第18話
「何の真似だ、副長?」
叶槻の強張った質問に愛工は余裕の笑みを浮かべて答えた。
「見ての通りさ。あんたには艦長を辞めてもらう」
「何故嘘をついた?外国語が話せないなどと……」
「あんたと一緒にあちこち行っていたら、仲間を増やせないからな」
愛工の後ろにある司令塔から続々と乗組員たちが出てきた。その中には引馬の顔もある。数名が素早い動きで甲板に置いてある小銃を手に取り、叶槻たち上陸隊に向けた。呆気に取られていた叶槻以外の者たちは、ようやく事態を理解して顔を青くした。
「俺の仲間はそこにいる奴ら以外の全員だ。あんたに勝ち目はないぜ」
叶槻は素早く相手方の人数を数えて、愛工の言葉が間違っていないことを知った。
自分が貨物船シルバーキーの臨検や、あの船の乗組員たちを探すために島に上陸している間、愛工は乗組員たちを説得して仲間に加えていったのだ。
思えば叶槻と同行していた兵は皆、初陣の新兵ばかりだった。そのことは彼も知っていたが、ベテランを艦内に配置しておくのは当然だと思い、愛工の人選には違和感を持たなかった。だが、その真意は別のところにあったのだ。
愛工はまず、機関長の引馬を仲間にしたはずだ。元々2人は仲がよいので説得は容易いだろう。次はベテラン兵を仲間に引き入れる。愛工は航海長を兼務しているので直属の部下を持っている。航海班と引馬の機関班にいるベテラン兵が仲間になれば、他のベテラン兵もすぐに加わるだろう。こうしてベテラン兵たちを全て味方にすれば、残る新兵を一気に従えられる。命令でも恫喝でもすれば、経験のない新兵たちは逆らえない。
しかし、それでも彼は信じられなかった。
反乱だと?よりによって、そんなことが自分の艦で?
「腰の拳銃を下に置きな。変な動きをしたら俺は迷わず撃つぜ」
愛工の言葉に従い、叶槻は拳銃を腰のベルトから外してゆっくりとした動作で甲板に置いた。
「何故だ?どうして反乱など?」
「何故だって?俺はな、もううんざりなんだよ。日本っていう国にな」
「お前たちがこの任務に不満があるのは知っていた。だからと言ってこんなことをしても……」
叶槻の言葉を、愛工は心底呆れた口調で遮った。
「何を言ってるんだ。俺たちはずっと前から不満だったんだよ。それこそ、アメリカとの戦争をやる前からな」
「何?」
「俺たち潜水艦乗りはずっと軽んじられていた。潜水艦の本領は通商破壊戦だ。そんなことは30年以上も前からわかっていたのに、上の連中は艦隊決戦の露払いとしか潜水艦を見ていなかった。6年前にドイツが戦争を始めた時、俺たち現場の潜水艦乗りは、日本も潜水艦を通商破壊戦に使うべきだと具申したが、その意見はとうとう認められなかった。アメリカとの戦争が始まっても、俺たちは空母や戦艦を沈めるように命令された。おかげでアメリカの輸送船団は大手を振ってハワイやオーストラリアに戦略物資を運べた。敵の潜水艦は日本の輸送船を片っ端から沈めているのにだ。それが積もり積もってガダルカナルやサイパンを失うことに繋がり、今は沖縄を失おうとしている!」
愛工の言うことに、他の兵たちから次々と賛同の声が上がる。
それを受けて彼の言葉は徐々に熱を帯び始める。叶槻は黙って聞くことしかできなかった。
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