第23話 雅人の見解

 トレーニングのつもりで向かった運動場では、千加子の暴走的な妄想に付き合わさせられ疲れたが、それでも締め括りには、その疲れを一掃させるような透子の笑顔を見られ、ご機嫌状態で寮に戻った颯天はやて


 入浴後にいつも通り、今日の報告と千加子からの依頼を思い出しながら、雅人の部屋へと向かった。


「えっ、俺と浅谷さんが、魂の片割れ同士……? マジか? 浅谷さん、てっきり優秀な女性だと思ったのに、どうしたら、そんな発想に至ったんだ?」


 先刻、浅谷の発言を颯天が耳にした時と、同じような反応の雅人。


「やっぱり、驚くだろ~? 浅谷さんは、女の勘なんて、胸張って言っていたけど。多分、自分の能力に釣り合う相手として周りを品定めしたら、雅人に白羽の矢が立って事なんだろうな。僕なんか浅谷さんの足元にもおよばないだろうから、 しょぱなから論外だろうけど。で、雅人、下手な男よりもよっぽど剛腕な浅谷さんに選ばれた感想は、どうなんだ?」

 

 浅谷に念押しされていた手前、一応、雅人にとって、それは喜ばしい事なのかを確認しようとした颯天。


「そもそも、感想も何も……なぁ? 颯天だって、分かるだろ? 確かに、浅谷さんのその独特な発想は、少しくらいは面白いとは思うよ。けどさ……そんな能力第一主義的な発想で、勝手に相手と決め付けられても、あまり嬉しくは感じられないよ。俺は、例えそれが、ずっと俺の横恋慕で終わるとしても、花蓮ちゃん以外は考えたくないから……」


 颯天と雅人は、共通点があまり無かったが、好きな相手に対しての一途さだけは同じだった。


「雅人だったら、そうだろうな。僕も、その事が分かっているつもりだから、何度も浅谷さんに断っておいたけど、浅谷さんは断固として認めたがらないんだ! 浅谷さんの頭の中は、魂の片割れとか、何て言ってたっけ……? ツインタワーでも無いし、なんか魂の片割れと同じようなニュアンスの言葉が、ちゃんと横文字でも有るみたいで、もう、それ一色に染まっているんだ! あんな風に、一方的に決め付けられて想い込まれたら、雅人に対して、同情せずにいられないよ……だから、今の雅人の返答をそのまま伝えても、きっと、僕の説明が下手だったせいだって、浅谷さんに僕が恨まれそうな気がする。とにかく、あれだけの能力者だからさ、圧倒されるほど自信過剰だし、意固地だし、僕の言葉なんかは、聴く耳持たないってさ!」


 先刻の千加子の剣幕を思い出しながら、溜め息をついた颯天。


「分かったよ、颯天! そんな事にならないように、俺から直接、浅谷さんに伝えるから」


 自分が関係する事で、颯天に巻き添えを食らわせるのは忍びない雅人。


「えっ、大丈夫か、雅人? 僕は、何となく、あの浅谷さんのヤバイ人柄に慣れたというか、さっきのでも随分、免疫付いたけど。雅人は、今まであまり関わった事が無いだろ? トラウマになって、お前のせっかくの能力が右下がりになったらどうするんだ?」


「大丈夫だって! 女の子の扱いは、俺の方が……う~ん、慣れてないけど、まあ何とかなるさ!」


 いつも有用な面ばかり見せていた雅人にしては、珍しく頼りなさそうな声音に感じられた颯天。


「ホントに、ああいう思い込みの強い女って、まいるよな~! 事の発端は、今日の古典の授業内容だったんだけど……あっ、そうそう、雅人に聞きたかったんだ!」


「古典か~、俺も苦手だ~!」


(そんな言いながらも、雅人の苦手は、僕の得意よりも勝っているっていうのが、シャクに触るな~!)


 内心そう思いつつ、雅人をあてにして尋ねる颯天。


「古典の授業でさ、あのオリンピックと似たような5色の話が有るだろう? あれって、一体何の事なのか、雅人は分かったか?」


「ああ、あれね~、かなり重要な箇所なんだってな」


 颯天のあやふやな説明でも、即座に、古典のどの内容なのかという事が、ピンときた様子の雅人。


「僕は、あの授業は眠くてウトウトしていたから、余計、分からなくなっていたけどさ……それまでは、バシバシ発言しまくっていた浅谷さんでも、その時には思い付かなかったんだ。けど、さっき運動場で話した時に、白と黒というのは、陰陽の事だとか言い出したんだ」


 陰陽と聞いて、やはり太極図を連想させ、ポカンとなった雅人。


「陰陽って、あの白と黒の勾玉が円の中に納まっているやつか?」


「なんで、そんな事になるのか分からないけど、浅谷さんは、自信たっぷりに自分の推測を語り出したんだ。その白と黒の陰陽は、魂の片割れ同士の事だって言い出して……つまり、浅谷さんいわく、それが雅人と浅谷さんみたいで、これからは、緑から、白と黒である2人が統べる時代がやってくるって。あの古典は、その預言書だとか言ってた」


 千加子の発言を思い出しながら、雅人にそのニュアンスを伝えた颯天。


「そこまで妄想できるって、ある意味、スゴイよな!」


 そこまで聞くと、さすがに呆れ顔の雅人。


「だろう? なんか、怖くならないか? あの古典から、そんな解釈が出来る浅谷さんも。もしも、その預言が本当なら、次の統率者が僕らの世代にいるかも知れないって事も。僕の隣で聞いていた透子さんも、浅谷さんの言葉に驚いていた」


 透子の名前が、颯天の口から出た途端、雅人の目の色が変わった。


「あれあれ~っ? 颯天君、どうして、新見さんが隣にいたのかな~? 俺は、浅谷さんの話よりも、その事の方が、よっぽど興味有るんだけどな~!」


 颯天の肩を手の平で何度か押し、冷やかしてきた雅人。

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