17本の薔薇

静生納言

第1話 約束

 人はいろいろな出会いをする。

 人生を送る中で、必ずいろいろな形で人と出会う。初恋や、恋人として…あつい出会いをすることもある。

 そして大人になればなるほど出会って来た人と自然と別れていることもあるけれど、その出会いの中で忘れられない出会いもいくつかあるだろう。


 まだ私が、子供のころに出会った人の話。その人は私よりも10歳も上の大人の男性。なぜかわからないが、その人のことをすぐ好きになった。夕日のあたるグラウンドでサッカーをしていたその人のことがいまだに目に焼き付いている。この人との出会いを大切にして、この人に自分の気持ちをきっちりと伝えていれば私の今の人生は全く180度変わっていたとまでいえる。でも、もういまさらそのことを言っても仕方がない。過去に戻ることはできないからだ。

 いわゆるこれが初恋。私が小学校から成人し、30歳ぐらいになるまで、私は彼が好きでした。今でも彼は特別な存在。彼以外に、好きな人ができてもいつも比べていた。そして、自然消滅。そんなことを繰り返していた。

 

『きみが20歳になったら会おう。』


 まだ私が13歳ぐらいの時の約束だった。彼はそのころ私の家庭教師をしてくれていた。うすうす彼自身も気づいてはいたのだろう。このことは40過ぎてから別の人から聞くことでわかるのだが、私がなぜ、告白しなかったのかということを言われた。

 今は携帯やらスマホやら…連絡手段はいろいろある時代だが、当時は手紙、宅内に取り付いている電話ぐらいしかない。年に1度の年賀状に自分の思いをしたためていた。会いたいですと…。しかしその答えはずっと来なかった。


 そんな日々を送り、自暴自棄のような状態で、家にはいたくない、帰るのも嫌、バイトをして毎日遅くまで家には帰らなかった。

 そんな時にやさしく声をかけてきたのは、高校時代の教師であった私の夫であり、助けてくれた人、そして、再婚する相手でもあるKとの出会いでまた人生の歯車が変わっていった。この出会いは決して悪いものではないことは後々述べていくが、実家から出たかった私は、しっかりとした仕事についていて、収入も安定、高学歴、そして、趣味が同じKであれば、きっと自分は幸せになれるだろうと思い、年齢差もあったのだが、20歳での結婚を決めてしまった。


 約束の20歳


 あっという間に20歳になっている自分がいた。あの夕日のグラウンドで出会ってからは、もう10年は経っている。約束をしてから7年。もう忘れているだろうと思っていた。なぜなら、高校に入ったときに、彼は女性と仲良さそうに楽しそうに話しながら、歩いていた。私はとっさに隠れて、その場から離れた。それが一番自然な形だということはわかっていたからだ。

 淡い初恋はこうやって終わっていくと思っていた。でもいつも彼のことは忘れたことはなかった。

 絶対守られないであろうと思っていた約束にも関わらず、20歳になったときそれはやってきた。二人で会いたいと話したが、それは叶えられなかった。彼に仕事が入ってしまい会えなくなったからだ。

 そして、お酒の席に誘われていったときにKと結婚することを伝えた。彼は、


 『きみが君らしく入れる人なら僕は反対しない。もし、きみが君らしくいられないなら・・・』


 それ以上の言葉を私はさえぎった。

 『Kは収入も安定し、仕事も安定している。そして、私は頭がいい人と結婚したい。大学を出ているだけではなく、それ以上の学力をもって、大学院もでていて自分を突き詰めている人なので、大丈夫です。』と…。ただの悔しさから出た言葉だった。初恋との決別をしようと思い、出た言葉だったが、彼に言われた『私が私らしく入れる人』これが呪縛のように私を苦しめることになった。


 出会いは不思議である。そして、時として純粋な出会いは、誰にも言えない気持ちを深く追いやることもある。

 若い頃の出会いは皆、純粋。セックスに溺れるわけでもない。ただの純粋で好きという気持ちだけでも十分な世界。だれもが穢れのない出会いをしていたのではないだろうか?


 歳をとるごとにある出会いと別れを繰り返し大人の階段を上っていく。

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