第90話 投げなきゃゴールは入らない
「さてと、点呼は終わったから自由に行動していいぞ。時間になったら集合するように」
今日もお休みらしい担任教師の代わりを務めてくれる
「公園は広いけど、先生たちも旧館の方へは行くなって言ってたわね」
「最近、建物が建て変わったらしいね。向こうは今取り壊し中だから危ないみたい」
「それだったら、新館の方に行ってみる〜?」
3人でそんな会話をしている中、一人少し離れて立っている
同じ班なのにどうして混ざりに来ないのか、その気持ちが瑞斗にはよく分かった。
「前田くんってあんまり人と頻繁に接するタイプじゃないのかな?」
「え、あ……ごめん、そうかもしれない……」
「どうして謝るの、僕も同じだから。いきなりあんまり話したことも無い人と同じなんて、気まずくて着いて行きづらいよね」
「そう……そうなんだ。僕って人と話す時に緊張しちゃうって言うか、自分に自信が無いせいで何をやっても上手くいかないって言うか……」
前田くんは少し早口でそう言った後、「あ、ごめん。僕ばっかり話して」と黙ってしまう。
確かに彼は背が高くてお世辞にも痩せていると言える体型ではないけれど、話したからこそ優しい心の持ち主だと知ることが出来た。
同じく積極性に欠ける瑞斗も、前田くんとなら仲良く出来る気がしている。
せっかくこうして学校側が機会を用意してくれたのだ。せめてこの4人でだけでも、緊張せずに話せる空気を作ってあげたいと思った。
「そうだ。前田くんはスポーツは得意?」
「得意ではないけど、嫌いじゃないかも……」
「それなら新館の方に行こうって話になったんだけど、そこで球技でもしてみる? 色々あると思うから楽しめるかも」
「そんな、合わせてくれなくても……」
「それじゃあ、僕たちが行きたいから着いてきてくれるかな?」
前田くん自身が言った通り、彼は自分の発言にもあまり自信を持つことが出来ないらしい。
こういう相手の本心を汲み取ることは簡単ではないが、だからこそ『こちらの意見だ』と示して強引にでも行動に移す方がいいのだ。
……とまるで我が物顔で披露してはいるものの、これは公園に来るまでに玲奈から教えられた仲良くするテクニックのひとつである。
予想以上に上手くいったようで、彼は笑顔で頷いて移動する僕たちに着いてきてくれた。
時間はかかるかもしれないが、とりあえず第一関門は突破して次の段階に移れたと言っていいだろう。
「今空いてるのは卓球とバスケ、バドミントンの3つだってさ。私、バスケに一票〜!」
「私もバスケがいいわね」
「前田くんは?」
「えっと、なんでもいいかな」
「それなら僕が何に入れても多数決で負け確定だね」
そういうわけで、瑞斗たち4人は初めにバスケをすることになった。
まだ他に人も居ないようなので、コートを半面占領してシュートの練習でもしてみる。
「左手は添えるだけ」
そんなどこぞのバスケ漫画のセリフを口にしながら投げてみるも、放たれたシュートはリングにすら届かずに床に落ちてしまった。
玲奈はスリーポイントラインの外側から綺麗な弧を描いたシュートを決めていて、
一方、みんなの様子を見ているだけだった前田くんはと言うと―――――――――――。
「ほら、前田くんもやってみて」
「わ、わかった……」
急かされてドリブルを始めた彼は、少しぎこちない足取りでゴール下まで移動すると、その身長を活かして綺麗なレイアップを決めた。
さすがは高身長、妬ま……いや、羨ましい。3人がすごいと褒めても、天狗にならずに嬉しそうに照れるところがまた彼のいいところだ。
だが、そんな彼らが自分たちの様子をしばらく伺っていた4人組がいることを知るのは、もう少し後のことである。
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