪訝に思って窓を開き、顔を出した。少女たちの激しく言い争う声が大きく飛び込んできた。
近衛騎士も街の人々も喧嘩を止めに入っていたが、少女たちはラグランドの顔をめざとく認め、口論がますます白熱した。
少女たちは、誰が王子様に花束をプレゼントする大役を務めるのかを巡って喧嘩をしていたわけではない。
やれ白い花が良いだの、やれ紅い花の方がずっとふさわしいだの、やれ黄色の花が最高に華やかさを引き立てる等々という問題で大いに揉めていたのだ。おまけに花束の準備ができたらできたで、束ねるリボンを何色にするか、何結びにするかで更に大きな諍いに発展したのだ。
誰がこの「三国一美しい王子様」を世界で一番美しく飾らせることができるか、本人からしたら迷惑極まりないコーディネートバトルが激しく勃発し、歓迎セレモニーどころではなかった。
結局、争いに終止符を打ったのは王太子である父だった。ラグランドを隣に立たせ、民に宣言した。
「皆さん、本日はありがとう。我が息子を大切に思う皆さんのあたたかい心に感謝申しあげます。だが、どうか争いはやめて、その情熱も少しだけ静めていただきたい。そして、よくご覧ください。我が息子は素材そのままでも三国一可愛いのです!」
王太子はよく通るテノールでそう宣言した。金髪碧眼の端正な顔をでれでれと緩めながら。
金髪碧眼の親子に世界は一瞬で静まりかえった。
王太子の一言で事態は急速に収拾に向かった。「そりゃそうだ」と満場一致でバトルがお開きとなったのだ。あっさりと。呆気なく。跡形もなく。
争いもセレモニーもなんとか終わったのはありがたかった。けれども、ラグランドは視察の間、こそばゆくてたまらなかった。父の親馬鹿極まる発言で周囲からの視線は生温いものに変わったし、食事をするだけで「殿下がアイスクリームを三国一美しい所作でお召し上がりに!」「このスプーンと皿は美術館に寄贈して後世に伝えなくては!」「画家殿、この美しさを永遠にキャンバスに残して! 急いで!」等々ざわざわするものだから、光都の名物料理は味がほとんど分からなかった。
「大変だったね。お疲れ様」
「兄上が行けたら良かったのに。兄上はずっと楽しみにしていたのに……」
ラグランドが拗ねたまま言うと、兄は眉を下げて笑った。
「でも、ラグが私の代わりにきちんと務めてくれたから。良いんだよ」
目の前の晴れやかな一対の青空は、ラグランドをまっすぐと中心に捉えている。
ラグランドは言葉に詰まって、俯いた。
兄はちょいちょい、とラグランドを手招きした。椅子を寄せると、兄は笑って人差し指を唇の前で立てた。
「デイビスとヘンリー・ローには内緒だよ」
悪戯めいたように囁いて、枕元から翡翠色の箱を取り出した。兄はそれを宝物のように持ち上げると、ラグランドの両手に優雅な所作で載せた。青い瞳をやわらかく和ませ、告げる。
「お疲れ様のラグランドお兄ちゃん殿下には褒美を授けよう」
兄の剣だことペンだこで硬くなった長い指が、翡翠色の箱を開けた。
艶々でぴかぴかのチョコレート菓子が並んでいた。葉と花の形を象ったもの、果物の輪切りや皮を宝石のように細工して仕上げたもの。菓子職人が一つ一つ丁寧に息を吹き込んだ芸術品だ。光都で父とラグランドが選んだ土産品である。
父はまっすぐに兄の元に持ってきたらしい。長兄が寝込んでいる間に下の弟たちが我慢できずに食べ尽くしてしまうと判断したのだろう。
「あとで見舞いに来てくれるデイビスとヘンリー・ローともゆっくりいただくよ。でも、まずは今回の功労者のラグに一番先に好きなのを選んで欲しい」
いつだって、このひとは、弟の自分をとびきり甘やかすのだ。
じくじくと胸と喉が痛んだ。
「お前から話を聞くのがずっと楽しみだったんだ」
ラグランドは顔を上げることができなかった。こみ上げてきた熱いものを飲み下すのにいっぱいだった。
「ラグが居てくれて良かった。私の代わりに光都に行ってきてくれてありがとう」
ひどくやさしい声は、ラグランドのささくれだった気持ちをゆっくりと撫で、やわく引っ掻いた。
「おかげで私はゆっくり休めたし、デイビスとヘンリー・ローから可愛いカードまでもらえた。それに、光都の様子をこのあとすぐ一番上の可愛い弟が楽しくお喋りしてくれる。そうだろう、ラグ」
兄に名を呼ばれても、すぐには返事ができない。
「ラグランド」
再び名を呼ばれ、ようやく兄の顔を見た。そこにあるのは、どこまでも晴れやかな笑顔だった。
「私が安心して休めたのは、ラグが居てくれたからなんだ。だから、良いんだよ」
このひとは、いつも一番に欲しい言葉をくれるのだ。ずっと敵わないのが嬉しくて誇らしくて、少しだけ、悔しい。
こくり、と首を縦に動かすことしかできないラグランドに兄もまた静かに頷いた。
