第30話 ジャンプスーツ&ヘルメット

「研修生の諸君らにとって、これから目にする事は、非常に大切な事になるから、よくよく気を引き締めるのじゃよ! ただしだな~、え~、ここから先、見聞きする事は、全てトップシークレットだから、くれぐれも他言無用と心得よ!」


 芹田先生の言葉に対し、颯天はやてがこんなにも胸が躍らされるのは初めての事だった。

 普段の睡魔を寄せ付けずにいられない古典の授業とは、全く別物に感じられた。


(いよいよだ! 僕も遅ればせながら、いや、それでも、雅人と同じ土俵に立つなんて事はまだまだだけど、取り敢えず、少しは地球防衛隊の人々の活動に近付く事が出来るんだ! 緊張するな~!)


 劣等生という自覚の有る颯天ですら、これほどいつになく高揚しているのだから、級友達はいかほどかと思い、振り向いてみた。

 千加子はもちろん他の研修生達も、颯天以上に、この時を待っていた様子が、顔の表情に認められた。


「もちろん、大和隊や大和撫子隊の先輩達は、もう既に、そちらに集合済みなんですね?」


 千加子は目標に一歩近付いたという手応えと、意中の雅人に会える事を期待し、他の研修生達に比べ、一層ときめきの面持ちを隠せなかった。


「無論じゃ! 彼らは、昨日のうちから、いつでもすぐに現場に向かえるよう、仮眠用スペースで待機していたのじゃからな」


(ここには、隊員用の仮眠用スペースも有ったんだ! 雅人は、昨日、そこで寝泊まりしていたって事なのか。そして、大和撫子隊も既に駆け付けている! それなら、昨日の今日だから、まだ現役の透子さんの姿を見られるのかな? 今だけかも知れないから、目の前で、大和撫子隊として従事している透子さんの姿をしっかりと焼き付けておきたい!)


 特殊フィールドの場所へ向かう前に、研修生達は、重装備をさせられた。

 宇宙服のようにはモコモコしていないが、全身を覆う若草色のジャンプスーツと、酸素が送られる特殊ヘルメットを装着する事になった。

 

(こんな姿をしないと、僕らは特殊フィールド内では生きてゆけないんだ! 隊員達の活躍をじかに見られるのは嬉しいけど、残念なことに、皆がこのジャンプスーツ姿だったら、誰が誰か分からない! 透子さんがいても、見分けが付かない可能性が大きいな……)


 せっかく、除隊前の大和撫子隊として活躍する透子を見られると喜んでいた颯天は、一気に意気消沈した。


 それでも、ふと千加子の方を見ると、気落ちしていたものが少し和らいだ。

 ジャンプスーツはわりと体形差が分かりやすい仕様で、千加子が、もう一人の女性研修生である寧子より、一回りほど体格が良いせいか、二人だけを見比べた場合は、容易に区別が出来る事に気付いた。


 芹田に関しても、当然ながら研修生達と同じ色ではなく、芹田は灰色のジャンプスーツを使用していた。


「大和隊や大和撫子隊の方々も、私達と同じようなジャンプスーツとヘルメット姿で勢揃いしているという事なんですか?」


 千加子も確実に雅人を探そうと、今のうちに情報収集しておきたい様子。

 

「わしも、君らとは、色が違うように、隊員達は、違う色のジャンプスーツを使用している。研修生と同じ姿をしていると、君達を危険にさらす事になりかねないからな、そこは明確にしておかないとならない。君らのジャンプスーツも適応出来るよう特殊シールド加工済みだが、隊員達のは更に、戦闘用として耐久性が強化された仕上がりになっている」


 その返答を聴いても、千加子は不満そうだった。

 自分達との違いが有るのは良いが、隊員達は揃って同じジャンプスーツを装着し、ヘルメットで人相を隠しているのなら、やはり、よほど身体に特徴のある場合を除き、区別は出来そうになかった。


(透子さんも、幕井さんと同じように小柄だから……浅谷さんのようにガタイの良い輪野田わのださんとの体格差で、その2人が並んだ場合はジャンプスーツ姿でも区別出来ると思うけど、他の大和撫子隊の人達は細身の女性が揃っていそうだから、判別はなかなか難しいかも)


「芹田先生は、その同じジャンプスーツ姿だとしても、大和隊員や大和撫子隊員のどなたか認識する事が出来ますか?」


 千加子は、質問を変えて、自分の知りたい核心に近付けた。


「そりゃあ、わしなら分かるわい! わしは、こう見えても、長年、現場に出入りしていた人間だからな! だが、君達には難しいかも知れないな。彼らの特性や動きを知っていないと」


(特性や動きとは……? 同じような姿をしていても、その特性と動きとやらで、芹田先生は、彼らを見分ける事が出来ているのか? だったら、そんな事を把握出来てない僕らには、区別する事なんて不可能そうだ……)


「特性ですか……例えば、ついになっている存在の場合は、他の人には分からなくても、対になっている相手同士には、何か赤い糸のような特殊な物で繋がっていて、分かるようになっている事って、有りますか?」


 気持ちは分からないでもないが、このに及んで、千加子の質問内容に面食らう颯天。


(浅沼さん、こんな時なのに、そういう質問を芹田先生に向かってするなんて、どこまで妄想と自己主張が強い人なんだ!)


「ははは! 浅沼君は、しっかり者に見えて、実は、けっこう夢見がちな女性なんだね~! 残念ながら、わしは、まだこの人生において、そういう対になるような相手とは出逢ってないから、そういった感覚などは分からないのだが。まあ、仮にそんな事が有るとなると、面白いかも知れぬな~!」


 千加子の発言が耳に入っていた研修生達も、芹田につられて笑い出した。

 夢見がちと言われ、他の研修生達にまで笑われたのがよほど恥ずかしかったらしく、千加子は赤面して俯き、それ以上、言葉を発する事はなかった。


(さすがの浅谷さんも、芹田先生にそうまで言われて、自分より格下と思っている他の研修生達からもこれほど笑われたら、持論を引っ込めるしかないよな。でも、そう簡単に引き下がるとは思えないのが、浅谷さんなんだけど……)

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