第34話 尻込み
(この特殊フィールドは、外と比べてかなり身体が軽く感じられるけど、無重力ではない。それなのに、隊員達は、宙を浮いているなんて! いや、正確には、飛んでいるんだ! どうしたら、そんな事が出来るようになるんだ?)
疑問に駆られながら、変身した隊員達の姿に目を奪われ続けた颯天。
目を凝らして見ているうちに、彼らは、既に人間の身体をどこにも留めていない事に気付いた。
(変身というのは、人間の原型から全く変わってしまっている事だったんだ! 空を舞うように動いている、その姿は……まさしく龍!! それも、日本の絵画に出て来るように長いのに、西洋の龍のように翼が有る!)
ビーストに
「見事なものじゃろ! 研修中に、こんな機会が振りかかるとは、君達はとてもラッキーに他ならない! 君らの中にもまだ何人かは、彼らに続く選ばれし者がいるのやも知れぬ! 変身した彼らの戦いぶりをしかと目に収めよ!」
龍となった隊員達を崇拝しているように自慢気な芹田。
(僕らの内のまだ何人か……? まだ……って事は……? まさか、もう雅人が……? 雅人も既に、この龍体の隊員達の中にいるという事なのか……?)
「私は、光栄です!! こうして変身後の隊員達を目の当たりに出来るなんて!!」
他の訓練生達は、変身という件について、どう受け止めてよいか分からず、まだ戸惑っている様子だったが、千加子だけは、予め知っていたかのように、すんなりとこの現状を受け入れていた。
(龍の姿……! 変身というのが、龍になる事で、既に雅人もそれを成し遂げている段階なのかも知れない……! 変身が、龍に変身する事で、雅人も龍に変身済みかも知れないのに、浅谷さんは、どうして、そんなに驚きもしないでいられる? まさか、浅谷さんは、もう、身体のどこかに変身の徴候が見え始めているのだとか? もしかして、雅人も、それが見られたから、僕らの訓練生の中で一早く、隊員に昇進できたのだとしたら……?)
その憶測が正しいなら、雅人が突然、訓練生から隊員に大抜擢された理由も、納得が出来た颯天。
千加子以外の訓練生も、颯天ほどは、変身に関して大きく動揺しきっている様子など見られなかった。
(龍に変身するなんて、冗談じゃない!! そんなの無理に決まっている!! 少なくとも、不正をして何とかここにいる僕には、絶対に無理でしかない!!)
このような自分の中の常識を遥かに逸した状況下で、颯天は、自分がここで見学している事自体、間違っているように思えて来た。
足が
「待て、宇佐田君!」
十分な距離を保ってから走り、気付かれていなかったはずが、颯天の肩に手を置いてきたのは、自分達訓練生より明らかに体力的に劣って見える芹田だった。
「芹田先生……」
(どうして、僕は、訓練生達ならともかく、芹田先生に追い付かれているのだろう……? あの時はまだ気付かれてなかったはずだし、気付かれていたとしても、少なくとも芹田先生には追い付かれないくらいに、距離が開いていたはずだったのに……)
芹田の意外な察知能力と機敏な運動神経に驚きながらも、決まり悪そうな様子で、顔を背けた颯天。
「どうしたんだ、宇佐田君? さては、トイレを済ませてなかったのかね?」
「違います……! そんな事じゃないです。その、僕は……今更ながら、僕も、ここにいるべき人間ではないと分かったのです!」
もう、これ以上、自分の不正を偽り、訓練生として残ろうとしても、無駄だと悟った颯天。
「まあ、隊員達のあんな見事な変身ぶりを目の当たりにしたんじゃから、
颯天の恐怖心を取り除こうと、優しくなだめた芹田。
「あの……それも有りますが、僕の場合は、それだけではないんです!」
「まあ、それも、今度、ゆっくりと聞かせてもらう事にしようかね。取り敢えず、今はまだ研修中だし、またとない大事な現場実習の機会なのだから、君は現場に戻るべきじゃろう!」
差し障りの無さそうな口調で、颯天を現場へ連れ戻そうとした芹田。
「いえ、ダメです!! 僕は、無理なんです!! あんな龍に変身なんて、僕には出来るわけが無いんです!」
「変身能力は、そのうち現われて来るものじゃが、誰もが、その時までは、無理だと思い込んでいるものじゃ。しかしながら、超sup遺伝子所持者である君達訓練生は、諦めずに訓練していると、いつかその才能が開花する事になるに違いないから、安心されよ!」
「違うんです!! 僕……僕は、超sup遺伝子所持者じゃないんです!」
芹田が超sup遺伝子所持者という言葉を口にしたことで、颯天の後ろめたさは頂点に達した。
今まで、自分の開花を信じて隠し通していたが、あの隊員達の龍体への変身を目にして、もうこれ以上、隠し通して行ける自信は失ってしまっていた。
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