第28話 お姉ちゃんとの朝食

 朝、俺は非常に快適な目覚めだった。


 何故なら今日は朝、俺のベッドに姉ちゃんがいなかったから。1人用ベッドはやはり1人で使うのに限る。いつもは姉ちゃんと2人なので狭く感じるベッドも今日は広く感じる。それが非常に俺には心地よかった。


 昨日の夜、姉ちゃんは今日はオフだと言っていたから何が起こるか戦々恐々としていたが朝の時点では何もない。ちょっと拍子抜けすると共に安心もしていた。


 それに姉ちゃんだって高3。来年の3月には卒業する。一応プロダクションから女子高生アイドルの次は女子大生アイドルになれと言われているそうだしそれ関係なしに本人も大学には進学したいと言っている。姉ちゃんは俺と違って頭が良い。俺達が通っている縁英高校は校則らしい校則もなく出席日数も内申点に影響しない自由な校風の代わりに偏差値がかなり高くテストも難しい。だが、姉ちゃんは普段ほとんど学校に行っていない割にテストでは毎回90点以上をキープし、毎回学年5位以内に入っている。去年やった全国模試もトップ10入りしていたから相当頭脳明晰だろう。後、スポーツも万能、歌も上手く美的センスもずば抜けている、容姿端麗、スタイル抜群は…もういいか。とにかく絵に描いた様な完璧超人、それが我が姉の桐生水沙だ。


 だから大学受験もそんなに心配は無いだろう。むしろアイドルという肩書もあり、自由に行きたい大学を選べる立場だ。そして大学進学となれば、一人暮らしという選択肢も当然入ってくるだろう。ならばさっさと弟離れして貰って自立してもらう方が姉ちゃんにとっても良い話のはずだ。



「あ、連くん♡おはよう~♡」



 自室で制服に着替え、俺はリビングのドアを開ける。

リビングと繋がっているキッチンから姉ちゃんが飛び出した。制服姿にエプロンをしている。そしてその勢いで俺に抱き着く。ぐえぇ!


 やっぱりそれはあるんかい!俺の計算が足りなかったようだ…。



「姉ちゃん、苦しい…!痛い…!」

「ごめんね連くん。今日は朝一緒に寝られなくて。一応、ベッドにはいて一緒に寝たんだけど今日は連くんの為にお弁当作ってあげたくて少しだけ早起きしたの。だから連くんが起きた時お姉ちゃんの顔を最初に見れなくて悲しかったよね。寂しかったよね。でもね、その分お姉ちゃん、腕によりをかけてお弁当作ったからね!期待しててね!」

「分かった!分かったからとにかく一旦離れて…!」

「そうよ水沙。とりあえず連から離れなさい。苦しがってるじゃない」

「えぇ~。そんな事無いとおもうけどなぁ…」



 母ちゃんに制され、渋々俺を離す姉ちゃん。あー、苦しかった。とりあえず俺と姉ちゃんの認識の齟齬も割と何とかしないといけない問題な気がしてきた。姉ちゃんは本気で俺が苦しがってないと思っているみたいだし。このままだとマズい。じゃないと俺の身が持たない。


 姉の抱擁による窒息死が割と冗談じゃない未来になりそうで怖い。

俺の占いは当たらないでほしい。



「連くん。何考えてるの。ほら、お姉ちゃんの向かい。座って座って♡」



 姉ちゃんに急かされてむかいに座る。まぁ、姉ちゃんと俺が向かい同士で飯を食うなんてのはいつの事ではあるのだけど。何だか姉ちゃんは妙にニコニコ顔だ。まぁいつもの事とは言いつつ姉ちゃんと一緒に朝食っていうのは最近だとなかなか無かったからな。



「ほら♡連くんあ~ん♡」



 朝食はご飯に味噌汁、卵焼き、昨日の夕飯の残りの野菜の煮物と高野豆腐。これを見る限り、朝食は姉ちゃんじゃなく母ちゃんが作ったものだろう。味噌汁なんかは母ちゃんがよく朝の分も合わせて夜にまとめて作る事が多いし。

 そして姉ちゃんが俺の分の卵焼きを自分の箸にとって俺に勧めてくる。



「自分で食えるから大丈夫だよ。姉ちゃんは俺の事を気にせず自分の食いな」



 そう言って味噌汁に口をつける俺。何だか姉ちゃんが悲しそうな顔をしている。大袈裟だなぁ。

 斜め向かいで俺達を見ていて母ちゃんが呆れた顔をしている。



「水沙も水沙だけど、連も連で大概ね…」



 何が大概なんだろう?たまに母ちゃんは俺達を本気で不安そうな顔で見てくる事がある。



「母ちゃん何かあるの?」

「いえ、別に。あんたも子供じゃないんだからそれ位自分で考えなさい。それに水沙も水沙よ。そういう事は弟じゃなくて彼氏にやるものよ。あんたん所の事務所、別に恋愛禁止とか言ってる訳じゃないんでしょう」

「え~。何言ってるのお母さん。私は彼氏なんて作る気無いよー!あ、でも連くんが彼氏になるっていうなら良いよー♡」

「弟が彼氏とか無いから」

「酷い!」

「はぁ、何だか朝から頭痛がしてきたわ…」



 額を手で押さえる母ちゃんに何やらショックを受ける姉ちゃん。姉弟で恋人同士とか恋愛とか全く関心も何も無い俺でもそりゃありえないだろうという事位は分かる。

まぁ別にいいか。俺はそのまま朝食を平らげた。



 そして歯を磨き、顔を洗い、玄関で靴に履き替えた時だった。



「連くん。今日はお姉ちゃんも学校だから一緒に行こう♡」



 エプロンを脱いで制服のみになった姉ちゃんが意気揚々と誘ってくる。 


 えー……。

昨日、穂希と行った時はライブの件もあってなんやかんやで別れ別れになったからある意味結果オーライではあったが(勿論、穂希には申し訳ない事をしたとは思っている)、今日姉ちゃんとは特にそういうのは無いし、姉ちゃんも曲りなりにも3年生。道中が不安という事は無いはずだ。


しかも姉ちゃんは中学時代も登下校も学校内でもずっと俺にベタベタしてきた。それで俺は色々やっかみを受けて大変だったんだ。それを思い出してしまいつい警戒してしまう。



「えっ姉ちゃんと?」

「そうなの。ダメ、かな…」



 上目遣いで聞いてくる。つうか姉ちゃん、俺より背高いのに上目遣いとか器用だな。



「ダメじゃないけど、姉ちゃん引っ付くじゃん。それ無しなら考えても良いよ」

「え~。お姉ちゃんは連くんとイチャイチャしながら登校したい~!」

「イチャイチャって…。それで中学、大変だったんだから。姉ちゃんもそこら辺分かってくれよ」

「もうそんなの気にしなくても大丈夫だよ♡連くんは心配性なんだから♡」

「心配性とかそういう話じゃないんだけど…」

「ほ~ら、早くしないと遅刻するよ♡行こっ!」



 そのまま素早く靴を履いて俺の手を引っ張る姉ちゃん。そのまま有無を言わさない勢いで俺は姉ちゃんと共に家を出た。


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