ラグランドはこみ上げてきたもので熱くなった目をそろそろと動かす。兄は照れたように口元をほころばせている。
「良くないです! 全然良くない! 兄上の代わりだなんて!」
ラグランドの大きな声に兄は目を丸くさせた。
一度声に出してしまったら、もう駄目だった。胸の奥底に澱み、ずっとしまい込んでいた、黒くてどろどろ燻っていたものが、堰を切ったようにあふれてしまう。
兄が嫌いなのではない。兄の代わりを務めるのが嫌なのではない。
「……俺は兄上に行って欲しかったんです。だって、兄上はあんなに一生懸命準備もされて。あんなに楽しみになさっていたのに。代わりに行っても全然楽しくなかった! いつもみたいに見た目のことで余計なことを言われるし、全然楽しくなんてなかった!」
うん、うん、と兄は相づちを打って耳を傾けてくれている。
「行くなら兄上と一緒が良かった! 兄上が良かった! 兄上は兄上じゃないと駄目なんです!」
兄の代わりなど自分に務まるわけがないのだ。だって、レオナードは世界で一番頼れるラグランドの自慢のたったひとりの兄なのだ。
八つ当たりで自分でも何を言っているのか分からない文句を言っているのに、兄は何故か嬉しそうに「うん」と頷いてくれた。
「だから、兄上。無理も無茶もなさらないでください」
「うん」
「風邪なんてもう二度と引かないでください」
「うーん」
そこは善処すると返事をなさるところでしょう、と睨むと、こほこほと咳き込んで兄は笑った。
「じゃあ、早く治してください」
「うん。ラグが一番早く好きなチョコレートを選んで、私にたくさん土産話をして、ヴァイオリンも聴かせてくれるのなら」
ラグランドは虚を突かれて、口をつぐんだ。
レオナードがわがままを言うのは珍しい。
兄に限ったことではない。自分も弟たちもひとに何かを願うのは苦手としていた。
自分たち王子の頼み事は、命令にもなりかねないからだ。祖父母からも両親からもその間違いだけは絶対に犯してはいけない、とサージェント王家四兄弟は幼い頃から厳しく教育されているのだ。
四兄弟の最年長であるレオナードは、弟たちのやさしい味方で一番の理解者だったので、いつも弟たちを優先させてきた。その兄が、何かを、しかも自分に直接頼んでくるのはとても珍しい。
「兄上が、俺をスペアにできることを言い訳に無茶も無理もなさらないと約束してくださるのなら」
返事はなかった。
けれども、兄は静かに頷いてくれた。眉は下がり、頬はほころんでいた。
チョコレートは美味しかった。
ラグランドが選んだのは、甘酸っぱくてほろ苦い砂糖漬けのレモンをチョコレートでコーティングしたものだ。太陽にも蜂蜜にも似た眩しい黄色に惹かれたのだ。
一口食べると、爽やかな酸味が口内いっぱいに広がり、ほどよく甘いミルクチョコレートが舌の上でなめらかに溶けた。
ラグランドが頬を緩めるのを見て、兄は眩しげに目を眇めた。
光都リータスは北方にあり、国内でも冬が他の土地よりも長い。その分、その土地に生きる人々は短く過ぎ去る夏を大切にしているのだという。とりわけ、夏の明るさや生命の輝きを思い出すレモンをこよなく愛している。リータスにおいて、レモンは生命力あふれる夏と眩しいほどの幸福の象徴であった。
リータスの人々は、南部の水の都パールディアからレモンを取り寄せ、その風味や味わいを長く美味しく楽しめるように保存食や加工品に力を入れた。レモンの果汁にバターと卵と砂糖を混ぜて固めたレモンカード。そのレモンカードとメレンゲをたっぷり使ったレモンパイ。レモンと砂糖で作ったシロップを焼き上げたパウンドケーキに染み込ませるレモンドリズルケーキ。砂糖漬けしたレモンの果肉をチョコレートでコーティングし、夏の輝きそのものをぎゅっと閉じ込めたオランジェット。甘酸っぱくて、爽やかなレモンの味わいに虜となった人々の英知の結晶である。
「デイビスとヘンリー・ローが居たらすぐに終わってしまうところだった。父上の判断は素晴らしい」
ラグランドと同じものを選び、じっくりと甘さを味わっていた兄が満足げに息を吐いた。父と一緒に散々悩んで選んだ甲斐があるものだ。
菓子店をぐるぐる回った話を披露したら、兄が噴き出した。何かを堪えるように笑うので、尋ねる。
「いや、先ほど、父上がしおしおと肩を落として部屋を出て行かれたから不思議だったんだ。『父上のお話は後にしてください』と言っただけだったのに」
兄と弟に持ち帰る、究極にして至高のリータス土産を求めて店を行脚した苦労話を父も一緒に食べながら語りたかったのだろう。
「では、デイビスとヘンリー・ローにはしばらくお預けにしないといけませんね」
「うん。頬が落ちるほど美味しいという形容はこのチョコレートのためにあるかもしれない。二人が来たら、父上の召し上がる分はなくなってしまうに違いないね」
