第5話 空虚感
先輩とは連絡もせず、合わなくなり、しばらく空虚感が続いていた。私は、その空虚感を埋めるべく飲み歩いた。
そこで出会った何人もの男性と友達関係になって、中には深い関係にもなった人もいた。でもこの空虚感を一瞬、埋めるだけ。
自分で見つけた病院にも通っていた。
そこでは医師の診察だけではなく、カウンセリングも受けることにした。
はじめてのカウンセリングの先生に、「どんなに人肌が恋しくなっても、どんなに苦しくなっても、男性と付き合うのはやめなさい。」と言われた。実際その通りだ。でも、女の友達と話していても、つまらなかった。空虚感は埋められない。
カウンセリングを受けながら、薬物療法もやっていた。でも、何も変わらない。変えられない。そんな自分が嫌で自傷行為もした。薬を大量に服用し、訳が分からない状態になることもあったり、自分の首を絞めてみたり、時には刃物まで手にすることもあった。
そんな私に医師は、「これはあなたへのおまじない。すべてはよくなる。悪いことは起こらない。嫌な過去は忘れる。この3つを毎日鏡の前で言ってごらん。」
しかし、その時はその言葉の意味が分からなかった。その言葉自体をスルーしていた。
なかなか簡単に私の過去は変えられない。
初恋の人への思い、Kとの生活と気持ちに対しての裏切り、先輩との関係。何もかもが私という人間を作り出していた。自分を消してしまいたいことだけが毎日のように私の心をむしばみ続ける。
私の病気もどんどん進行の一途をたどる。自分ではもうどうにもできない状況だった。自立支援の施設にも入り、自分と向き合うことにした。
その時であった看護師さんからは、「いつもふわふわした感じだよね。地に足がついていないという感じ。」
そうだ。その通りなんだ。自分が何者かさえわからない。これからどうしていけばいいのかもわからない。唯々、時が過ぎていくのを待っていた。
人生という渦の中に身を任せることも一つの解決方法という言葉を思い出す。「川の流れに身を任せ」そうすることで自分を肯定化させた。
空虚感を埋めるべく付き合った男性たちの中に、彼女のことが忘れられなく、私の気持ちを理解してくれたYという人がいた。長身で、ハンサム。どんな女性でも、告白されれば好きになるだろうというプレーボーイという言葉がしっくりくる人だった。告白する女性も数多くいただろう。そんな彼がなぜか私にすごく興味を持ってくれた。
彼は、初めて付き合った女性を裏切り、自分が犯してしまった罪の深さ…に苛まれつつも、いつか彼女が、別れてたことに後悔するような自分になっていたい。そして、私のことも応援してくれた。初恋の彼を忘れられないこと、Kとの生活、先輩との関係…空虚感を埋めるために飲み歩き、体の関係を持ち自分の存在を確認しているそんな私を、彼は理解してくれた。その彼とは1年半付き合った。深い関係にもなったが、お互いに完全に割り切っていた。好きという言葉はいらない関係。互いの犯した傷を癒すかのように…求めることもあった。共通の理解は、本当に愛する人とセックスをしたい。でも今だけ…許してほしいという願いで行為に及んでいた。しかしこれも裏切りでもあり、空虚感を埋めるものでもあったことに違いはない。
「こうやって私と寝て満足する?」
「おまえといると、すごく癒されるんだよ」
「でも、彼女裏切ってる。わたしも、自分の気持ちや、周りを裏切ってる」
「そうだよな。お前はどうなんだ。」
「私もあなたと一緒。癒される。身体もすごく満足する。正直、今の関係が心地いい。できればこのままあなたと…」
「ダメだ、自分をもっと見ろよ。それと、大切にしろ。俺なんかと寝てちゃダメだろ。俺も悪かった。」
彼はそういって、ベッドから立ち上がった。
暖かみの残るベッドで私は泣いた。
彼はベッドのそばに座り、頭をなでながら、
「ごめんな。お前の気持ちには答えてあげられなくて。こんな俺でごめん。」何度も何度も謝っていた。
それでもYと付き合いをやめず、消えない空虚感を埋めるために、私はインターネット上で友達を求めるオフ会にも参加していた。何度か参加した中で、一人のTという男性と出会った。最初の印象は、大人しそうに見えながら私が席を移動しても、一緒に席を移動して、話もまずまず弾んだが、ここだけでもう二度と会うことはないだろうと思っていた。一応、電話番号とかではなく、ネット上でのフレンド交換をした。
Tも人生の中でいろいろあったのであろう。私は詮索もせず、ただ普通にあいさつを交わす程度になっていた。話を聞いたところ、Tの実家がものすごく私の家の近所にあることを知った。しかし、私の気持ちは、「あ、そうなんだね。」程度だった。
それもこれも、もう二度と人を好きにはならない。好きになってしまうと、自分が傷つくだけでなく、人も傷つけることになる。それがわかっている。だからこの人はその場限り。
そんなことがありながらYとの関係は辞めずに続いていた。私にとって一番心地よかったから。時々食事をしたり、Yと一緒に料理を作って、家飲みしたり…会えないときには、近況を報告しあう仲がちょうどよかったからだ。
「いまどうしてる?」
「おまえこそ、旦那いるのにこんな時間にSkypeしてて大丈夫なのかよ。俺殺されない?」
「ちゃんと自分の部屋。もう、寝てるよ。気遣ってくれてありがとう。」
「俺さ、お前に会いに行きたいよ。」
「また、会えるじゃん!今度は家でご飯だよ。」
「そうだよな。家で何作る?子作りか?」
「バカじゃない、もうしないってお互いに決めたじゃん。やっぱり気がかわった?」
「わかってるよ!お前の困った顔も俺、好きだよ」
…好き、好き、好き…
わかってるよ。わたしも、本当は好きだから。
「そんなこと言っちゃっていいわけ?本気にしちゃうけど」
「お前、早く自分の周りを整理しろよ。そうしないと、俺が消えるぞ」
これって…告白なの。
「わかってるよ。」
Yとの何気ないやり取り。お互いの気持ちが近づいていくのがわかったが、何かを得るためには何かを犠牲にしなくてはいけないということがわかっていた。
私はKに離婚を切り出すようになっていた。
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