父は国王である祖父の元へ報告に行っているのだ。その足で報告書をまとめるはずだ。いつも仕事を全て終えてから母と四兄弟との時間を作るのだ。
チョコレートは、報告書が全て仕上がる頃には小さな弟たちが瞬く間に食べ尽くしているはずだ。
兄は笑って宮棚の奥に翡翠色の箱をしまい込んだ。
「小さなお客様たちががっかりするといけないから」
兄はそう言って、ラグランドにヴァイオリンの演奏をねだった。隠した土産の代わりにラグランドが光都リータスで聴いて一番気に入った音楽を弟たちに披露するようリクエストしたのだ。練習が大事だからすぐにここでするように、と命じたのだ。
弓を弾いて糸巻きを調節し、音を一つ一つ確かめていたら、兄が待ちきれないように「早く早く」と熱い視線を送ってきた。子どもっぽい所作に目を丸くしたら、兄は明るく言った。
「だって、ラグの楽しい演奏を五日も聴けなかったんだ。禁断症状の頭痛が……」
豆だらけの広くて大きな手のひらは、何故か腹を押さえていた。
「仕方ないなあ……」
ラグランドも噴き出した。兄弟の明るい笑い声が部屋いっぱいに弾けて揺れた。
弓を引き、はじめの音を動かした。表情も意識も、す、と引き締まる。
光都の緑豊かな森と湖を一周しながら、リータスの大地がどんなに素敵であるのかを教えてくれる曲を選ぶことにした。葉擦れと川のせせらぎ、小鳥のさえずりから始まり、森の動物の大合唱へと繋がる楽曲だ。
兄が瞳を伏せて楽しげに、うん、うん、と頷いている。
兄レオナードは、ラグランドの演奏をいつも一番に楽しみにしてくれている。
敬愛する兄の喜ぶ顔がただ見たくて。じっと耳を傾けてくれるやさしげな兄の横顔をもっと見ていたくて。誇らしげにラグランドを褒めてくれる兄の声をずっと聴いていたかった。
この小さな楽しみは趣味に変わり、やがて将来の夢となった。ラグランドがヴァイオリンに情熱を傾け始めた原点は、兄の一声だったのだ。
大きく弓を引き、曲を締めくくる。
ぱちぱち、と惜しみなく大きな拍手が送られた。
「やっぱりラグの演奏は良いね。お前のヴァイオリンを聴くと、いつも楽しくなる」
これを五日も聴けなかっただなんて、と咳をしながら嘆いてみせるので、ラグランドは口を尖らせた。
「兄上が俺をスペアになさるからでしょう」
「反省しています」
「二度となさらないでください」
「誓います」
「……本当ですか?」
「うん。誓うよ。ラグと、私自身に」
それから、と兄は一度言葉を切り、瞳を伏せた。
「ラグランドのヴァイオリンに」
穏やかで晴れ渡った春の青空そっくりの瞳は、今、ラグランドにだけまっすぐ向けられている。
「兄上」
「うん」
ラグランドはずっと胸の引き出しにしまい込んでいたものを、ついに兄に打ち明けた。
将来はヴァイオリン演奏者になりたいこと。臣籍降下を果たすつもりであること。だから、兄のスペアにはなれないこと。
「弟たちが自分の代わりになれるだろうから」等と言い訳にして無茶をしないで欲しいこと。無理をせず兄が兄自身を一番大切にして欲しいこと。
それから。
「兄上のスペアになることはできません。でも、兄上が俺を一番の腹心としてくださるのは俺の一番の自慢で誇りです」
うん、うん。
微笑みながらそれだけを何度も口にして、兄は耳を傾けてくれた。けれども、一番上の弟を見つめる視線は真剣そのものだった。
「ありがとう」
兄は眉を下げ、静かに笑みを落とした。
三拍ほど待っただろうか、扉の方に顔を向けた兄は、青い瞳をきゅう、と細めた。
「おいで。デイビス。ヘンリー・ロー」
兄がやさしい声を出した途端、少しだけ開いていた扉が向こう側から大きく押し開かれた。
ばつの悪そうな表情をした上の弟デイビスと、首を大きく傾げた末の弟ヘンリー・ローがちょこんと並んでいた。おそろいの青い瞳は、見つかってしまった気まずさと、長兄の様子が心配でたまらないのだという不安で揺れている。
「二人とも来てくれてありがとう」
下の弟二人を安心させるように軽く手招きをした。それから長兄は思い切り破顔した。
「さあ、おいで。産地直送、できたてほやほや。ラグお兄様の楽しい演奏会が始まるよ。お席にどうぞ」
兄が椅子を用意しようと寝台から身を乗り出したので、ラグランドは慌てて止めた。自分が使っていた椅子を末弟に譲り、デイビス用の椅子も隣に運んでやった。
三人のお客様が兄弟そっくりの青い瞳を自分だけにまっすぐ向けている。期待があふれているからか、きらきらしている。
ラグランドは頬が緩みそうになったのを堪え、咳を一つ落とした。
それから弓を静かに引き、とっておきの曲最初の一音を転がす。
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